『(500)日のサマー』

『(500)日のサマー』

原題:“(500) Days of Summer” / 監督:マーク・ウェブ / 脚本:スコット・ノイスタッター、マイケル・H・ウェバー / 製作:ジェシカ・タッキンスキー、マーク・ウォーターズ、メイソン・ノヴィック、スティーヴン・J・ウルフ / 撮影監督:エリック・スティールバーグ / プロダクション・デザイナー:ローラ・フォックス / 編集:アラン・エドワード・ベル / 衣装:ホープ・ハナフィン / キャスティング:アイド・ベラスコ,CSA / 音楽スーパーヴァイザー:アンドレア・フォン・フォースター / 音楽:マイケル・ダナロブ・シモンセン / 出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィットズーイー・デシャネル、ジェフリー・エアンド、クロエ・グレース・モレッツ、マシュー・グレイ・ガブラー、クラーク・グレッグ、レイチェル・ボストン、ミンカ・ケリー / ウォーターマーク/スニーク・プレヴュー・エンタテインメント製作 / 配給:20世紀フォックス

2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:古田由紀子 / PG12

2010年1月9日日本公開

2011年1月7日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://www.500summer.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2010/10/20) ※ららぽーと豊洲映画祭2010



[粗筋]

 トーマス・“トム”・ハンセン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は運命の恋の存在を信じていた。人はいつか、出逢うべきとき、出逢うべき人に巡り逢うのだと。

 勤めているグリーティング・カード企画販売の会社で、社長の新しいアシスタントとして入社したサマー・フィン(ズーイー・デシャネル)を目にしたとき、トムは奇妙に心惹かれるものを感じた。

 しかし、相手は自分のことなど気に留めてもいないだろう、と半ば諦めていたトムだったが、数日後、転機が訪れる。偶然、会社のエレベーターで乗り合わせたとき、サマーはトムがヘッドフォンをして聴いていた“ザ・スミス”の曲に気づき、自分も大好きだ、と言った。――同じ曲が好きだ、と言ったのだ。

 週末のジムが“最高だった”というひと言や、デスクのPCで“ザ・スミス”の曲を鳴らしても気づいてもらえないことなどでいちいち一喜一憂しながら、なかなか直接アプローチ出来ない日々が続いたが、社員全員が参加するカラオケ大会の最中、同僚で親友のマッケンジー(ジェフリー・エアンド)の計らいで、初めて親しく会話することに成功する。

 驚いたことにサマーはトムに興味を示し、帰り際、「友達になりたい」と言ってきた。翌る日の朝、コピー室でばったり遭遇した彼女は、トムにキスさえしたのだ。

 だが、トムはすぐに喜ぶことが出来ない。何故ならサマーは、恋愛に対してとてもドライな価値観を持っていた。束縛される関係は好きじゃない。恋人なんて面倒臭いだけだ、と――

 価値観の違いには目をつむり、一気にサマーと親密になったトム。しかし、彼の“理想の恋人”との幸せな世界は、出逢ってから250日頃を境に、急激に影を落としていく……

[感想]

 冒頭からこんなにワクワクさせられる映画もちょっと珍しい。いきなりテロップで“これは実話を元にしている”“登場人物も現実の人物像をなぞっている――但しひとりを除いては”“クソ女”と、どうやら脚本家が観客に向かって語りかけ、こういう内容にしては珍しい重厚なナレーターが、しかつめらしく“これは恋物語ではない”と言い放つ。そしてのっけから、主人公トムとサマーの出逢いを描いた1日目と、トムがサマーから振られたと思しい頃合いの出来事だ。以降、各シーン冒頭で“(1)”といった具合に、出逢いから何日が経過したかを“(257)”“(400)”と表示し、時間を相前後しながら少しずつ、ふたりの交際がどのように変化していったのかを綴っていく。

 説明するとひどく厄介な語り口のように聞こえるだろうが、しかし実際に観ていると非常に平明だ。単純なお話を晦渋に描こうとしているのではなく、直感的に描いているからだろう。すべての出来事が終わったあとで、記憶を辿りながら語っているようだ、と言えば解りやすいかも知れない。

 これは本篇が事実上、主人公トムの主観で綴られている、ということだ。ほぼすべてのシーンが、トムの知覚できる情報でのみ描かれている。だから、一見無秩序のように思えても、本人の感情を理解しやすい順序を選択しているので、ものすごくストレートに伝わってくる。

 そして、この語り口に合わせたユニークな表現の数々が、作品のポップな愛らしさを強めている。トムが抱いていた、建築家になるという夢をなぞり、不意に手描き風に街並が変容し、彼の心情に合わせて変化していく様や、サマーと初めて結ばれた後朝、行き交う人々がすべてトムを祝福し、共に踊り狂うくだりなど、まさにフィクションだからこそ可能な心情描写だ。

 だがそれでも、様々な出来事やトムたちを襲う感情はとてもリアルで、不自然なところはない。“運命の女性”という概念に執着し、サマーの認識が変わることを信じているが故に苦悩するトム。そんな彼の純粋さを理解しながらも、だからこそ繰り返してしまう諍いに、いつしか気持ちを変えていくサマー。

 面白いのは、いちばん大きな出来事は敢えて描写していないことだ。サマーは勤めていた会社を辞め、いわば“消える”形で彼との関係を断つのだが、それに気づく瞬間のことは描いていない。少しずつ互いに惹かれ合う心情は間接的に描いていても、たとえば最初のデートの約束をするくだりであったり、初めてベッドを共にする直前の駆け引きなど、普通の恋愛映画ならば必ず描きそうなハイライトはほとんど避けている。この辺りが、“恋物語ではない”と言い切る自負の源が感じ取れると共に、本篇をユニークな作品にしているのだ。

 だが出色は終盤だ。それまでの頻繁に妄想を交えてきた特徴的な映像表現の、シンプルだが極みとも言える手法を用いた、最もショッキングなシーンから、観客の予測を裏切るようなクライマックス。そして、あらゆる描写を凝縮して、驚きと唯一無二の爽快感を齎すラストのひと言。出来過ぎている、と否定的な感想を抱く方もいるかも知れないが、振り返ってみれば、すべての描写がこのラストシーンのために組み立てられている、と言えるほど見事な着地なのだ。

 終始妄想で彩っているように見えて本質は実感的、だがそのラストは、苦みを滲ませつつも非常に快く受け入れられるファンタジーで締めくくっている。実体験を下敷きにしているからこそ成し得た、極上のフィクションである。恋に傷ついた人も、幸せな恋愛を続けている人も、まったく恋愛に縁のない人も、きっとハッピーな気分を味わえるはずだ――よほど相性が悪くない限り。

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