原題:“The Heartbreak Kid” / 監督:ボビー・ファレリー、ピーター・ファレリー / 脚本:ボビー・ファレリー、ピーター・ファレリー、ケヴィン・バーネット、スコット・アームストロング、レスリー・ディクソン / 製作:テッド・フィールド、ブラッドリー・トーマス / 撮影監督:マシュー・F・レオネッティ / プロダクション・デザイナー:シドニー・バーソロミュー、ジェイ・ヴェッター / 編集:アラン・バウムガーテン、サム・サイ / 衣装:ルイーズ・ミンガンバック / 音楽:ビル・ライアン、ブレンダン・ライアン / 出演:ベン・スティラー、マリン・アッカーマン、ミシェル・モナハン、ジェリー・スティラー、ロブ・コードリー、カルロス・メンチア / 提供:角川エンタテインメント
2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間56分 / 日本語字幕:?
2008年11月23日日本プレミア上映
浅草公会堂にて初見(2008/11/23) ※第1回したまちコメディ映画祭in台東の特別招待作品として上映
[粗筋]
カリフォルニアでスポーツ用品店を営むエディ(ベン・スティラー)は、未だ結婚の気配のない40男。婚約者はいたが、5年も関係を引きずった挙句逃げられ、先日彼女から結婚式の招待状が届いた。人の好いエディは素直に参加するが、周囲の反応と冷たい仕打ちに、初めて孤独の寂しさを実感する。
だがその帰り道、エディは運命の出逢いを得た。女性の荷物を奪ったひったくりを取り押さえようとしたエディは、犯人こそ逃がしてしまったものの、女性の名前を知ることが出来た。彼女の名はライラ(マリン・アッカーマン)――彼女が落とした洗濯物を拾ったものの、電話番号を訊ねなかったことを嘆いていたエディだったが、数日後、何とライラのほうから彼の店を訪ねてくれた。そして、ライラのほうもエディに一目惚れしたことを知る。
こうしてエディは、ライラと急速に仲を深めていった。が、ある日思いも寄らない不運が出来する――環境調査員を務めているというライラに転勤の辞令が出たというのである。既婚者であれば転勤しなくても済む、という彼女の話にエディは悩んだが、エディの父(ジェリー・スティラー)と友人のマック(ロブ・コードリー)に盛んに薦められて、遂に結婚の意を固めた。
いったん覚悟してしまったあと、しばらくは幸せに浸っていられたエディだったが、ハネムーンの道中から少しずつ違和感が募っていく。結婚前は体裁を重んじてキスより先に踏み込まなかったライラを、エディは節度のある女性だと思っていたのだが、ようやく迎えた初夜のベッドでライラが見せたのは、まるで野獣めいた性欲であった。エディが自動車を運転するあいだ、ラジオから流れる音楽に合わせて延々歌いまくり、ろくに会話もしない。目的地であるメキシコのリゾート地に着いた頃には、エディは早くもグロッキーになっていた。
リゾートホテルに滞在してからも、ライラはエディの予想していなかった顔と、過去とをさらけ出していく。かつては薬物の常習者であったこと、実は環境調査員と言ってもボランティアで無給であること、それ故に借金が山積していること、更に出逢いのきっかけとなったひったくりが、実は元彼氏であったこと……。周りの目もあるところで汚い口を利き、南国の陽射しを侮ってはいけない、と諭しても意地を張ってサンオイルを塗り全身火傷のような状態になってしまうなど、あまりの素行の悪さに、エディはすっかり幻滅してしまう。
疲れ果てたエディの気持ちは、自然と別のほうへと傾いていく。その相手は、同じリゾートホテルに家族と共に滞在していたアマンダ(ミシェル・モナハン)という女性であった。家族は明るく快い人々で、エディの提示する会話にも当意即妙に乗ってくれるアマンダの、ライラと好対照な様子に、エディは急速に惹かれていく。
