『サンゲリア』

サンゲリア パーフェクト・コレクション [DVD]

原題:“Zombi 2” / 監督:ルチオ・フルチ / 脚本:エリザ・ブリガンディ / 製作:ウーゴ・トゥッチ、ファブリッツィオ・デ・アンジェリス / 撮影監督:セルジオ・サルヴァティ / 特撮監修&特殊メイク:ジャンネット・デ・ロッシ / 特殊効果:ジノ・デ・ロッシ / 編集:ヴィンチェンゾ・トマッシ / 衣装:ウォルター・パトリアルカ / 音楽:ファビオ・フリッツィ、ジョルジョ・トゥッチ / 出演:イアン・マカロック、ティサ・ファロー、リチャード・ジョンソン、オルガ・カルラトス、アウレッタ・ゲイ、アル・クライヴォー、ステファニア・ダマリオ / 配給:東宝東和 / DVD発売元:KING RECORDS(鑑賞したのはJVDより2005年にリリースされたヴァージョン)

1979年イタリア・アメリカ合作 / 上映時間:1時間31分 / 日本語字幕:?

1980年5月14日日本公開

2009年8月5日DVD日本最新盤発売 [bk1amazon]

DVDにて初見(2009/07/13)



[粗筋]

 ニューヨーク湾に1隻の、操縦士不在と思われるボートが漂着した。湾岸警備隊が乗り込んで内部を調べていたところ、奥に肉体を腐らせた男が潜伏しており、警官をひとり殺害したのち、もうひとりに銃撃されて海中に没する。

 この奇怪なニュースに食いついた新聞社は記者のウェスト(イアン・マカロック)を派遣、真相を探らせた。さっそくウェストは潜入したボートにて、ボートの持ち主であるボウルズという男の娘・アン(ティサ・ファロー)と出逢う。アンの父が数ヶ月前に西インド諸島にあるマツールという島へと向けてボートを出航させていた事実を知ると、ウェストはアンと共に現地を目指した。

 ふたりはセント・トーマスにて、クルーズに出かける直前のブライアン(アル・クライヴォー)とスーザン(アウレッタ・ゲイ)というカップルを発見、頼み込んで乗船させてもらう。

 マツールは海図にも正確な位置が記載されていない島であり、ブライアンたちの手を借りてもなかなか発見に至らない。そんな矢先、遥か沖合でダイビングに興じていたスーザンが、異様なものと遭遇する。跳梁する鮫の群れから逃れていた彼女の手を掴んだのは――全身の腐り果てた、不気味な風体の男だった……

[感想]

 ジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』の影響を受けて製作されたゾンビもの映画のなかで、特に知名度の高いうちのひとつが本篇である。内容を知らなくともタイトルぐらいは耳にした、という人も多いはずだ。印象的な響きもさることながら、公開当時は「ショック死した場合はハワイに埋葬します」などというジョーク企画まで用意されるほど衝撃的な描写がふんだんに盛り込まれていたことが、現在までその名を刻んでいる理由だろう。

 ただ、昨今の優れたVFXと、多くの傑作、駄作を十分に吟味した上で生み出された作品群に触れた目からすると、かなり古めかしい仕上がりであることは否めない。

 まず人物描写がごくごく浅く、ドラマの深みに乏しいことが挙げられる。『ゾンビ』は今なお健在であるジョージ・A・ロメロがその時その時の時事的な内容を盛り込み、一種の社会批評のような性格を与えると共に、人物像にも工夫を凝らして一筋縄でいかない魅力を付加しているが、この作品にそうした工夫の痕跡はあまりない。マツール島で研究を続けていた医師とその妻のエピソードや、ブライアンとスーザンという恋人同士にやがて訪れる出来事などが目を惹くが、いずれも有り体、かつほとんど掘り下げていないので、格別印象に残らない。

 ゾンビの造形にしても、全般に見た目がシンプルで少々インパクトに欠く。特徴的な動きについても、よく練ることなくその場の勢いで演じさせているのが解るくらいに一貫性が乏しい。また、終盤には墓地から大航海時代に埋葬されたと思しい屍体が蘇るシーンがあるのだが、本篇でも守っている“頭を破壊すれば止まる”というゾンビの特性からすると、そもそも土葬された、腐敗の非常に進行した屍体が発症する可能性はまずないはずだ。どうもこの作品は全般に考察が雑で、それが作品の古臭さを余計に印象づけているようだ。

 本篇は公開時、中盤でのある残虐シーンが話題となったが、このくだりも昨今のホラーやスプラッタに慣れた目からするとさほど衝撃は受けない。悲鳴を上げている犠牲者と、惨い仕打ちを受けているものとが別々であることがあっさり認識できてしまうので、少しでも引いた気持ちで鑑賞すると失笑することさえあり得る。

 ロメロ監督によるゾンビ映画のような社会批判、風刺的要素は皆無だが、しかしそれでも本篇が“古典”としての香気を備えているのは、ゾンビをモチーフにしつつもオーソドックスな怪奇映画の定石に則ったストーリー展開をしているからだろう。異様な事件、真相の究明、扇情的なシーンに衝撃的な映像、侵蝕する怪異に囲まれていく登場人物たち、といった具合に、未知の脅威と戦う人々の姿を追った物語の基本を押さえている。

 基本に忠実であること、かつあからさますぎる伏線ゆえにあっさりと見抜くことは出来るが、きちんとどんでん返しも用意されており、そのじわじわと沁みてくるような恐ろしさは秀逸だ。

 前述のように、既に技術的にも表現的にも古びており、考証の甘さもあって色褪せてしまっている。ゾンビ映画をこよなく愛している、と自覚している人でなければもはや楽しみようもないだろう。だが、たとえ色褪せない傑作と呼べないとしても、語り継ぐに値する1篇であることは断言できる。この先も、ゾンビを題材とする映画を愛好する人々にとっては大切な作品として残っていくに違いない。

関連作品:

ゾンビ [米国劇場公開版]

ダイアリー・オブ・ザ・デッド

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