原題:“Get Smart” / 監督:ピーター・シーガル / キャラクター原案:メル・ブルックス、バック・ヘンリー / 脚本:トム・J・アッスル、マット・エンバー / 製作:アンドリュー・ラザー、チャールズ・ローブン、アレックス・ガートナー、マイケル・ユーイング / 製作総指揮:ブレント・オーコナー、ジミー・ミラー、デイナ・ゴールドバーグ、ブルース・バーマン、ピーター・シーガル / 撮影監督:ディーン・セムラー / 美術:ウィン・トマス / 編集:リチャード・ピアソン / 衣装:デボラ・スコット / 音楽:トレヴァー・ラビン / 出演:スティーヴ・カレル、アン・ハサウェイ、ドウェイン・ジョンソン、アラン・アーキン、テレンス・スタンプ、ジェイムズ・カーン、マシ・オカ、ネイト・トレンス、ケン・ダビティアン、テリー・クルーズ、デイヴィッド・コークナー、ダリープ・シン、ビル・マーレイ / 配給:Warner Bros.
2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間50分 / 日本語字幕:藤澤睦実 / 字幕協力:小池正宏
2008年10月11日日本公開
公式サイト : http://getsmart-movie.jp/
[粗筋]
マックスウェル・“マックス”・スマート(スティーヴ・カレル)はアメリカの秘密諜報機関“コントロール”に所属する分析官である。だが長年に亘って、コードネームで呼ばれるエージェントへの昇格を夢見ていた。そのために大幅なダイエットを敢行、遂に任務にも耐えうる肉体を手に入れ、満を持して8度目の試験に臨んだが、結果は――失格。しかしチーフ(アラン・アーキン)曰く、評価自体は悪くなかった。ただ、分析官としての桁外れた有能さを惜しむあまり、エージェントへの転向が認められなかった、というのである。納得のいかない結末だが、マックスは唯々諾々と呑むしかなかった。
しかし、次に彼が本部に出勤したとき、中は壊滅状態にあった――どうやら、コントロールが長年その動向を探っていたものの、10年近く活動が確認されていなかった犯罪組織“カオス”が遂に動き、内通者の協力で本部を襲撃したらしい。しかも、このときにエージェントたちの名前と顔があらかた知られてしまい、凄腕のエージェント23(ドウェイン・ジョンソン)さえも例外でなく、カオスが秘匿した核兵器がロシアに眠っている、というマックスの得た情報を検証する手段もない。やむなくチーフは、直前に全身整形を受けて顔が敵に知られていないベテランのエージェント99(アン・ハサウェイ)に、急遽エージェント86の称号を与えたマックスをつけて、ふたりをロシアへと派遣する。
確かに有能なのだが気ばかりが逸っているマックスは、移動中の飛行機内でヘマをやらかし、予定外の場所に落とされる羽目に。偶然の成り行きから、核兵器の輸送に関わったと思しき人物を見つけ、彼らがパーティーを催している屋敷へと潜入するが、手際よくセキュリティをかいくぐるエージェント99に対し、新人エージェント86は失敗ばかり。
念願叶って新人エージェントとなったマックスは、このピンチを切り抜け世界を救うことが出来るだろうか――いや、本当に出来るのだろうか?
[感想]
本篇はかつて人気を博したテレビドラマ『それ行けスマート』のリメイクである――とは言うものの、主要キャストのほとんどがリアルタイムで観ていない、というぐらい古い作品なので、あまり気に留める必要はないだろう。細かな基本設定とスパイ・コメディとしての本質を損なうことなく、現代的にアレンジした、程度の理解でいいはずだ。
そもそも予備知識の必要など無く、極めてよく出来たコメディ映画である。序盤から主人公マックス・スマートと彼の所属する組織“コントロール”の、大真面目であるからこそ奇妙な言動で笑いを誘い、その中で一気に事件の本筋へと導いていく。常に何かしらアイディアを示し、細かくくすぐってくる丁寧さが光っている。
本篇の最大の美点は、こうしたコメディものとしては珍しく、話の展開に筋が通っていることだ。コメディものは笑わせる状況を作るために話を無理矢理ねじ曲げることが少なくなく、それがよく一般的なドラマよりも下に捉えられる原因となっているのだが、本篇はそういう粗がほとんどない。分析官として優秀であるが故にエージェントに起用されなかったマックスが急遽エージェントとして起用される理由、しかもベテランといきなり組まされた事情、そして彼の失態の数々と、偶然から正解を導き出す過程に至るまで、不自然さがほとんどない。そもそも使っている道具が非現実的であったり、アクションが超人的すぎる、という部分はあるが、そのあたりは一時期の正統派と呼ばれるスパイ映画の流れを踏まえたものだし、装備は豪快でも使っている人間の性格や能力によってちゃんとギャグに転じているので、問題視するには及ぶまい。
ただ、個人的に引っ掛かったのは、見ていて“痛い”ギャグが散見されることだ。無理がある、という話ではなく、まさに痛みを生々しく感じられて、見ていて辛いのである。飛行機にてマックスが拘束を解こうと四苦八苦するくだりや、正体を知られて内勤になったエージェントたちの争いでの一コマなど、正直痛すぎて笑えない。感情移入が激しい人ほど似たような感想を抱くのではなかろうか。
もうひとつ、これは本篇が悪いわけではないのだが、終盤で提示される趣向が、比較的最近に公開されたある映画と思いっ切り被っている。いくつも類例のある定番の手段であるし、本篇は本質的に名作アクションやスパイ物のパロディである、という側面から考えれば、被っていること自体はさして気に留める必要もないように思うのだが、なまじストーリーの骨格がしっかりしているだけに、そこにもう一工夫があっても良かったように感じてしまう。
だが、そういう点を踏まえても、本篇は極めて良心的に、丁寧さとユーモア精神のバランスを巧く保って作りあげられた上質のコメディ映画であることは疑いようがない。下手なコメディ映画を観ると、終わったあとに添加物山盛りの食品を口にしたような後味が残ることがあるが、本篇は観たあとに確かな爽快感を齎してくれる。同じように、主人公がとことん生真面目で、それがギャグに結びつく、という基本構造を備えた『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』と較べるとまだ弾けきれていない印象はあるが、大手スタジオの予算と能力をとことん駆使した本篇も、コメディ映画としての完成度は高い。
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