『パーフェクト・ストレンジャー』

原題:“Perfect Stranger” / 監督:ジェームズ・フォーリー / 原案:ジョン・ボーケンキャンプ / 脚本:トッド・コマーキニ / 製作:エレイン・ゴールドスミス=トマス / 製作総指揮:ロン・ボスマン、デボラ・シンドラー、チャールズ・ニューワース / 撮影監督:アナスタス・ミコス,A.S.C. / プロダクション・デザイナー:ビル・グルーム / 編集:クリストファー・テレフセン,A.C.E. / 衣装デザイナー:レネ・アーリッヒ・カルフス / 音楽:アントニオ・ピント / 出演:ハル・ベリーブルース・ウィリスジョヴァンニ・リビシ、リチャード・ポートナー、ゲイリー・ドゥーダン、ニッキー・エイコックス、キャスリン・シャファント、ゴードン・マクドナルド、ポーラ・ミランダ、ダニエラ・ヴァン・グラス / レヴォリューション・スタジオズ製作 / 配給:WALT DISNEY STUDIOS MOTION PICTURES. JAPAN

2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間50分 / 日本語字幕:林完治

2007年09月29日日本公開

公式サイト : http://www.movies.co.jp/perfectstranger/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2007/09/29)



[粗筋]

 ……その日、ニューヨーク新報の記者ロウィーナ・プライス(ハル・ベリー)は苛立っていた。半年を費やして追ってきた、サックス上院議員(ゴードン・マクドナルド)に関するスキャンダルの記事が、ようやく一面を飾れるところまで纏まった矢先に、圧力で潰されてしまったのである。上司のナーロン(リチャード・ポートナー)は数週間休んで復帰すればいい、と諭すが、憤りの収まらないロウィーナはその場で辞めることを宣言する。

 帰り道、彼女は偶然に幼馴染みのグレース(ニッキー・エイコックス)と遭遇した。久々に逢う彼女は、ニューヨークきっての大物実業家ハリソン・ヒル(ブルース・ウィリス)とオンラインで知り合い不倫関係に陥るが、短期間であっさり捨てられたことを恨み、復讐を画策していることを打ち明ける。そのために記者というロウィーナの立場を利用したいと言い出し、電車に乗ろうとしていた彼女に資料を手渡す。

 それから一週間。娘から連絡がないことを心配したグレースの母親が、水死体の身元を確認して欲しいと警察に言われたことに戸惑い、ロウィーナに連絡を取ってきた。母親に代わって確かめに言ったロウィーナの前に引き出された遺体は、果たしてグレースのものであった。

 生前、グレースが自分に言い残したことが気に掛かったロウィーナは、ニューヨーク新報における信頼できる相棒であったマイルス(ジョヴァンニ・リビシ)の協力を仰いで、グレースのメールアカウントに侵入する。そこには、“アデックス”という人物と交わした大量のメールが残っていた。この“アデックス”がハリソンだったのだろうか……? ロウィーナは派遣社員としてハリソン・ヒルの会社に潜入して、彼らの関係を探り出そうとする……

[感想]

 終盤での逆転、意外な真相を謳う作品は少なくない。だが、そういう美辞麗句に誘われて劇場を訪れて、満足することは少ない。伏線が丁寧であるがゆえに読めるならまだしも、根本的に承伏しづらいものも多数あって、“意外性”の演出が如何に困難なのか、を改めて痛感させられることのほうが多いくらいだ。

 本編もまた、ラスト7分11秒で明かされる真相の意外性を売りにしていた作品である。そもそも映画道楽に嵌ったきっかけが、ミステリ映画が立て続けに公開されたことだった、というくらいの私としてはとりあえずチェックしておかなければ、と初日から鑑賞に赴いたのだが――率直に言えば、あまりすっきりとしない仕上がりであった。

 たしかにちゃんと逆転劇になっている。かといって明後日の方向から無茶苦茶な真相が提示されるわけではなく、伏線は丁寧に張り巡らせてある。だが、いざ解き明かされてみても、心情的に納得がいかない。カタルシスがない。

 色々と理由は考えられるが、まず大きいのは、「本当にここまでする必要があったのか?」という疑問が拭いきれず、またそういう感覚をカタルシスに結びつける努力を怠っている点にある。実のところ、ここまで苦労をしなければならなかった動機付けもちゃんと用意されているのだが、肝心の謎解きの部分で、そうした描写に結びつけていないので、どんでん返しのところで観る側を納得させるに至っていない。

 他方で、多くの伏線を、意外性を感じさせるためにきちんと活かしていないのも問題だ。本編の描き方では、真相が判明したあとにまず感じるのは意外性や、意表を衝かれたことによる衝撃、爽快感といったものではなく、失望のほうが強い。具体的に書いてしまうと真相の方向性を匂わせることになってしまうので伏せるが、伏線として設けられた描写の幾つかがこの感覚に結びついている、ということは指摘しておきたい。描写の取捨選択が根本的に間違っている、という印象を受けた。

 また、丁寧に伏線を張り巡らせたわりには――というよりも、それに依存しすぎたせいなのだろう、サスペンスとしても謎解きとしても緊迫感に欠くのがいちばんまずい。追い込んでいるという感覚にも追い込まれているという感覚にも乏しく、ほとんどが漫然と流れていっているだけに思える。真相が解ってみると、そうなってしまうのも宜なるかな、と頷けるが、それならそれで別の見せ方を考えるべきだっただろう。アイディアに対して、それをどう活かすか、という発想が欠けている。

 まともに緊張が感じられるのは終盤だけで、しかもその結果が失望なのだから、これは率直に言って失敗作だろう。着想自体は悪くないし、配役も絶妙、ハル・ベリーにしてもブルース・ウィリスにしてもジョヴァンニ・リビシにしても演技としては充実している。だがそのすべてが無駄になっている。ただただ、勿体ない出来だった。

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