磯田道史『日本史を暴く 戦国の怪物から幕末の闇まで』

『日本史を暴く 戦国の怪物から幕末の闇まで』
磯田道史
判型:新書判
レーベル:中公新書
版元:中央公論新社
発行:2022年11月25日
isbn:9784121027290
本体価格:840円
商品ページ:[amazon楽天]
2023年9月22日読了

 日本各地に眠る古文書を漁り、日本史の知られざる側面を発見してきた著者が読売新聞《古今をちこち》の欄で発表した連載記事の2017年9月から2022年9月までの分をテーマごとに再編し1冊にまとめた作品。題材は戦国時代の武将たちの知られざる側面から、記録により辿る感染症、災害との戦いの歴史まで及ぶ。

 字数に限りのある新聞連載のため、1本ごとに3~5ページと尺は極めて短い。しかも、言及した内容を次の回まで持ち越すこともあるが、基本的に1本で区切りをつける体裁なので、恐ろしいくらい速いペースで話が進む。表現は悪いが、本当にその分野にどっぷりと浸かったオタクが、標準的な知識しか持たない聞き手を意識して平易な表現を選びつつも、立て板に水で語るだけ語って、一段落したらすぐ次に移る、みたいな感覚である。決して独善的ではなく、ちゃんと解りやすさを意識しているので読みやすく、しかも語られていることに自然と興味を惹かれる。
 考えてみれば当たり前なのだが、歴史は決してはじめから年表のように整然と書き記されたものではなく、長年にわたる記憶の伝承によって成立する。それは口碑によるものばかりではなく、当時の様々な理由、目的によって記された文献を読み解くことで垣間見るものなのだ。著者のベストセラーである『武士の家計簿』にしてもそうだが、決して歴史に名を刻んだ人物たちの日誌や書簡のみが歴史なのではなく、庶民や末端の士族が残した記録から読み解けるものが多々ある。本質的には“古文書オタク”と呼びたくなる著者だからこその豊富な経験と知識の一部を垣間見る程度の本書だが、間違いなくその面白さは感じることが出来るし、言及される様々なテーマをより掘り下げてみたくなる。
 個人的に、もっと知りたい、と感じたのは、吉宗が徳川八代目将軍となる前、対立候補だった尾張藩で藩主はじめ謎の死が相次いだ点だ。そこに明白な陰謀があった、という根拠も見つかっていないようだが、想像を掻き立てられる題材である。
 しかし本書の面白さはそうした政局に関わる裏話を探り出すだけでなく、言われてみれば不思議だけどあえて追求したことのない点にも、様々な古文書を手懸かりに考察していることだ。漂着し解体されたクジラはいくらぐらいの価値があったのか。江戸時代からカブトムシは子供たちに人気があったのか。文明開化により断髪が推奨されていたころ、男性はどのように髪型を変えていったのか。教科書に出てくる可能性の低い歴史の、学び研究する面白さが、極めて読みやすい本書の中にギッシリ詰まっている。


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