『月の輝く夜に』

月の輝く夜に [DVD]

原題:“Moonstruck” / 監督:ノーマン・ジュイソン / 脚本:ジョン・パトリック・シャンリィ / 製作:パトリック・パーマー、ノーマン・ジュイソン / 撮影監督:デヴィッド・ワトキン / プロダクション・デザイナー:フィリップ・ローゼンバーグ / 衣裳:セオニー・V・オルドレッジ / 編集:ルー・ロンバルドー / キャスティング:ハワード・フォイアー / 音楽:ディック・ハイマン / 出演:シェール、ニコラス・ケイジオリンピア・デュカキス、ヴィンセント・ガーディニア、ジュリー・ボヴァッソ、ジョン・マホーニーダニー・アイエロアニタジレット / 配給:MGM×UIP / 映像ソフト発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント

1987年アメリカ作品 / 上映時間:1時間42分 / 日本語字幕:稲田嵯裕里

1988年3月5日日本公開

2008年10月24日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/03/19)



[粗筋]

 葬儀社で事務員として働くロレッタ・カストリーニ(シェール)は、7年前に夫を事故で喪って以来、独身でいる。情熱的に愛することの出来る男との出逢いを求めているうちに時は過ぎ、半ば人生を諦めかかっていた。

 そんな彼女に、昔からの男友達ジョニー・カマレリ(ダニー・アイエロ)が突如求婚した。シチリアにいる母親が氏の床に就いており、家族の必要性を痛感したジョニーは看病で飛行機に乗る前に、長年の想いを打ち明けたのである。ロレッタはこれを、その場で受け入れた――情熱的に愛し合える男を待つよりは、自分を愛してくれる男と結ばれたほうがいい、という方向へと、彼女の気持ちは変わっていた。

 そのまま空港に赴き郷里へと飛び立つ直前に、ジョニーはロレッタに頼み事をする。実はジョニーには5年間、交流を断っている弟がいる。だが、長すぎた断絶を悔い、これを機に和解を思い立ったという。ロレッタに弟の連絡先を託して、ジョニーは飛行機に乗った。

 目出度い結婚の話に微妙な反応をする家族に気を揉まされ、危うく忘れそうになったロレッタだが、出先からジョニーに急かされ、ようやく彼の弟に電話をかけた。しかし、とりつく島もない彼の態度に業を煮やし、ロレッタは直接、連絡先である彼の職場、パン工房を訪ねる。

 ジョニーの弟ロニー(ニコラス・ケイジ)は兄に対して激しい怨みを抱いていた。兄との電話に気を取られて左手をスライサーで喪い、そのために当時いた婚約者にも去られ、人生に対して絶望的になっていた。ロレッタはそんな彼と食事を摂りながらも激しい言い合いになるが、しかしどこかしら似たような境遇が共感を招いたのか、それとも酒が多めに入っていたせいなのか、言い争いながらあたりは惹かれ合い、そのままベッドを共にしてしまう……

[感想]

 この映画の雰囲気は、なかなかユニークだ。舞台はアメリカ、会話もほとんど英語だが、登場人物は全員イタリア系で、ところどころイタリア語が混ざり、価値観も心なしかアメリカというよりイタリア的だ――まあ私はイタリアを語れるほど熟知しているわけではないのだが、愛に対する情熱の傾け方などが、他のハリウッド産恋愛物と比較して印象が違う。

 冒頭から成り行きは非常に風変わりだ。ロレッタはそれまでジョニーと男女として交際していたわけでもないのに、食事の席で突然プロポーズする、というのも異様なら、その場であっさりと承諾し、すぐに1ヶ月後の挙式の話を始めるヒロインも異様だ。しかも求婚した当人は、危篤の母の元へ急行する直前だったというのだから。解らないわけではないが、実に異様なシチュエーションが畳みかけてくる印象である。あまつさえ、ロレッタとジョニーの弟ロニーが同衾してしまうくだりに至っては、何が起きたのか、と目を疑うほどだ。

 序盤はいわば、この日本人の感覚からしても風変わりな、イタリア系アメリカ人たちの価値観を、それぞれの立場や感情から描き出すことをメインにしている。ために、全体に突拍子がない、脈絡のない印象を受けるが、その代わり、会話の応酬の独特さや、特徴的なユーモアに魅力がある。ロレッタの父コズモが求婚しに来たときのエピソードを得々と語る伯父の姿がその筆頭だが、よく考えると何故兄を恨んでいるのかよく解らないロニーの演説、年がら年中犬を散歩させている祖父の振る舞いなど、シリアスで情緒的なようでいて、少しピントのずれた描写が味わい深い。

 しかし、終盤が近づくと、こうした一見無軌道な描写が緩やかにリンクしていく。冒頭、ロレッタがプロポーズされたレストランでのひと幕が、後半になって別の関係者のエピソードと呼応する。ロレッタの父コズモを巡る出来事が、思わぬところでロレッタの奇妙な“窮地”に影響していく様は、コミカルながら奇妙な緊迫感も演出する。

 そうして少しずつ築かれた奇妙な人間関係が一気に集約されるクライマックスこそ、本篇の本懐だろう。人間関係のままならなさ、切なさ、滑稽さが重層的に描き出され、他に例を見ないような雰囲気が滲み出す。ことここに至って、「混乱してきた」と泣き出す祖父の姿が特に笑いを誘うが、同時に心底同情を覚えるのである。いったいこの状況は何なのか。

 多くのものが入り乱れ、幸せの絶頂に達した者がいるかと思えば、かなりの失意に見舞われた者もいる。だが、本篇の結末には、まったく暗さはない。人生なるようにしかならない、そのときを楽しむことが出来れば幸せではないか――そんな、突き抜けた陽気さが溢れ、観ているこちらの口許も緩んでしまう。

 序盤で描かれる、ロレッタやその家族のユニークな価値観がどうしても肌に馴染まないと最後まで受け入れられない可能性はある。しかし、そこを面白がることが出来る、寛容に受け入れられるなら、観終わったあとにきっと登場人物と同じ幸福感に浸れるはずだ。

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