『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(字幕・DOLBY CINEMA)』

丸の内ピカデリー、DOLBY CINEMAスクリーンの通路入口に展開するイメージ映像。
原題:“Birds of Prey : And the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn” / 監督:キャシー・ヤン / 脚本:クリスティーナ・ホドソン / 製作:スー・クロール、マーゴット・ロビー、ブライアン・アンケレス / 製作総指揮:デヴィッド・エアー、ウォルター・ハマダ、ジェフ・ジョンズ、ハンス・リッター、ギャレン・ヴァイスマン / 共同製作:クリスティーナ・ホドソン、ドナルド・スパークス / 撮影監督:マシュー・リバティーク / プロダクション・デザイナー:K・K・バレット / 編集:ジェイ・キャシディ、エヴァン・シーフ / 衣装:エリン・ベナック、ヘレン・ファン / キャスティング:リッチ・デリア / 音楽:ダニエル・ペンバートン / 出演:マーゴット・ロビー、ロージー・ペレス、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ジャーニー・スモレット=ベル、エラ・ジェイ・パスコ、クリス・メッシーナ、ユアン・マクレガー / ラッキーハウス・エンタテインメント、クラブハウス・ピクチャーズ製作 / 配給:Warner Bros.
2020年アメリカ作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:アンゼたかし / PG12
2020年3月20日日本公開
公式サイト : http://harleyquinn-movie.jp/
丸の内ピカデリーにて初見(2020/03/21)


[粗筋]
 もとは温厚な精神科医、しかし狂気の犯罪王ジョーカーと恋に落ち、肉体的・精神的に改造された結果、自らも狂った女道化師となったハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)。ゴッサムにおいて、“ジョーカーの恋人”という立場は絶対的であり、闇社会で彼女に逆らう者はいなかった。
 悪党たちの運命を変えたエンチャントレスの事件のあと、ジョーカーの手引で脱獄に成功したハーレイだったが、紆余曲折の末にジョーカーに捨てられてしまう。特権を惜しみ、その事実を伏せて享楽に耽っていたハーレイだったが、酔った勢いで自立の必要性を感じたハーレイは、彼女がジョーカーの命令で白い肌を得るため化学薬品プラントに飛び込んだエース・ケミカル社の工場を破壊、美しい想い出との訣別を高らかに宣言する。
 だがそれは同時に、彼女が世間に向かって、ジョーカーの女ではなくなった事実を告白することも意味した。途端にハーレイは、これまでの傍若無人な振る舞いによって怨みを抱いた者たちに命を狙われる羽目に陥る。
 ハーレイに怨みを抱くひとりが、厄介なことに現在、闇社会で勢力を拡大しているローマン・シオニス(ユアン・マクレガー)という男だった。ナイフ使いの殺人鬼ビクター・ザーズ(クリス・メッシーナ)を右腕に、犠牲者の顔を剥ぐ猟奇的な手口で恐怖をもたらしゴッサムを制圧しつつあったシオニスは折しも、その地位を盤石のものとするべく、かつて皆殺しにされた資産家バーティネリ一族の秘密口座の手懸かりが秘められたダイヤを遂に入手しようとしていた。
 だが、よりによって取引の直後、ダイヤを預かったザーズがスリに遭い、ダイヤを奪われてしまう。捕らえられ、なぶり殺しになる寸前だったハーレイは、自分ならダイヤを取り戻せる、と言い張り、命乞いをした。
 ザーズからダイヤをくすねたのは、カサンドラ・ケイン(エラ・ジェイ・パスコ)という少女だった。ハーレイも、シオニスでさえも知るよしはなかったが、彼女はシオニスが最近、クラブの歌手から運転手兼として引き抜いたブラックキャナリー(ジャーニー・スモレット=ベル)とはアパートの隣人同士だった。カサンドラの命が危ういことを悟ったブラックキャナリーは、かねてからシオニスたちの内情を探るべく接触してきていたゴッサム市警の刑事レニー・モントーヤ(ロージー・ペレス)に密告し警戒を促す。
 意気揚々とゴッサム市警本部に乗り込んだハーレイだったが、戦う相手は警官だけではなかった。ダイヤの奪還と引きかえにハーレイが助かるのを良しとしないシオニスは別に手下を送りこんでいる。四面楚歌の最悪の状況で、ハーレイは生き延びることが出来るのか――?


