くの一忍法帖 風太郎忍法帖(5)

くの一忍法帖 風太郎忍法帖(5) 『くの一忍法帖 風太忍法帖(5)』

山田風太郎

判型:文庫判

レーベル:講談社文庫

版元:講談社

発行:1999年3月15日

isbn:4062645599

本体価格:571円

商品ページ:[bk1amazon]

 講談社文庫版忍法帖第五回配本。オリジナル版は忍法帖として4作目に当たる。既に忍法帖というスタイルを確立していた風太郎が、更に"くの一"という概念を世間に浸透させた一作。

 大坂夏の陣から駿府に帰還した家康を待ち受けていたのは、豊臣秀頼落胤を胎内に宿した女が存在するという、震駭すべき一報であった。真田幸村が己の麾下である五名のくの一に命じ、落城間近の大坂城内にて秀頼と交合させ懐胎せしめたのである。しかもそのくの一たちは、劫火に包まれた大坂城内から救出された千姫と共にあるという。一度は政略結婚の犠牲にした孫娘ながら、それ故に千姫に対して引け目のある家康は、服部半蔵の招聘した伊賀鍔隠れの谷の忍びの者たち五名に、秀頼の落胤を宿したくの一たちを探索し、千姫に悟られぬように誅戮せよ、と命じる。一方、陥落寸前の大坂城から千姫を救出した坂崎出羽守は、その節の功によって千姫を貰い受ける筈が、大御所からも千姫からも声がかからす、焦燥の挙句に千姫が許に遣いを寄越した。だが、千姫は苛烈に出羽守を拒絶し、己が今尚豊家の女であることを高らかに宣言する。豊臣家の落胤を孕む真田のくの一衆と、彼女らを暗殺せんとする伊賀鍔隠れの谷の忍者たちの熾烈な暗闘は、ここに火蓋が切って落とされた――

 本編は元々雑誌連載の段階では「短篇連作」という形で発表されており、単行本として纏められる際に初めて「くの一忍法帖」の題名を冠され、長篇の体裁を明らかにしたらしい。こうして通して読むと紛いなき長篇なのだが、確かに各章毎に山場が設けられており、そのため全体的に緩急の変化が激しく、一気読みするとどっと疲労を覚えるぐらい。加えて各人の行動が複雑に入り乱れて、ちょっと曖昧な読み方をしてしまうといきなり前後関係が把握できなくなってしまう。しかし換言すればそれは本書が如何に企み抜いた上で執筆されているか、の証左であろう。実在の人物、史実上の出来事と虚構を巧妙に噛み合わせ、間然しがたい物語世界が構築されている。また、本書の登場人物、特に歴史上実在する人物については、講談社文庫版の短編集『かげろう忍法帖』及び『野ざらし忍法帖』と密接にリンクしている部分があり、その矛盾のなさにも目を瞠るものがある。詳細に調べていくとそれだけで一大絵巻が作れそうだが、これは興味のある方自らやってみて欲しい。

 本書のテーマは至ってシンプル、「男vs女」である。時代背景を踏まえながら安易なフェミニズムにも陥らず、かといって間違っても男尊女卑には傾かない展開。命題の要求もあって他の作品と比してもエログロの度合いは高いが、仮に題名から喚起されるイメージによってのみ本書を忌避していた方にも、是非読んで戴きたい。凱歌を挙げるは果たして何れか――挙げたのは何れだったのか、とくとご覧ずれ。

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