『プライベート・ライアン』


原題:“Saving Private Ryan” / 監督:スティーヴン・スピルバーグ / 脚本:ロバート・ロダット / 製作:スティーヴン・スピルバーグ、イアン・ブライス、マーク・ゴードン、ゲイリー・レヴィンソーン / 共同製作:ボニー・カーティス、アリソン・リヨン・セーガン / 撮影監督:ヤヌス・カミンスキー / プロダクション・デザイナー:トム・サンダース / 編集:マイケル・カーン / 衣装:ジョアンナ・ジョンストン / キャスティング:デニス・チャミアン / 音楽:ジョン・ウィリアムズ / 出演:トム・ハンクス、トム・サイズモア、エドワード・バーンズ、バリー・ペッパー、アダム・ゴールドバーグ、ヴィン・ディーゼル、ジョヴァンニ・リビシ、ジェレミー・デイヴィス、マット・デイモン、テッド・ダンソン、デニス・ファリーナ、ポール・ジアマッティ / アンブリン・エンタテインメント製作 / 初公開時配給:UIP Japan / 映像ソフト発売元:Paramount Japan
1998年日本作品 / 上映時間:2時間50分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / R15+
1998年9月26日日本公開
2019年4月24日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon|$k ULTRA HD + Blu-rayセット:amazon]
Blu-ray Discにて初見(2020/03/28)


[粗筋]
 1944年6月。連合軍は北西ヨーロッパに展開するドイツ軍を制圧するべく、ノルマンディー上陸作戦を決行する。
 ジョン・H・ミラー陸軍大尉(トム・ハンクス)が所属する第2レンジャー大隊C中隊隊長はオマハ・ビーチに侵攻するが、上陸前に高波で戦車や多くの銃火器を喪失、兵士たちは銃弾の雨に晒された。辛うじて前線を突破、ビーチの制圧に成功するものの、波打ち際が朱に染まるほど多大な犠牲を払うこととなった。
 ようやく橋頭堡を築いたウォルター・アンダーソン陸軍中佐(デニス・ファリーナ)のもとに、更に過酷な指令が届いた。それは、落下傘兵として奥地に降り立ち生死不明のジェームズ・ライアン二等兵(マット・デイモン)を発見し、本国に送還せよ、というものだった。ライアンは5人兄弟の末弟だが、その日までに残る4人の兄がすべて戦死、唯一残された子息を家に戻すべきだ、という判断を将軍が直々に下したのである。
 ミラー大尉は残った部下に、フランス語とドイツ語の通訳として新たにアパム伍長(ジェレミー・デイヴィス)を加えた7人を率い、ライアン二等兵が所属する101空挺部隊が誤降下したと見られる内陸部へ向かう。
 やがて一行は、激戦によって廃墟と化した村に到達する。村では未だ、連合軍とドイツ軍とが睨み合っていた。情報を得ようとするミラー大尉たちに、孤立したフランス人一家が、子供を保護するよう求めてきた。任務遂行のために拒絶を指示するミラー大尉と、保護を訴えるエイドリアン・カパーゾ二等兵(ヴィン・ディーゼル)らとのあいだで言い争いになったとき、悲劇が訪れた――


[感想]
 いずれ観ておかなければ、と思い、ブルーレイ版がリリースされたときに購入したはいいが、なかなか通して鑑賞することが出来なかった。3時間に迫る尺が、自宅で集中して鑑賞するには長すぎたこともさることながら、少し観てみよう、と再生を始めると、冒頭30分ですっかり気力を奪われてしまうのだ。最終的に、「きょうは1日費やしても終わりまで辿り着く」と決心して臨むことにした。
 それほどに本篇は序盤30分の衝撃が凄まじい。家族と共に墓所を訪れる老人の姿を追ったプロローグから一気に過去を遡ると、途端に物語は凄惨な戦場へと移る。上陸するなり銃弾の雨に晒され、血飛沫を撒き散らす兵士たち。ようやく岸に辿り着いても砲弾や爆弾で手足を吹き飛ばされる。それでも必死に侵攻するミラー大尉の目には、腹からこぼれる内臓を押さえて鳴き喚くものや、自分の千切れた腕を拾うべきか戸惑うものの姿が映っている。衛生兵が救護しているあいだにも新たな銃弾が頭を貫き徒労に帰してしまう。怒濤の如く描き出される戦場のリアルに、30分ほどで気力を奪われてしまう、というのは観れば納得していただけるはずだ。
 約3時間すべてこの調子ではさすがに体力が幾らあっても保たない、と思い覚悟を固めて鑑賞したのだが、意外にも、と言うべきか、このオマハ・ビーチ上陸までのくだりを過ぎると少し楽になる。ドイツ軍との鍔迫り合いが続く最前線を貫いていく、と言い条、途中には森林など非戦闘地域もあり、そういう場所を進行しているあいだは、救助作戦に選ばれた兵士たちも軽口を叩き、緊張が緩む。この緩急があるお陰で、序盤さえ乗り越えれば見通すのはそれほど辛くはない。
 あの壮絶極まる序盤は、観客をそれ以降のあまりにも過酷な戦闘に慣らすと共に、あの地獄絵図のなかを生き延びてなお、たったひとりを救出するため更なる試練を強いられる理不尽さを強調するために必要だった。一瞬の油断で脳漿を撒き散らしかねない戦場を乗り越えた適応力と強運があっても、より最前線に踏み込んでいって無事でいられる保証などない。そういう状況に直面した男たちの動揺、恐怖、開き直りといった心情が彼らの会話や関係性の変化などから窺え、心理劇としての側面も見せる。
 あれだけの激戦を生き抜いてきた者たちなのだから、作戦に参加した兵士たちにはみな豪胆さやしたたかさがある。しかし、そんな彼らにも愛する家族があり、心の拠り処がある。激しい戦闘が強烈なインパクトをもたらす本篇だが、それと同時に印象に残るのは、生き残った者の死者に対する心遣いだ。作戦の早い段階で死んだ者が母親に残した手紙が血に濡れて読めなくなったので、僅かな休息の時間を割いて別の紙に清書するシーンがある。ここで登場した手紙は、その後も折に触れて登場し、死んだ者の記憶を蘇らせるのと同時に、その死に対する兵士たちの厳粛な思いをも垣間見せている。
 中心となる兵士たちにはそれぞれきちんとドラマが用意されているが、やはりいちばん際立っているのは、部隊を率いるミラー大尉だ。冷静沈着で指揮に容赦のない彼は、過去を語らないため、その前歴が部下たちの賭けの対象にされるほど謎めいている。だが、重大な局面に迫ったとき、その右手は常に震えている。表情から怯えているような様子もなく、最後までこの震えの正体は明確に説明されないままだが、中盤以降で明かされる彼の前歴、そこから窺える心情からすれば、正気でいられるはずがないのだ。それでも毅然と振る舞いつづけるミラー大尉の姿は凜々しくも痛々しく、しかしその震えが止まった瞬間、観客はそこに救いを見出す。
 戦場での最後の場面で、ミラー大尉が口にする言葉は、あの兵士にだけかけた言葉ではない。あの戦場を生き延びた者、ひいてはこの映画を観たすべての人間に向けたもの、と受け止められる。そして、だからこそそのあとのエピローグのもたらす余韻もまた深い。
 冒頭に度胆を抜かれ魂を奪われるような心地を味わうが、しかし全篇を観終えたあとは、不思議な活力を得た気分になるはずである。

命賭けておまえ達を
守ったと言わせてやれ
それを正義と
言うつもりはないが
時代と片付けたくもない

さだまさし『戦友会』より


関連作品:
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