原題:“Live Free or Die Hard” / 監督:レン・ワイズマン / 脚本:マーク・ボンバック / 原案:デヴィッド・マルコーニ、マーク・ボンバック / 製作:マイケル・フォトレル / 製作総指揮:アーノルド・リフキン、ウィリアム・フィッシャー / 撮影監督:サイモン・ダガン,A.C.S. / プロダクション・デザイナー:パトリック・タトポロス / 衣装:デニス・ウィンゲイト / 編集:ニコラス・デ・トス / 音楽:マルコ・ベルトラミ / 出演:ブルース・ウィリス、ティモシー・オリファント、ジャスティン・ロング、クリフ・カーティス、マギー・Q、ケヴィン・スミス、メアリー・エリザベス・ウィンステッド / 配給:20世紀フォックス
2007年アメリカ作品 / 上映時間:2時間9分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2007年06月29日日本公開
公式サイト : http://diehard4.jp/
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2007/06/29)
[粗筋]
アメリカ独立記念日前夜。FBI本部の電源が一瞬、シャットダウンした。この重要な日に、何者かがハッキングを仕掛け、国家に喧嘩を売ろうとしている。サイバー犯罪部のボウマン部長(クリフ・カーティス)は早速著名なハッカーのリストを洗い出し、各地の警察の協力を仰いで連行するように命じる。事態の性質を鑑みて、警官ではなく刑事を派遣するように、という項目も付け加えて。
この指示に巻き込まれたのが、ニューヨーク市警のあのジョン・マクレーン警部補(ブルース・ウィリス)だった。近ごろ素行に不安のある娘に会うために警察車輌を用いて管轄外であるニュージャージー州まで赴いていたマクレーンは、肝心の娘ルーシー(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)にすげなく扱われ、苛立っているところへ、ちょうど近くに住んでいる若き天才ハッカー、マット・ファレル(ジャスティン・ロング)をFBI本部に同行するよう無線で命令が下る。
厭々マットのもとを訪れると、彼を迎えたのは――無数の銃弾。更には謎の爆発までが室内で発生し、マクレーンはマット共々どうにか脱出する。何が起きているのか、事態を把握しきれないまま、マクレーンはパトカーにマットを乗せてワシントンに向かうが、一夜明けて到着してみると、更に酷い状況が彼を待ち受けていた。
市内の信号がすべて異常を来し、交通網は大混乱、到底車で走れる状態ではない。マクレーンはあっさりと車を捨て、徒歩でボウマン部長のもとを訪れることにした。だが、全米に波及しつつあるネットワークの混乱と、マット以外のハッカーたちが大量に爆破で殺害される事件によって忙殺されるボウマンは、いったんマットの身柄をよそに移させることにした。だが、その護送中、今度はヘリコプターによってマクレーンたちは襲撃される。どうやら、狙われているのはマットらしい……
この大規模なサイバー・テロを仕掛けた犯人の狙いは何なのか。話は噛み合わないがデジタル関連の知識にかけては人後に落ちないマットを守りつつその助けを借り、マクレーンは犯人に肉薄していく……
[感想]
近年は芸術的であったり思索的であったり、マニアに訴えることだけに集中したような特殊なアクション映画も多数登場するようになったが、本来アクション映画とは娯楽の代表格である。派手なアクション、危機また危機、さり気ないユーモアも交えつつ急速に物語が展開し、爽快な結末に至る。あとに何も残らなくても、その爽快感さえあれば充分、というのがアクション映画の本懐であろう。
『ダイ・ハード』シリーズとはそういう、正統派娯楽アクションの代名詞とも言うべき作品群であり、旧作の大ファンであったという新鋭レン・ワイズマンが手懸けた本編もまた、正しくその意志を継いでいる。頭から尻尾まで実が詰まっており、派手であったり意表をついたりと趣向を凝らしたアクション・シーンが立て続けに繰り出され、飽きる暇がない。加えて主人公のキャラクターに味があり、それがアクションでもユーモアでも活きていればもう文句はない。単純明快なアクションを、と望む人には本編はうってつけと言える。
そういう考えのもと、本編を充分に楽しんだ私だが、ただ手放しで褒めていいとは思えない。サイバー・テロにアナログ一辺倒の刑事が立ち向かう、という解りやすい構図は評価できるが、結局若くて才能に富んだハッカーが近くにいたことで反撃が成り立っているという事実、行動範囲が拡がりすぎて位置関係が把握しづらく話運びも散漫になる一因となっていること、また犯人の最終目的にあまりヒネリがない点などなど、難点は多々ある。話運びは着実で、構造としての破綻はないものの、アクション映画のガジェットとしては全般に凡庸に過ぎ、折角『ダイ・ハード』という大きな名前を冠したわりには、物語そのものに工夫が乏しいと感じられてしまうのである。実際には犯人の目的にはかなり底意地の悪い目論見も秘められている、とあとで気づいたが、その意図が作中で活きていないのだから、やはりあまり意味はない。
監督であるレン・ワイズマンは、ヴァンパイヤを題材とした伝奇的な世界観を都会的でスタイリッシュな画面作りとアイディアによって彩った『アンダーワールド』シリーズによって注目を集めた才能である。それだけに、本編もアクションそのものの切れ味の見せ方、映像のスタイリッシュさという点では優秀である。だが、それ故にもうひと匙ぐらいインパクトを添えて欲しかった、と感じる。『ダイ・ハード』という枠に囚われすぎて、あとひとつ弾けきれなかったという印象だ。
しかし、ブルース・ウィリス演じるアクション映画のアイコン=ジョン・マクレーン警部補の不死身っぷりは健在で、その異様なまでの悪運の強さ、タフな言動を堪能したいのであれば、およそ不満は感じないはずだ。そんな彼の際立った個性が、そのまま最後で訪れる絶体絶命の状況から繰り出される起死回生の一手を正当化している。恐らく彼以外の誰も、思いついたってこんな方法で危機を脱しようとは考えないだろう。こいつならやりかねない、そう感じるクライマックスは、少し優等生的にまとまりすぎた本編において最後の最後で鮮烈な衝撃を齎させた。
パート1クラスの傑作ではないし、アクション・シーン個々のアイディアはさておき映画全体としては独自性にも乏しい、というのが正直なところだが、妻ではなく娘が登場して彼の私生活面における動機付けの役割を果たしている点以外、いい意味でほとんど年齢を感じさせないマクレーン刑事の活躍を堪能できる、という意味では文句なしの仕上がりである。
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