『六とん3』
判型:新書判 レーベル:講談社ノベルス 版元:講談社 発行:2007年5月9日 isbn:9784061825275 本体価格:900円 |
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まさかの続刊から約1年半、早くもシリーズ第3巻が登場。『動かぬ証拠』以来の探偵役・半下石刑事らが登場する『もうひとつの証言』『アリバイの死角』『生涯最良の日』、元保険調査員が巻き込まれるろくでもない事件『XXX殺人事件』、時間移動をモチーフにした『秘めた想い』ほか、様々な趣向を凝らした短篇11本を収録。
前巻を読んだときも思ったことだし感想にも書いたことだが……なんで『六とん』と銘打つ必要があるのでしょう。『六枚のとんかつ』で登場した探偵役は前巻でも出番は僅かでしたが今巻に至ってはとうとう『XXX殺人事件』の1話だけ、ミステリらしい作品で探偵役を務めているのは『動かぬ証拠』から継続している半下石刑事のみで、そもそもこれでは『六枚のとんかつ』と繋がっているとは言い難い。 但し、『六とん2』の続刊という見方をすれば、体裁は一貫している。半下石刑事を探偵役とするミステリ、彼らの絡まない犯罪もの、そしてかなり安易なSFものにして恋愛物――といった具合に、収録作品の傾向は維持されている。『六とん2』を、こんなものかと思いながら受け入れられた人であれば、とりあえず楽しみようはある。 だが、1本1本の安易さはかなり加速している。半下石刑事の登場する作品でもロジカルな謎解きはなく、雑な思いつきだけで決着してしまっているし、発想の下品さを誇る『XXX殺人事件』に至っては偶然に依拠しすぎていてミステリとして話にならない出来だ。ジョークにしてもこれは行き過ぎている。 まだしもミステリに縛られていない後半の作品のほうが読み応えがあるが、それでも『死ぬ』『嘘と真実』『秘めた想い』の悪趣味さは皮肉としていまいちで、余韻が安っぽい。イラストを用いたオチが下世話ながら効いている『栄光へのステップ』、予測通りだが後味のよくない後半の印象をうまく払拭している『赤い糸』あたりの発想と構成は、作品集として見た場合は効いているものの、単体としての出来はやはり軽すぎると言わざるを得ない。 決して意表をつかない作りと、変にこねくり回さない文章は読みやすく、気晴らし程度の読書としてはこの上なく最適だが、ただミステリとしてもSFとしても恋愛小説としても、発想が安直すぎるので、良質の読後感を求めて手に取るとそうとう失望するだろう――どこまでも徹底して『六枚のとんかつ』の腰砕けな感覚を踏襲する作品集として捉えれば、とてもとてねそれらしいのは確かなのだけど。 お仕事が捗らない気晴らしのつもりでめくり始めたらあっさりと読み終わってしまったくらいなので、読みやすさだけは自信を持って太鼓判を押そう。でもそれ以外は自己責任の上で読んでください。 |
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