『オトシモノ』
判型:文庫判 レーベル:角川ホラー文庫 版元:角川書店 発行:平成18年9月10日 isbn:4043834012 本体価格:476円 |
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2006年9月30日に公開された同題映画を、『廃屋の幽霊』など優秀な怪談小説を著す福澤徹三氏がノヴェライズ。駅構内で定期券を拾って間もなく、忽然と行方をくらました少女。高校生であるその姉が、必死に行方を追い求めるが、行く先々で奇怪な現象が巻き起こる……
著者初のノヴェライズである。かねてから正統的な怪談により評価を高めていた著者が、やはり正統派のホラー映画を小説にする、ということで期待していたが――正直に言って、物足りない。 ホラーとしては整っている。文章面においても、極めて洗練されているので読み心地はよく、他の作品よりも改行ペースが早く簡潔になっているぶんスラスラと読めてしまう。ホラー小説として気軽に親しめる良作となっているのだが――果たして、この内容、この出来に、福澤徹三という才能が必要だったかはかなり疑問に思えるのだ。 筋書きはほぼ映画通り、部分的に説明が細かくなっている箇所はあるが、大きく手を加えていない。福澤氏といえば、社会の暗部や底辺にいる人々の肖像と怪奇現象とを折り重ね、雰囲気により恐怖を醸成する技に長けた描き手であるが、本編における登場人物はわりと平均的な人々が中心、怪奇現象も比較的ダイレクトなものばかりなので、いずれもあまり活きていない。他の作品に馴染んできた目には、あまりに食い足りない出来である。 著者としては毒の乏しい設定で、それでもちゃんと“怖さ”を表現できる底力は窺わせるものの、やはり本書を読んだ印象では、敢えてこの作品でそうした幅を示す必要はなかった、程度なのだ。折角この著者が筆を執るのなら、もっと毒を籠めるか、一線の“怪談作家”らしい脚色をふんだんに施して欲しかった。 福澤作品である、という頭を抜きにすれば、素直ながら整ったホラー小説に仕上がっているし、映画を鑑賞した人にも違和感なく親しめる1冊になっている。ただ、福澤徹三氏の小説としてはどうにも歯痒さを感じる。この仕上がりなら、何も福澤氏が書かなくても良かったんじゃなかろうか。 |
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