『ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記』

原題:“National Treasure : Book of Secrets” / 監督:ジョン・タートルトーブ / キャラクター原案:ジム・カウフ、オーレン・アヴィヴ、チャールズ・シーガーズ / ストーリー:テッド・エリオット、テリー・ロッシオ、ザ・ウィバーリーズ / 脚本:ザ・ウィバーリーズ / 製作:ジェリー・ブラッカイマージョン・タートルトーブ / 製作総指揮:マイク・ステンソン、チャド・オーマン、バリー・ウォルドマン、オーレン・アヴィヴ、チャールズ・シーガーズ / 撮影監督:ジョン・シュワルツマン,A.S.C.、アミール・モクリ / プロダクション・デザイナー:ドミニク・ワトキンス / 編集:ウィリアム・ゴールデンバーグ,A.C.E.、デヴィッド・レニー / 衣装:ジュディアナ・マコフスキー / 音楽:トレヴァー・ラビン / 音楽監修:ボブ・バダミ / 出演:ニコラス・ケイジジョン・ヴォイトハーヴェイ・カイテルエド・ハリスダイアン・クルーガージャスティン・バーサブルース・グリーンウッドヘレン・ミレン、クリスチャン・カマルゴ、ジョエル・グレッチ / 配給:WALT DISNEY STUDIOS MOTION PICTURES. JAPAN

2007年アメリカ作品 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2007年12月21日日本公開

公式サイト : http://NT2.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2007/12/26)



[粗筋]

 大冒険の果てに、とうとうゲイツ一族の念願であった財宝に辿り着いたベン・ゲイツ(ニコラス・ケイジ)はその後、学者としてトレジャー・ハンターとして順風満帆の日々を送っていた。だがその幸福な日々はある日、父パトリック(ジョン・ヴォイト)とともに赴いた講演の席で思わぬ汚泥にまみれることになる。

 ゲイツ一族の祖先トーマス・ゲイツ(ジョエル・グレッチ)は、一族の口伝に因れば、南北戦争の頃に先住民から引き継がれた財宝が南軍の手に渡ることを命を賭して阻止した、ということになっている。そのことをスミソニアン美術館で行われた講演にてベンは誇らしげに説いたが、そこに現れたウィルキンソン(エド・ハリス)という男が、リンカーン大統領暗殺の日、暗殺の実行犯ジョン・ウィルクス・ブース(クリスチャン・カマルゴ)の日記から破かれた18ページの1枚と思しき紙片を提示した――そこには、文章の断片ながら、トーマス・ゲイツ――“首謀者”という記述が認められたのである。

 誇りにしていた祖先が、謎に包まれたリンカーン大統領暗殺事件を裏から操っていたと示唆するこの新発見に、ベンは愕然とする。この新発見が大々的に発表されると同時に、ベンが恢復したゲイツ一族の名誉はふたたび地に落ちることは予想に難くなかった。あの日記の紙片にはきっと、祖先が暗殺に拘わっていないことを証明する手懸かりがある、と信じたベンは、先の冒険で彼の相棒を務めたライリー・プール(ジャスティン・バーサ)の協力を仰いで、ある場所に潜入する。

 ある場所――それはベンの元住居であり、いまはかつての恋人アビゲイルチェイス(ダイアン・クルーガー)がひとりで暮らす屋敷であった。アビゲイル国立公文書館の責任者であり、彼女のIDがあれば公文書館に潜入して日記の紙片を調べることが出来る。が、折悪しく脱出前にアビゲイルが帰還してしまったため、ベンは事情を話して協力を求めた。

 渋々ながら同行したアビゲイルと共に紙片を分析すると、そこには向かい合わせになったページから写った文字が遺っていた。それが暗号文であることを察知したベンは快哉を上げる。恐らくトーマスはこの暗号を解くように頼まれ、しかしその日記の持ち主が陰謀に荷担していることを察知して解読を止め、紙片を焼き捨てようとしたのだ。まさにそれこそ、彼が命を賭して守ろうとした財宝の在処を示しているに違いない――

 斯くしてベン・ゲイツは一族の名誉を恢復するべく、ふたたび冒険の旅に赴くのだった……

[感想]

 前作は時機を逸して劇場でもDVDでも鑑賞できなかったが、続編である本編の公開に合わせて地上波での初放映が行われ、そちらを観たうえで劇場に足を運んだ。

 1作目にしてからがそうだが、本編は伝統的な娯楽映画の文法によって作られている。いい意味でも悪い意味でも荒唐無稽であり、観ているあいだはハラハラドキドキを楽しめるものの血は流れず、観終わったあとは爽快。

 本編に登場する、財宝へのヒントを鏤めた骨董や名所の数々は大半が極めて有名なもので、ホワイトハウスにパリの自由の女神像、そしてラシュモア山など、現地を訪れたことがない、どころか海外旅行に興味のない人でも知っているようなものばかりだ。もう多くの人が触れているはずの史跡から新たな暗号が発見されるという非現実的な出来事は、だが同時に非日常の興奮を齎す。そこに史実や、昨今の日本でも流行している都市伝説的な陰謀論を絡めていき、物語の規模は膨らんでいく。荒唐無稽極まりないが、それ故に身近に眠る謎を実感させ、観る者を否応なく作品世界に引きこんでいく。こういう手管は往年の冒険映画を彷彿とさせ、採り上げられた要素の目新しさと裏腹に、不思議な懐かしさをも感じさせる。

 また、背後に剣呑な陰謀を窺わせ、ロンドンを舞台にしたカーチェイスや銃器の使用もされているというのに、決して血が流れないのも、昨今としては珍しい。現実的にあれだけ危険に身を晒しながらほとんど無傷のま乗りきれるはずがないのだが、いっさい血を見せないのは、古風な娯楽映画の健全性を貫いていると言える。スリルとサスペンスを求めつつも暴力に敏感な、例えば子供連れや潔癖症の観客でも安心して観られる仕上がりになっているのだ。

 シリーズ物として主要登場人物を引き継いだことで、既に提示した個性を完成させ更に膨らませ、膨らみのあるユーモアを演出することにも成功しており、作品全体に漂う軽快な雰囲気をいっそう強めている。例えば主人公ベン・ゲイツは前作での経緯から公文書館の責任者アビゲイルと恋愛関係となり同棲を始めるが、その後色々な事情から仲違いをして一緒に購入した家を追い出され、父のアパートに居候状態となっている。そういう下地をもとに繰り広げられる会話のおかしみは、単発作品ではとうてい醸成できないものだ。それらを主演のニコラス・ケイジはじめ、ヘレン・ミレンジョン・ヴォイトなどスクリーンの中で充分な存在感を発揮できる俳優が演じている点も重要である。彼らを含め本編の製作者は、昨今は忌避されがちなこういう作風も映画界には必要であることをきっちり認識して撮っていると思われ、その姿勢が好もしい。

 最後まで辿り着いても、どうして財宝の発見=ゲイツ家の名誉恢復となるのか、またこのタイミングでウィルキンソンが家に伝わってきたメモの切れ端を公表した理由など、そのあたりの説明がついていないし、さすがに随所でお約束とは言い条御都合主義が過ぎる、と感じさせてしまうのは気に懸かる。しかしそういう緩さも含めて愉しむのが、本編の正しい見方でないかと思う。娯楽映画は完璧である必要はなく、粗を見つけて愛でるのもまた楽しみのひとつなのだから。そういう意味でも本編はやはり、娯楽映画における一種の理想型を体現していると言えよう。

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