最後の記憶

最後の記憶 『最後の記憶』

綾辻行人

判型:新書判

レーベル:カドカワ・エンタテインメント

版元:角川書店

発行:平成18年1月31日

isbn:4047881732

本体価格:838円

商品ページ:[bk1amazon]

KADOKAWAミステリ』誌上に連載され2002年に単行本として刊行された、綾辻行人初の“本格ホラー”を新書化。

 波多野森吾の母・千鶴は急速に惚けていった。発症前に一時的に驚異的な記憶力を示したあと、白髪が増えるのに伴って1・2年程度で記憶と感情とを失い、絶命する箕浦=レマート症候群――通称“白髪痴呆”という診断である。航空力学の分野で大学院まで登りつめていた森吾であったが、その病が<家族性>であることへの恐れから勉強が手につかなくなり、自棄的になって研究職を退いてしまう。そんなさなかに再会した幼馴染み・藍川唯の薦めで、千鶴の病が家族性であるのか否か――つまり、自分の係累に他に白髪痴呆を発症したものがいないか、森吾は調べることになる。母の記憶が日ごとに削り落ち、幼い日の恐怖の映像で占められていくのを感じながら、森吾は母の、思いがけない過去を知ることとなる……

 親本で読んでいるが(感想はこちら)、ふと思い立って再読した。久々に読んでの印象は――正直、長い。

 基本的にはさほど込み入った内容ではないのだが、叙述が全般に長い。一人称人物のネガティヴな慨嘆や詩的な叙述が続き、なかなか話が進まない。なまじ一度読んで、その終盤ぐらいは朧気ながら記憶していただけに、よけいもどかしい思いをさせられた、というのが正直なところだ。

 そのぶん、異様な感覚の構築はじっくりと丹念に行われている。研究から退いた森吾の身辺で発生する不穏な出来事の数々、妹の出産という慶事にも感じずにいられない<家族性>の病への怯え、我が身にもいつか降りかかるかも知れない痴呆への恐怖、そういったものをじわじわと、状況の積み重ねによって描いていく、執着的な筆捌きは著者らしい味わいに満ちている。

 特殊な発想を背景に盛り込みながら、絵解き自体は理詰めで行われているのも本格ミステリに基本を置いている作者ならでは、という趣がある。曖昧であって構わないものは曖昧に留めながら、ひととおりはカタルシスを演出しようとする姿勢は評価できる。

 色彩をふんだんに盛り込んだ描写が、どこか映像を激しく意識しているが、しかし終盤の絵解きの都合もあって、やはり文字でしか味わえない種類の幻想的なホラーと言えよう。前述のとおり、少々叙述に間延びした印象があるので、読む場合はよほど丁寧に文章を吟味してじっくりと鑑賞するか、時間を取って一気呵成に読み切ることをお薦めしたい。

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