『幸せになるための27のドレス』

原題:“27 dresses” / 監督:アン・フレッチャー / 脚本:アライン・ブロッシュ・マッケンナ / 製作:ロジャー・バーンバウム、ゲイリー・バーバー、ジョナサン・グリックマン / 製作総指揮:ボビー・ニューマイヤー、ベッキー・クロス・トルヒーリョ、マイケル・メイヤー / 共同製作:エリン・スタム / 撮影監督:ピーター・ジェームズ,A.C.S.,A.S.C. / 美術:シェパード・フランケル / 編集:プリシラ・ネッド・フレンドリー,A.C.E. / 衣装:キャサリン・マリー・トーマス / 音楽監修:バック・デイモン / 音楽:ランディ・エデルマン / 出演:キャサリン・ハイグルジェームズ・マースデンマリン・アッカーマンジュディ・グリアエドワード・バーンズ / 配給:20世紀フォックス

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間51分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2008年05月31日日本公開

公式サイト : http://www.27dress.jp/

日劇PLEXにて初見(2008/05/28) ※トークイベント付特別先行上映



[粗筋]

 ジェーン(キャサリン・ハイグル)が“結婚式”というものに魅せられたのは8歳のとき、ドレスにトラブルが生じた叔母を手助けし、感謝されたことが最初だった。もともと世話好きな性格もあってか、以来ジェーンが手懸けた花嫁付添人の回数は実に25回、26回目と27回目に至っては奇しくも同じ日に催されたために、ジェーンはタクシーを借り切って、何度も往復する羽目になった。

 だが、そんなジェーン自身にはなかなか幸せは訪れない。勤めているアウトドアグッズの会社を興した社長ジョージ(エドワード・バーンズ)に憧れを抱いているが、彼の性格を熟知したアシスタントぶりで信頼は置かれているものの、恋心については一向に認識してもらえずにいる。

 そんな彼女に注目した人物がいた。彼――ケヴィン(ジェームス・マースデン)は別名義で“結婚の誓い”という日曜版のシリーズ記事を手懸けていたが、結婚に対して悪印象を持っているために厭で厭で仕方ない。この現状を打破するべく画策していたところへ、取材先の結婚式で、頻繁に出入りするジェーンを発見、彼女が落とした手帳の内容から、27回も花嫁付添人をしている、という驚くべき経歴を知り、彼女を取っかかりに新機軸を開くことを思いついたのだ。以来ケヴィンは手帳をきっかけに、ジェーンへのアプローチを始める。

 ある日、ジェーンのもとに、仕事でマンハッタンを離れていた妹のテス(マリン・アッカーマン)が舞い戻ってきた。最初の晩、やはりジェーンが付添人を務める友人の婚約パーティの席に気乗りしない様子でやって来たテスは、だがそこでよりによって、ジョージを見初める。ジェーンにとって不幸なことに、対するジョージもまた満更ではない様子だった。愛する妹のために、ジェーンはその場を離れる――まさか、その日のうちに二人が結ばれるとは思いもせずに。

 日に日にテスとジョージは惹かれ合っていき、ジョージはジェーンの見ている前でテスに電話をかけ、ジェーンの家にはテスに宛てた花が毎日のように届く。テスは予めジェーンから得ていた情報を元に、彼の前ではアウトドア派でペットを愛するベジタリアンを装ってジョージの関心を惹こうとし、あっさりと騙されるジョージにジェーンは苛立ちさえ覚える。しかし、何ら手の内ようがないまま、遂にジョージはテスに求婚してしまった……またしても、ジェーンの見ている前で。

 自分が幸せになるどころか、自分の恋する相手を奪っていく妹の花嫁付添人を務める羽目になったジェーン――果たして彼女に、本当に幸せは訪れるのだろうか……?

