稲川淳二の怖すぎる話 北側の扉が鳴る

稲川淳二の怖すぎる話 北側の扉が鳴る 稲川淳二の怖すぎる話 北側の扉が鳴る』

稲川淳二

判型:文庫判

レーベル:竹書房文庫

版元:竹書房

発行:2006年6月6日

isbn:4812426960

本体価格:552円

商品ページ:[bk1amazon]

 毎年夏恒例の稲川淳二氏による怖い話の書籍版、2006年の1冊目である。ある歌手が巡業先の旅館で体験した話、若いテレビスタッフが実家で経験した話、或いは著者自身が恐怖の現場を訪ねる企画の最中に実際に遭遇してしまった怪異など、全15篇のエピソードを収録する。

 どうやら全篇書籍初収録、というのは間違いではないらしいが、もはやどこかで聴いたような話の類型ばかりで、正直あまり怖くはない。しかも尺を使って、擬音などをふんだんに採り入れた作品ほど怖くない傾向にあるのは――やはり著者自身の語りで聴いて初めて効果を上げるもののほうが多いからなのだろう。毎年書いている気もするが、著者の声を思い描きながら読むのが一番であり、そうすることが出来ない、そういう読み方が厭、という方に稲川氏の書籍は向いていない。

 ただ今回については、10ページ足らずの比較的短めなエピソードにちょっと優秀なものが認められたことは言い添えておきたい。著者自身が体験したちょっと異様な話『クボさん』、導入で予測されたものとは違った方向へ転がる展開が面白い『旧伯爵家の別邸』、若いスタッフが話してくれた怖くも少し哀しい話『猫』などは、基本構造こそ凡庸でも、話の流れにちょっとした意外性があるので読み物として興味が惹かれる。やや長めの話でも、『笹塚のマンション』はその結末の薄気味悪さが秀逸だった。

 語りをそのまま文章に起こしているため、筋がとっちらかっていたり推敲が足りなかったりという点が多々見受けられ、またしつこいようだが著者の口調が思い浮かべられないといまひとつ楽しめないといった欠点があるが、それはそれで承知していれば受け止め方はある。近年の、特にこの竹書房のシリーズは闇雲に擬音を並べて行数を稼ぐことをしていないので、そのことだけでも印象はいい。

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