『百物語 第五夜 実録怪談集』
判型:文庫判 レーベル:ハルキ・ホラー文庫 版元:角川春樹事務所 発行:2006年7月18日 isbn:4758432457 本体価格:600円 |
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毎年恒例となった感のある、平谷美樹氏自身とその周辺の体験談をまとめた怪談集、第五巻。今年は新たに岡本美月氏を執筆者として招き、二人体制での刊行となった。
――とはいえ、基本的に平谷氏の人脈で取材を行い、文章に起こす作業をやや岡本氏中心で行ったもので、内容・傾向において従来と大幅な違いはない。ゆえに、例年私が指摘している欠点――選別せずに掲載しているために誤解や現実的な解釈をする余地の大きいエピソードが過剰に収録されていること、内輪の話や直接怪異と関わりのない出来事まで書いてしまっているために恐怖も不思議な印象も散漫になってしまっていること――はそのまま残っている。 また、内容から「だ・である」調で執筆しているのが平谷氏、「です・ます」調が岡本氏というのは解るが、そういう風に理解できるようにした意図が不明だ。いちいち文体が変わるので読んでいて落ち着かないし、平谷氏と岡本氏とでは内容に対する踏み込み方が異なり、文体の違いがそれを際立たせているために統一感を欠く結果となっている。『新耳袋』のように、必要な箇所以外では文体をほぼ一致させ、共著者のいずれが執筆しているのか判然としないくらいにしろ、とまでは言わないにしても、両者で分ける必然性ぐらいは用意して欲しかったところである。 加えて、これが初めての実話怪談であるせいか、岡本氏担当分には怖さも凄みも感じられず、そもそも怪談の書き手としての演出力に乏しいことも問題だ。平谷氏にしても、私の観点からすると怪談の書き手としてはあまり達者とは言い難いが、それでも要所要所で肝は押さえているので、読んでいて安心感はある。今後平谷氏は前に出ないことを明言されているだけに、もしこのまま岡本氏が引き継ぐのであれば、いまの文章力では甚だ心許ない、と言わざるを得ない。特に、自身の経験談として記した3つのエピソードの薄さを思うと、これまで以上に期待はしづらくなる。 密度の薄さ、焦点の曖昧さなどの問題点を払拭するためには、やはり本気で取材を重ねて、豊富な素材から厳選された百話であるべきだろう。現状でも第六章第四話『釣りの帰り道』や第七章第二十五話『走る声』のような、怪談ズレした私も唸るような展開のあるエピソードが鏤められているものの、こうした良質の、印象深い話がより高い密度で収まっていなければやはり“怪談集”としては物足りない、と言うほかない。少なくとも、怪談のスキルを語るのに“霊感”などというものの有無は関係ない、どころか“霊感”があると語る人の怪談はさほど使い物にならない、と悟るまで取材を積み重ねたうえで、次巻は刊行していただきたいものである。 |
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