『トランスフォーマー』

原題:“Transformers” / 監督:マイケル・ベイ / ハズブロのアクション・フィギュアに基づく / ストーリー:ロベルト・オーチーアレックス・カーツマン、ジョン・ロジャース / 脚本:ロベルト・オーチーアレックス・カーツマン / 製作:ドン・マーフィ、トム・デサント、ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ、イアン・ブライス / 製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグマイケル・ベイ、ブライアン・ゴールドナー、マーク・ヴァーラディアン / 撮影監督:ミッチェル・アマンドセン / プロダクション・デザイナー:ジェフ・マン / 編集:ポール・ルベル,A.C.E.、グレン・スキャントルベリー、トーマス・A・マルドゥーン / 衣装:デボラ・L・スコット / 音楽:スティーヴ・ジャブロンスキー / 出演:シャイア・ラブーフ、タイリース・ギブソン、ジョシュ・デュアメル、アンソニー・アンダーソン、レイチェル・テイラー、ミーガン・フォックスジョン・タトゥーロジョン・ヴォイト / 声の出演:ピーター・カラン、マーク・ライアン、ヒューゴ・ウィーヴィング / 配給:UIP Japan

2007年アメリカ作品 / 上映時間:2時間25分 / 日本語字幕:松崎広

2007年08月04日日本公開

公式サイト : http://www.transformers-movie.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2007/08/06)



[粗筋]

 砂漠にある米軍基地が、壊滅状態に陥った。その状況を偶然に収めた映像を確認した国防長官ジョン・ケラー(ジョン・ヴォイト)は驚愕する。着陸したヘリコプターが人間状に変容し、基地を襲撃したのである。どうやら機密にアクセスしようと試みようとしたらしい、“それ”の目的はいったい何なのか……?

 同じ頃、アメリカの地方都市に暮らす高校生サム(シャイア・ラブーフ)は、人生初の彼女を得るための布石として自分の車を手に入れるべく努力を重ねていた。高い成績を収めれば父親が買ってくれるが、そうでなければ自分でお金を用意せねばならず、並行して冒険家であった先祖の遺品を売り捌くべくネットオークションを活用している。

 努力と訴えが実ってどうにか要求された水準の成績を収めたサムは、中古ながら念願の車を購入してもらった。早速友人と共にナンパに出かけたが、どうもこの車の挙動は奇妙だった。ひょんなことから美しい同級生のミカエラ(ミーガン・フォックス)を乗せることが出来たのだが、実にうまいタイミングで故障したり復活したりしてくれたお陰で、思った以上に親しくなることが出来た。

 思わぬ成り行きにはしゃぐサムだったが、その夜、彼は自分の愛車が勝手に走り出す光景を目の当たりにする。何とか追っていった彼は、町外れで自分の愛車が人間型に変形し、空へとサーチライトを向ける姿を目撃する。サムは非常事態に動揺するが、しかしこれらは導入に過ぎなかった――

 性に興味津々のさして取り柄もない少年を中心にして、未曾有のスペクタクルが繰り広げられようとしていた……

[感想]

 まだろくに情報も出揃っていない段階、ごく断片的な映像を繋ぎあわせただけの極めて初期の予告編を観た時点で、これは大スクリーンで鑑賞してこそ意味のある作品だと確信していた。ちょうど多忙の折、たまたま出かけたのを幸いに急ぎ鑑賞したのだが、正解だった。大スクリーンで観てこそ堪能でき、またクサクサした気分のときほど爽快にしてくれる1本である。

 これも公開以前から漠然と予測していたことだが、シナリオの出来は決して良くはない。如何せん、様々な要素を繋ぎすぎているのだ。単純に分けて、いわゆるトランスフォーマー達の歴史が前提にあって、それを発見した政府の行動が二重構造ぐらいになっている。それらを、視点人物として起用したごく平凡な少年の立ち位置を軸として描くという格好だが、これをシンプルな善悪の二元論に持ち込むまでが迂遠で、かつ詰め込みすぎているために展開がいまいち把握しづらい。ちゃんと設定は用意しているようだがその説明が足りておらず、どうしてこういう話運びになったのか咄嗟に理解できないのである――こんがらがっているために、鑑賞してだいぶ経ってしまった現時点で粗筋を書こうとすると、整理がつかなくなって上のようにだいぶシンプルになってしまったほどである。ネタバレを避けようとしている点を除いても、これは説明をするのがかなり面倒なほど整頓がなっていない。

 日本人にとってハリウッド映画のユーモアは解りにくいことが多いが、これも例外ではない、というよりも笑えない類の王道を行っている。いちばんまともに受けたのは、中盤あたりの“日本製品”云々というくだりで、他はいささかアメリカ特有の基礎知識に依存しすぎたり、唐突すぎる感があってあまり功を奏していない。

 ただそれでも推敲が行き届いていると感じられるのは、トランスフォーマーという極めて巨大で強力なキャラクターが中心となっているなかで、人間をただ襲われ無為に手を拱いているだけの存在に貶めず、考えられる範囲で限界まで抵抗を試みるように描いているあたりだ。一部では“死亡フラグ”と揶揄される類の伏線を張られた人物がしぶとく生き残ったり、ちゃんと序盤とクライマックスで言動がリンクしていたり、という工夫がなされているのにも好感を抱かされる。成功しているかどうかはともかく、意欲を感じさせる作りになっているのは疑いない。

 が、やはり本編の見所は“変身”という趣向の扱いと、それを軸にしたエイリアン達の生態のアイディアであり、彼らの変身と大迫力のバトルの映像である。視点人物となるサムが初めてトランスフォーマーとコミュニケーションを取るときの手段、国家機密に侵入する敵方トランスフォーマーのユーモラスながらも不気味な行動など、細かな表現で楽しませてくれる。

 そして何よりも、ロボット同士のアクション・シーンの大迫力たるや、まるで期待を裏切らないクオリティである。映画館、それもスクリーン・音響共に設備の整った劇場で映画を鑑賞する醍醐味をとことんまで味わわせてくれる。いささか凝りすぎたカメラワークが災いしてしばしば観ていて状況が把握しにくくなるが、ここまで来ると混乱した現場にいるような感覚を齎すところに達しており、むしろ凝りすぎているからこそ雰囲気を存分に表現しきっている。アクションの雰囲気はどこか日本の怪獣映画を彷彿とさせるが、現代の映像技術を駆使して、従来の怪獣映画にはなかった距離感を演出しており、なるほど“映像革命”と謳いたくなるのも頷ける。

 お話が込み入っているように見えてその実は単純すぎるうえ、整理整頓が充分に行き届いておらず随所で軋みを生じているのも事実だ。しかし、ひたすら多くのものを詰め込もうとした意欲と、精緻にパワフルに描かれたトランスフォーマーたちの映像・音響の強烈なクオリティを味わうためだけでも劇場で観ておいて損のない一本だと思う。

 とにかく、観る気があるなら早いうちに劇場を訪れることをお薦めしておく。家で気楽に観るのも構わないが、それでは勿体ない。

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