[感想]
 DCコミックのヴィランを集めた特殊部隊の活躍を描いた『スーサイド・スクワッド』は、悪役の知名度、人気いずれからの観点でも、製作発表時ではジャレッド・レトが演じたジョーカーが中心人物になる、と思われていた。しかし実際に完成された作品におけるジョーカーはどちらかと言えば掻き回すだけの役割で、主軸となる事件に絡んでこないばかりか、目立った活躍も披露できず、いささか不完全燃焼の内容だった。製作者の構想したストーリーに、あまりにも自由奔放、制御も難しいジョーカーというキャラクターが嵌まらなかったらしい。オスカーにも輝く快演ぶりだったヒース・レジャーと一線を画するため、よりパンクな役作りをしたジャレッド・レトも、『スーサイド・スクワッド』のなかではだいぶ浮いてしまった感も否めない。
 映画からDCコミックの世界に入っていった観客には大半が未知の悪役であり、園井でも満足のいくキャラクターの確立が出来なかった『スーサイド・スクワッド』のなかで、唯一といっていいほど気を吐いたのがハーレイ・クインだった。
 もともと精神科医だったが、ジョーカーを愛して狂気に身を委ねた。薬品で漂白された肌にカラフルでサイケデリックなファッションを纏い、欲望の赴くままに行動する。犯罪にも躊躇はないが、きちんとチーム2貢献する義理堅さのような一面も覗かせる。善人ではないのは確かだし、近くにはいて欲しくはないが、その横紙破りぶりはあまりにも魅力的だ。『スーサイド・スクワッド』の面々でいち早く単独主演作が制作されるのも頷ける(ホアキン・フェニックスの『ジョーカー』は一連のDCエクステンデッド・ユニヴァースとは繋がらない位置づけで制作されているので勘定に入れない)。
 そんな彼女が初めて単独でスポットを浴びる本篇の端緒が、ジョーカーとの別れ、というのは意外だった――が、これは原作でも提示されている展開のひとつだったらしい。そして実のところ、本篇が描こうとしたことには、ジョーカーとの離別が欠かせなかった、と考えられる。
 この作品で描かれるハーレイの苦難は、ジョーカーとの(他人の目から見れば苛烈だけど)甘い想い出と訣別するべく、彼女らしい行動に出たことがきっかけだった。それはハーレイが巨大な後ろ盾を失ったことを喧伝する結果をももたらし、途端にかつて虐げたひとびとから狙われる羽目になる。清々しいくらいに自業自得だが、それが他者の先導で危機と戦った『スーサイド・スクワッド』とは異なる、より剥き出しに近いハーレイ・クインというキャラクターの面白さを引き出している。人を食ったような振る舞いはそのままに、生き残ることに執着しながらも卑屈さは感じさせず、ひたすらにしたたかだ。
 そして本篇は、そんな彼女の物語に、他の迫害されながらも強く生きてきた女性達の物語が絡んでいく。おのおの背景は異なれど、いずれも自らの置かれた境遇に悩み、そこから脱却しようともがいている女性ばかりだ。そして皆、抜け出すための力は持っているが、きっかけを得られずにいる。そんな彼女たちが、ハーレイを中心として巻き起こるトラブルに遭遇することで覚醒していく。
 本篇の邦題、原題でもサブタイトルに提示されている“覚醒”はつまり、決してハーレイ・クインひとりのことではない。この作品は何らかの事情で抑圧され鬱屈を抱え込むひとびと、とりわけそういう女性達を鼓舞することを意識して作られている、と読み解くことが出来そうだ。
 そんな彼女たちが、ある意味でみなステレオタイプで、抽象化された男たちを、女性らしいしなやさかを留めながらも、まるで舞踏のように華麗で力強いアクションで文字通りに薙ぎ倒していくクライマックスがこの上なく清々しい。
 こうした描写は、女性達は決して侮られるものではなく、横暴に立ち向かうことの出来る存在だ、と宣言するかのようだ。そして、その宣言通り、鮮やかに切り抜けてしまうからこそ、本篇はなおさら爽快なのだろう。
 女性達の活躍と、その決して陰に籠もらないポップな語り口に会わせ、本篇は美術や色遣いも他のDCEU作品よりも明るく鮮やかだ。特に強い印象を残すのは叫ぶ女性の口から入り、その体内の光景をシュールに再現したと思われる遊園地の廃墟だが、市街地や警察署など、他の作品でも少なからず触れているはずの舞台も華やかに描いている。ハーレイ含め、本篇に登場する女性は少なからず苦境にあるが、そうした画面の華麗さと全篇を彩る軽快なテンポも相俟って、重苦しさは微塵もない。
 少々何もかもを安易に解決してしまったきらいはあるが、むしろそのくらい軽やかに力強く困難を突き破るからこそ、本篇は痛快なのだろう。理不尽な状況にあって息苦しさを覚えているようなひとにお薦めしたい――きっと気分が晴れて、これからの活力を得られるはずだから。


関連作品:
マン・オブ・スティール』/『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』/『スーサイド・スクワッド』/『ワンダーウーマン』/『ジャスティス・リーグ』/『アクアマン』/『シャザム!
マネー・ショート 華麗なる大逆転』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』/『10 クローバーフィールド・レーン』/『アルゴ』/『8月の家族たち
ジョーカー』/『ヴェノム』/『レディ・バード』/『オーシャンズ8』/『アリータ:バトル・エンジェル』/『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』/『ミッドサマー

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