「超」怖い話 超−1 怪コレクション vol.3

「超」怖い話 超−1 怪コレクション vol.3 「超」怖い話 超−1 怪コレクション vol.3』

加藤一[編]

判型:文庫判

レーベル:竹書房文庫

版元:竹書房

発行:2006年12月6日

isbn:4812429323

本体価格:571円

商品ページ:[bk1amazon]

 定番の怪談シリーズ『「超」怖い話』の新たな執筆者を募る意図で、インターネット上にて開催されたイベント『超−1』。そのなかから選りすぐりの作品を編んだ『vol.1』、投稿作を執筆者自らが改稿して研ぎ澄ませた作品ばかりで構成された『vol.2』の2冊に続いて刊行された本書は、同イベントにて高い評価を集めた書き手が新たに書き下ろした作品のみで構成された、いわば『「超」怖い話』新展開への前哨戦とも言うべき内容となっている。

 率直に言って、『「超」怖い話』本編はこのところ刊行ペースが著しく加速していた弊害もあって、収録されたエピソードが概ね類型に陥っている傾向があった。それに対し、新たな執筆者を募る目的で開催されたWeb上のイベント『超−1』から生まれた先行2冊は、取材者や切り口が変わったせいもあるのだろう、質や話のヴァリエーションが向上していて、久々に読み応えのある出来となっていた。

 イベントの投票にて高いランクに位置づけた執筆者が新たに書き下ろした作品で構成された本書も、前2作の質の高さを引き継いでいる。一種の伝承を思わせる『鯉』や、同じ系統のしかし異様な結末が待ち受ける『蝉を投げる』『大きな栗の木の下で』、異能者の立ち位置が異様な読後感を齎す『占い恐怖症』『帰れ』などなど、従来の『「超」怖い話』の味わいを維持しながらもパターンから逸脱した秀作が多数収録されている。味わいを変えていない、という点が頼もしい。

 また、これは前2冊についても言えることだが、構成も実に精妙だ。敢えて同じ系統の話を並べてみることで、その異様な展開を馴染みやすく、だが「こういうことはあり得るのだ」という感覚を齎しやすくしており、全体での恐怖を増幅する効果を上げている。それぞれ別の執筆者が手懸けているのに、こうすることで一貫性を与えている点も出色だ。このあたりは今回、編者に徹した加藤一氏の功績であろう。

 エピソードとして最も強烈なのは、巻末に置かれた最長の1本『直腸内異物』であることは疑いない。まさに怪異の他の何ものでもなく、そこに漂う剥き出しの悪意と悲しい結末とが、質の高かった一連の作品集の、更に美しい結末を飾っている――こんなことを書けるのは、本書が“怪談集”である前提あってのことだが。何せ、どこをどう切っても悲劇でしかないのだから。しかもこの作品を著したのは、『「超」怖い話』本編の新たな執筆者に選ばれたふたりでも、高いランクに位置づけた投稿者でもなく、本書にてこのただ一篇のみを書き下ろした人物であるということが、『超−1』というイベントの豊潤さを示していると言えよう。

 三ヶ月連続という未曾有の展開にも拘わらず、高い質を実現した『超−1』ひとまずの幕引きを飾るに相応しい1冊であった――であるだけに、本丸である『「超」怖い話Ι』の出来が余計に楽しみなような、不安であるような、複雑な気分は隠しきれない。このスペックを維持して、新たなステップへと本格的に踏み出してくれることを期待したい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました