『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』

原題:“Pirates of the caribbean : At World’s End” / 監督:ゴア・ヴァービンスキー / 脚本:テッド・エリオット、テリー・ロッシオ / キャラクター原案:テッド・エリオット、テリー・ロッシオ、スチュアート・ビーティー、ジェイ・ウォルバート / 製作:ジェリー・ブラッカイマー / 製作総指揮:マイク・ステンソン、チャド・オーマン、ブルース・ヘンドリクス、エリック・マクレオド / 撮影監督:ダリオ・ウォルスキー,A.S.C. / プロダクション・デザイナー:リック・ハインリクス / 編集:クレイグ・ウッド、スティーヴン・リフキン,A.C.E. / 衣装:ペニー・ローズ / 視覚効果&特殊アニメーション:インダストリアル・ライト&マジック / 音楽:ハンス・ジマー / 音楽監修:ボブ・バダミ / 出演:ジョニー・デップオーランド・ブルームキーラ・ナイトレイ、ステラン・スカルスゲールド、ビル・ナイチョウ・ユンファジェフリー・ラッシュ、ジャック・ダヴェンポート、ケヴィン・R.マクナリー、ジョナサン・プライスナオミ・ハリストム・ホランダー、リー・アレンバーグ、マッケンジー・クルック、キース・リチャーズ / 配給:BUENA VISTA INTERNATIONAL(JAPAN)

2007年アメリカ作品 / 上映時間:2時間49分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2007年05月25日日本公開

公式サイト : http://www.pirates-movie.com/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2007/06/06)

※注※

 本編は『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』、『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』に続くシリーズ第3作です。そのため、以下に記す粗筋には否応なしにこれらの作品のネタバレが含まれますので、もし未見で、予備知識なく楽しみたいという方はご覧にならないようご注意ください。

[粗筋]

 クラーケンに喰われたジャック・スパロウ船長(ジョニー・デップ)を救う手だてはまだ存在する――そんなヴードゥー教の魔術師ティア・ダルマ(ナオミ・ハリス)の言葉によって、かつて彼と旅を共にしたことのある元鍛冶職人のウィル・ターナー(オーランド・ブルーム)にポート・ロイヤル総督の令嬢エリザベス・スワン(キーラ・ナイトレイ)、そして航海には海を知るものが必要だとしてティア・ダルマが冥府から呼び戻したバルボッサ船長(ジェフリー・ラッシュ)、そしてスパロウ船長にゆかりのある海賊たちはシンガポールへと赴く。伝説の海賊のひとりであり、この地を束ねる大立者サオ・フェン(チョウ・ユンファ)の協力を取り付ける一方で、彼が隠し持っている“世界の果て”への海図を手に入れるためであった。

 だがバルボッサでさえ認める悪党のサオ・フェンは、海図を盗むために潜入したウィルをあっさり捕まえ、バルボッサの説得にも容易に応じようとしない。だがそこへ、大英帝国による海賊殲滅の命を受けた東インド会社の有力者ベケット卿(トム・ホランダー)の指揮する軍隊が襲撃してきた。命からがら脱出したサオ・フェンにバルボッサは、海賊たち全体が窮地に追い込まれたいま、久々に“伝説の海賊”九名による会議を催す必要があると説く。そのためには、後継者を選ぶことなく生と死の狭間の世界に消えていったジャックを連れ戻す必要があるのだ、と。その理屈に納得したわけではないようだが、他に選択肢もなく、サオ・フェン率いる東洋の海賊たちはウィルたちと航海を共にすることになった。

 狭間の世界は極地の海を超え、突如海の途切れた滝の底に隠れている。無風状態の世界に船と共に置き去りにされていたジャックは、だが迎えに来た面々に不信感をあらわにする。何せ、うち4人に彼は殺されかけ、中のひとりは実際に成功しているのである――しかし、彼らが所持している海図なしでは、この生と死の狭間の世界から脱出することも適わず、けっきょくジャックは自分と共に閉じこめられていたブラック・パール号に一同を乗せて出航する。

 海図の謎掛けは難解であったが、どうにかジャックが解き明かし、一同と船とは生ある世界へと舞い戻る。しかしその瞬間から、彼らは“海賊”としての本性を剥き出しにするのだった――どうすれば生き延び、どうすれば自らにとって最大の利益を得ることが出来るのか、計算を巡らせ、彼らは妥協と裏切りとを繰り返し始める。

 果たしてブラック・パール号の指揮権はジャックが取り戻すのか、はたまたふたたびバルボッサの手に落ちるのか。海の悪魔デイヴィ・ジョーンズ(ビル・ナイ)のもとで永遠の労苦に見舞われる父ビル(ステラン・スカルスゲールド)をウィルは救い出せるのか。伝説の海賊たちがこの窮地に出す結論は何なのか。デイヴィ・ジョーンズの心臓を握り強大な力を手にしたベケット卿によって、海賊はすべて一掃されてしまうのか――決着の時は、近い。

[感想]

 前2作を、『〜デッドマンズ・チェスト』公開時に行われたイベント上映にて立て続けに鑑賞し、このシリーズは原作がそうだったように、言ってみれば“アトラクション”なのだ、と確信した。お話の出来よりも、視界を過ぎるキャラクターの面白さ、彼らが見せるアクションの爽快感、そして何より、技術の粋を尽くして作りあげられた映像と音響の齎す大迫力を感じて、全身で楽しむべき代物なのである。前2作が、ストーリーやキャラクターの描き方では批判を受けながら、一般観客から絶賛を以て受け入れられたのには、そうした性質が多いに寄与している。観ていて“単純に楽しい”と感じさせる映画がいまは決して多くないからこそ、このシリーズはそうした楽しみ方を積極的に勧める貴重な作品として、年代を問わず受け入れられたのだろう。

 だからこそ、他に色々と観たいものを積み残しているなか、敢えて本編を、考えられる限り最良の条件で鑑賞してきたのだが、その意味では正解だったと思う。良質なスクリーンに整えられた音響により、全身で感じてこそ本編は本来の楽しみを味わえる。

 この作品、物語自体は決して平易ではない。海賊という基本条件もあって裏切りや翻心が繰り返され、登場人物たちの目的や関係が目まぐるしく切り替わるので、流れが把握しにくい。前2作でもそういう傾向はあったが、それらの登場人物をすべて踏まえたうえで新たな世界観や背景も組み込まれたこの第3作ではいっそう複雑化している。率直に言えば詰め込みすぎであり、ごく冷静に評価すれば、脚本レベルでもっと整理整頓が必要だったと思われる。むやみやたらに謎を増やしたりどんでん返しを連発しても、多すぎてはほとんどの観客にとって理解不能だろう。恐らく本編を5人ぐらいの仲間で一緒に鑑賞し、観終わってから粗筋を語り合うと、下手をすれば全員、途中経過に対する理解がバラバラになっている、という結果を出す可能性もある。そのくらいにこんがらかった脚本は、入り組んでいる、と言うよりはやはり整理が悪いと評するべきだろう。かくいう私自身、果たして製作者の意図した通りに話を把握できているのか、自信はない。

 だが、見せ場を作ることに腐心し、最後まで息をつかせぬアクションやスペクタクルを盛り込んだ作りのお陰で、あまり深いことを考えずとも楽しめる仕上がりになっている。ジャック・スパロウ船長が閉じこめられた“生と死の狭間”への入り方と脱出方法のアイディアには奇想天外な魅力があるし、海賊たちの会合のシュールで滑稽な展開、クライマックスの戦闘のなかで繰り広げられる出来事の面白さと映像的なユニークさ等々、目を惹くポイントには欠かない。如何せん、視点を特定していないうえにそれぞれの意図が把握しづらいので感情移入する対象がなく、物語としてのカタルシスは乏しくなっているきらいがあるが、イベントとしての迫力は充分であり、エピソードごとのインパクトは凄まじいものがある。

 過程が入り組んでいるとはいえ、しかし導こうとした結末は明白であり、客観的に見てもドラマティックで余韻に富む、いい着地点を選択したことは認めるべきだろう。間違いなく大団円であるのだが、ほろ苦さとそれ故の甘みも充分に備えており、他方、見ようによっては“元の木阿弥”でもある締め括りは爽快で、意外なほど深みもある。

 物語としての精密さや説得力を重視したり、行動の筋道をきちんと描くことを望むような向きには恐らく苛立ちを齎すだろう。だが、しつこいようだがこれは“アトラクション”なのである。そう割り切ったうえで、登場人物たちのハチャメチャな言動や奇想天外な事件の数々、常軌を逸脱したアクションを虚心に楽しむつもりで鑑賞すれば、充分期待に応えてくれるだろう。

 言ってみればこれは“観る遊園地”である。喧しく細部を突っつくよりは、大人しく身を任せてしまうのがいい。

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