『スラッシャー 廃園の殺人』
判型:新書判 レーベル:講談社ノベルス 版元:講談社 発行:2007年6月7日 isbn:978406182533X 本体価格:860円 |
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ホラー専門の作家が拾得した大金で築きあげ、やがてその作家本人も含め複数の失踪者を出し、今はその名の通りの廃墟となってしまった“廃園”。そこに、ユーロ・ホラーのDVD販売や怪奇実話ドキュメントを中心に営業するプロダクション、“プロフォンド・ロッソ”が撮影隊を送りこむ。半ドキュメント、半フィクションの形式で行われるはずだった撮影だが、やがてスタッフは跳梁する殺人鬼の手によって、ひとり、またひとりと惨い骸に変えられていく……果たして犯人は誰なのか、そしてひとりでも生き残ることが出来るのか……?
著者がホラー映画について造詣が深く愛着も強いことは旧作、特に『シェルター 終末の殺人』に登場する、常軌を逸するほどにマニアックなビデオ・コレクションの描写からも自明である。こと、ダリオ・アルジェントに対する敬意の深さは創作以外の部分でも顕著に窺える。 これまでメタ・フィクションの手法を主に駆使し、現在好調に巻を重ねている刀城言耶のシリーズでさえもその枠に填め込むことが可能なのだが、本編はその中では比較的外側に位置する作品である。よくよく読むと微妙にリンクを張り巡らせているのが解るが、その辺は手癖かちょっとした刻印のようなもので、あくまで狙いは題名通りホラー映画のスタイルのひとつであるスラッシャー物の、ひいてはダリオ・アルジェントが初期に発表したような作品群に近い趣向を、小説にて再現することに執心した作品である。故に、従来の作品と同じイメージで読もうとすると呆気に取られたり、率直に言って失望することもあるだろう。 旧作のような重厚感がなく読みやすい、伏線や描写の必然性がやや薄い、といった批判も出来ようが、しかしここまで意識してダリオ・アルジェント風に書き上げているあたりからして、薄さも仕掛けの緩さもある程度は狙ってやっているとしか思えない。そのつもりで読むと、どことなく漂う緊張感の乏しさも妙に楽しめる。どこかで目にしたようなトリックに、様式美に近い残酷描写でさえ、ユーモアに感じられるのだ。 ――但しこういう読み方は、もともとダリオ・アルジェント作品の愛好家であったり、そうした“緩さ”も楽しむことの出来る嗜好の持ち主であればこそ可能なもので、やはり刀城言耶シリーズによって三津田作品に引きこまれた層が素直に受け付けられるかどうかはちょっと微妙に思われる。ダリオ・アルジェントやイタリアン・ホラー、“スラッシャー”といった単語にピンと来て、それだけで魅力を感じられるような変わり者をまず第一対象にした、趣味的な作品といえよう。 つまり私には大満足の出来でした。 |
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