『映画 けいおん!』

『映画 けいおん!』

原作:かきふらい(芳文社・刊) / 監督:山田尚子 / 脚本:吉田玲子 / キャラクターデザイン&総作画監督堀口悠紀子 / レイアウト監修:本上益治 / 楽器設定&楽器作監高橋博行 / 絵コンテ:山田尚子石原立也 / 演出:山田尚子石原立也、内海紘子 / 作画監督堀口悠紀子池田和美門脇未来 / 美術監督:田村せいき / 撮影監督:山本倫 / 編集:重村建吾 / 3DCG:梅津哲郎、柴田裕司 / 音楽:百石元 / 声の出演:豊崎愛生日笠陽子佐藤聡美寿美菜子竹達彩奈真田アサミ藤東知夏米澤円、永田依子、中村千絵浅川悠中尾衣里 / アニメーション制作:京都アニメーション / 配給:松竹

2011年日本作品 / 上映時間:1時間50分

2011年12月3日日本公開

公式サイト : http://www.tbs.co.jp/anime/k-on/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2011/12/14)



[粗筋]

 軽音部・放課後ティータイムのうち四人が卒業する日が近づいていた。

 だがここに来て平沢唯(豊崎愛生)は、唯一の下級生・中野梓(竹達彩奈)に対して先輩らしいことを何もしていないと気づく。せめて何か残してあげたい、と他の卒業生である田井中律佐藤聡美)、秋山澪(日笠陽子)、琴吹紬(寿美菜子)と相談する、が基本要領の悪い唯は梓に見つかりそうになって、何とかごまかそうと「卒業旅行の行き先を考えてたんだ」と口走ってしまった。

 実際、脱線の挙句にそんな話もしていたせいかトントン拍子に盛り上がり、本当にロンドンへの卒業旅行が決まってしまう。しかも何故か、卒業しない梓まで同行する、ということになった。

 いまいち頼りない先輩四人に代わって下調べに余念のない梓をよそに、唯たちは梓への贈り物に頭を悩ませる。だが、結局具体的に何も決まらないまま、卒業式前の試験休み――5人が決めた卒業旅行の日が訪れた……

[感想]

 2009年、2010年と二度にわたってテレビシリーズが制作され、大ヒットとなったアニメの劇場版である。

 が、実は私はこのアニメ、一度も観たことがない。存在は知っているし、第1シリーズ放映時にはオープニング曲をダウンロードではあるが購入してしまっていて、ちょこっとぐらいは知識がある。だが、そうこうしているうちに人気が沸騰してしまって、“売れたものにあとから乗りたくない”という天邪鬼な性格ゆえ、結局アニメにも原作にも触れずに来てしまった。

 それでも、色々思うところや、タイミングもあって、興味を惹かれるままに、ごく最小限の予備知識を携えて本篇を鑑賞したのだが、率直に言って、脱帽した。

 恐らく、テレビシリーズを観ていないと伝わりづらい仕掛けはかなりの数存在しているように感じる。オカルト研究会にまつわるモチーフはさすがによく解らないし、友人関係についてもすべてが一目瞭然というわけではなかった。

 だが、それでも主要キャラクターの個性は、冒頭からの数分間でほとんど把握出来る。テレビシリーズという形で既に掘り下げられ、完成されているが故に特徴が明確で、最初こそ少し戸惑うが、すぐに人物の見分けがつくようになる。簡単に言うが、前提のない完全なオリジナル作品では難しく、しかしシリーズものでは“観客がキャラクターを知っているから”という甘えが僅かでも嵩むと、初見の観客には意味不明になりがちだ。テレビシリーズの終了から1年以上を経ての公開、ということを配慮して、少し個性を際立たせたのかも知れないが、そういう気遣いが出来るからこその効果だろう。

 前述したように、恐らくテレビシリーズの視聴者でないと解らないネタもあると思われる一方で、この劇場版のなかで完結しているくすぐりがあるのも、初見で問題なく愉しめる所以だ。卒業旅行と後輩・梓に対する贈り物、というふたつの柱のあいだに、秘密を持つことに不慣れな唯の言動に梓があらぬ疑いを抱くというモチーフや、ロンドン到着早々に見舞われたトラブルをきっかけに澪が妙なところに苦手意識を持ってしまうあたりなどの使い方が巧い。

 卒業、という時期的な題材を扱っているが故の特別なムードが漂う一方で、しかしこの作品は基本的に大きな事件に遭遇して派手な見せ場がある、というものではなく、どちらかと言えばずっと続いていく日常の断片を見せ、その空気に触れることの愉しさこそが魅力になっている。近年の漫画やアニメで増えてきたタイプの作品だが、こういうものは中毒になると何度でも鑑賞出来る一方で、合わない人には忌避したくなるくらい合わない傾向もある。それ故に本篇も人によっては受け付けないだろうが、しかし日常を繋ぎあわせつつも全篇に通したテーマ、軽いヤマ場を設けているので、下手な作り手が“日常もの”を扱ったときのような退屈さは感じない。“日常もの”ならではの、押しつけがましい主題や無理矢理涙を誘うようなシチュエーションを用意していないのに、長篇としての体裁が整っているのだ。それこそ『アメリカン・グラフィティ』のような作品に通じる、青春映画の香気さえ嗅ぎ取れる……と言うとさすがに褒めすぎかも知れないけれど。

 印象的なカメラワークが多く、映像的にも出色の出来映えだが、特に驚かされるのは演奏シーンの完成度だ。制作を手懸けた京都アニメーションは、以前からこうした音楽に関するモチーフへのこだわりの強さがアニメファンのあいだでは有名だが、本篇の見せ方の巧さはなまじの実写映画を凌駕している。楽器の弾けない俳優に代わって本物の音楽家が演奏する、というのは仕方ないにしても、多少音楽を愛好する者なら、音と手の動きが合っていないのが一目瞭然、というケースが多いのに、本篇はほとんど間然するところがない。手の動きと実際の音に大きな違いがなく、演奏の見せ方にも誤魔化しが少ない。作中、何度かライヴが行われるが、その舞台設定にしても雰囲気にしても、非常に自然だ。自然だからこそ、観ていて興が削がれることはないし、その昂揚感に素直に浸ることが出来る。

 卒業式前後こそ少し感情が昂るが、基本的には穏やかに、和やかに繰り返す日常の匂いが色濃い。だが、それ故に明瞭な事件、トラブルの発生する映画では得られない、まろやかな心地を齎してくれる。原作やオリジナル・シリーズのファンの評価はよく解らないが、案外、これといった知識もなくチケットを購入してしまったような人こそ、本篇を快く愉しめるかも知れない――もっとも、本当に大きな波乱はなく、日常の出来事を綴っている作品なので、そういうものがどーしても合わない、という人は興味本位でも観ないほうがいいとは思うが。

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コメント

  1. […] パリッと! 想い出のミルフィーユ!』/『映画 けいおん!』/『Go!プリンセスプリキュア […]

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