[感想]

 日本ではあまり聞かない“花嫁付添人”*1という仕事だが、内容的には最近浸透してきたウェディング・プランナーに近い。違うのは、多く花嫁に近い友人が務め、より私的な部分まで協力をすること、と言えるだろう。本篇の中でも、用を足す花嫁のために一緒にトイレに入ってスカートの裾を支える、という場面が描かれている。傍目には滑稽だが、必要な役割として認知されているのだろう。

 だが本来脇役であるこの仕事を好んで務める女性を主役に採り上げた映画、というのは恐らくほとんど例を見まい。それ自体がいい着眼なのだが、本篇はそこから「繰り返し花嫁付添人を務める女性とはどんな人柄なのか」という点を突き詰め、説得力のあるキャラクターと、それを活かすための状況・イベントを巧く取捨選択し、コメディとして見事に完成させているのがいい。

 そもそも冒頭の、結婚式の掛け持ちという状況からして秀逸だ。よほどの世話好きであり、その心配りが極めて行き届いている一方、自分自身のことは概ねあとまわしにしている、という性格が実に解り易く伝わってくる。友人関係などある程度は重複するもので、出席者の一切被らないような結婚式ふたつで、よほど親しくなければ任されないはずの花嫁付添人を任されているという不自然は感じるが、むしろそこまで極端であることが、キャラクターを膨らませる役にも立っている。

 ここで観客の気持ちを掴んでしまうと、あとはもうひたすらテンポよく話が運ぶ。ケヴィンの容喙にテスの登場と思いもかけぬ失恋、といった展開が畳みかけるように続き、そんな中で面倒見はいいくせに自分はなおざりにする、という性質をコメディ的にもロマンス的にも活用して、面白さと切なさとを丁寧に醸成していく。

 そんなヒロインに絡める、新聞記者のキャラクターがまた絶妙だ。結婚に関する連載記事を手懸けながら結婚という儀式に嫌悪感を抱いており、ジェーンにも皮肉を以て接する。だが、そういう彼だからこそきっちり背景を設けていて、それがジェーンの価値観と概ね反発しながらも、しばしばシンクロしていく。そうしてじわじわと心を通わせていく、オーソドックスながら着実なラヴ・コメディとしての筋運びが実に快い。

 しかし、あまりにそうした前提や組み立てが巧ければ巧いほど、正直観ているこちらは不安を覚えた。あとひとつ波乱を起こせば致命的に取り返しのつかない事態に陥る、ということが想像できるのだ。あまりに流れがコメディとして楽しい分、少しでも後味の悪い部分を留めた決着になると全体の印象が悪化する、と途中からかなりハラハラしていたのだ。

 が、そのまとめ方も思いの外綺麗で、いい意味で予想を裏切られた。どのみちどこかでぶち壊してしまわなければ収まらない成り行きだったので、そこをユーモアでくるみつつ、しかし登場人物たちひとり一人に真摯に対したお陰で、むしろ想像以上に爽快感のある決着に落ち着いている。

 ここで効果を上げているのは、細かな会話やシチュエーションの積み重ねだ。姉妹が初めて本気でぶつかり合う場面も秀逸だが、特に絶妙なのはキスシーンである――このキスシーンの表現自体もなかなか型破りだが、しかし実感的で、このくだりがあるからこそ締め括りに説得力が加わっている。

 この個性的で愛すべきヒロインを、現在本国でも着実に評価を高めつつあるが、しかし国際的にはまだまだ知名度の低いキャサリン・ハイグルという女優が演じているのも奏功している。余計な先入観を抱かせることなく、彼女の人柄そのもので惹きつける空気を作りあげているのである。

 ロマンティック・コメディと表現すると、映画を一人で観に行くような層は二の足を踏んでしまいがちだが、しかしキャラクター作りもエピソードの構築も丹念なこの作品は、一人で観ても充分に楽しめるし、後味も爽快なので気分転換には最適だと思う。……むしろ、下手に恋人同士で観るほうが厄介ではなかろうか。間違いなく真意を勘繰られる。

*1:本篇中の字幕は“ブライズメイド”となっている

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