幽 Vol.005

幽 Vol.005 『幽 Vol.005』

東雅夫[編]

判型:A5判

版元:Media Factory

発行:平成18年7月20日

本体価格:1514円

商品ページ:[bk1amazon]

 本邦唯一の怪談専門誌、早くも3年目突入。例によってコーナーごとに簡単に感想を連ねてみる。

 巻頭特集は、愛らしい存在であるにも拘わらず怪談にはしばし登場する“猫”を掘り下げている。東編集長らが猫が神として祀られている島を訪ねたルポや魔夜峰央氏描き下ろしのコミックがあるが、個人的にいちばん気になったのは、異例の長篇紙芝居“猫三味線”復刻にまつわる唐沢俊一氏の記事である。長尺過ぎるせいか現物には触れられていないが、インタビューの中で紙芝居の再演に携わる梅田佳声氏らが説明する内容にひたすら興味を惹かれる。唐沢氏のメガフォンによってDVDが製作され夏頃に登場予定だそうだが、発売の折りにはチェックしてみたい。

 続いては創作怪談パート。メンバーが固まっているせいもあって趣向も描写も安定しており、安心して読めるが、第一号から継続的に読んでいる目には正直なところ新味はあまりない。ただ、有栖川有栖氏による『テツの百物語』はその迫真の筆捌きが印象的であった。話運びは百物語を扱うフィクションの定番であるが、過程の完成度と“テツ”たち独特のムード、そしてクライマックスの異様さが際立っている。

 加門七海氏の連載対談から始まる実話怪談パートも、執筆陣が執筆陣であるだけに安定している。加門氏の対談相手は女優の平山あや。専門家でないだけに素直な語り口は、良くも悪くも「すれた」書き手の多いこの雑誌のなかではかなり新鮮な印象を受ける。体験することは多いが基本的な感性は一般人に近い、という人の談話はこの書籍ではけっこう貴重ではなかろうか。他方、『やじきた怪談旅日記』は、中山市朗氏の相も変わらぬ怪談スポットデストロイヤーっぷりが一種気の毒ですらある。本当に、この連載って、狙い通りに怪奇現象に遭遇した試しがありませんよね。

 だが実話怪談パートで最も注目すべきは、今号からの新連載、名著『日々是怪談』の正統的続編となる『日々続々怪談』であろう。日常感覚に優れた描写の中から怪異や恐怖が漂ってくる描写の素晴らしさで怪談本の名作に数えられる著書の続編であることもさることながら、その連載一回目から提示した主題のなんと重く深いことか。

 漫画パートは飛ばして、続いては第二特集『実話と創作のあいだに』。第一号からの常連執筆者であり、実話・創作双方で旺盛な執筆活動を行っている平山夢明氏と福澤徹三氏の対談がまず興味深い。創作をしている人にとっても、実話怪談の実作を志す人にとっても必読の内容である。……しかし、こういっちゃ何だが、このお二人のツーショット自体がやっぱり怖い……図柄的に……。

 他、先頃16年振りとなる小説第2作『アムネジア』を発表した稲生平太郎氏へのインタビューも掲載しており、相変わらず実のしっかりと詰まった1冊である。五号目ともなるとこちらも読み慣れてしまい、もう少しどこかしらとんがってもいいのでは、という感想も抱かないではなかったが、作風の安定は購買層のニーズと編集する側の意識が一致したことをも示しており、シリーズの継続に期待が持てる証拠でもある。半年に1冊というペースがまだるっこしいが、それもこの執筆陣と質の維持のためには致し方のないところだろう。12月頃になるはずの次の号も、首を長くして待ちたい。

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