だが、そこで問題になるのはエディの現状である。もうライラとは続けられない、と思っているが、まだ現時点で決意は伝えていない。しかも、自分に対して好意を見せてくれるアマンダに、最初に誤解があったとはいえ、自分がいちおうは新婚、しかもハネムーンの真っ最中であることを伝え損なっていたのだ……
[感想]
ファレリー兄弟といえば、会話によってユーモアを紡ぎあげていくスタイルと、時として障害者の特徴でさえも笑いに組み込む、やり過ぎにも取れる素材の選択、にも拘わらず決して後味が悪くない匙加減の巧みさなどがその個性として挙げられる。大ヒットとなった『メリーに首ったけ』や『愛しのローズマリー』の頃はともかく、近年はハリウッド産のコメディ映画が日本に入りづらくなっており、ファレリー兄弟であってもミニシアター中心の小規模の上映、本篇に至ってはどうやら劇場公開の予定もなく、現状来年春頃にDVDでのリリースが計画されている状況のようだ。
コメディ映画を巡る状況はそのように不遇だが、しかし本篇の中身自体は、相変わらずのファレリー兄弟映画である。品がなく、しばしばやり過ぎに迫る過激さを示す一方で、会話の呼吸が巧い。そして、意外な展開を繰り返して最後までやきもきさせる。
しかし、作品を重ねているせいか、やはり大ヒットした作品群より劣る、と感じる部分も少なくない。顕著なのは、基本的な特徴は変わっていないのに、全体にやや“長い”という印象をもたらすことだ。中盤でライラの素行の悪さが多々示されるが、新婚旅行最初のあたりで概ね予想が付いてしまうことと、ハネムーン先で知り合い惹かれたアマンダに、エディがわりと安易についていってしまうのが原因かも知れない。感情面での葛藤や意外性が乏しいので、会話の成り行きが迂遠に感じられるのだ。
観ているあいだはともかく、観終わったあとだとエディにどうも同情しづらいこともまた関係しているに違いない。中盤までは不可抗力だが、自分から行動に出なくては、という段になって幾たびもごまかし、挙句起死回生の場面でも迂闊な言動を繰り返すエディに、正直ライラとは別種の苛立ちを覚えるようになる。そうした流れを踏まえたあの結末と、エンドロール中に示される謎めいた後日談の部分が、余韻をモヤモヤしたものにしてしまっている。日本人よりもすっきりした結末を好むハリウッドでは、恐らくそのこともあって評価が低くなっているようだ。
だが、それでも過程の面白さはさすがである。前日に同じベン・スティラー主演最新作『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』を鑑賞しているだけに、とりわけ彼の演技の幅と、話芸の達者さを実感する。序盤では、やや消極的なところを除けば常識的なものの考え方をする、という印象のあるエディは決して目立つ人物ではないはずなのだが、置いてなおお盛んな父に、円満を装いつつ完全に妻の尻に敷かれた友人、リゾートホテルの意味もなく嘘をつく従業員など、個性的な人物とのやり取りによってきちんと存在感を示している。ある意味、彼の本性も剥き出しになっていく終盤によって結果に同情は出来なくなるが、しかしどこかしら憎めないのは、ベン・スティラーの話芸に因るところが大きい。特に、偶然によって反復される会話の醸し出すおかしみは、ファレリー兄弟らの脚本の出来がいいのも確かだろうが、ベン・スティラーはこの魅力をきっちり演じきっている。
それにしても、ライラの破天荒ぶりは強烈だ。実のところ彼女の行動は、人柄が伴っていれば愛嬌に繋がることもあるのだが、見事に駄目な印象しかもたらさない。外見といい口の利き方といい、『メリーに首ったけ』のメリーを彷彿とさせる面もあるだけに、ここまでイメージを切り替えてしまったことが意表を衝いている。この徹底した汚れ役をパワフルに演じたマリン・アッカーマンという女優の名前も覚えておくべきだろう。
洒脱な会話と鏤められたユーモラスな要素、そして伏線のミックスで随所に笑いを生み出す作りは、『トロピック・サンダー』とは趣の異なるコメディ映画の愉しさに満ちているが、しかしファレリー兄弟特有の品のなさ、過激さが健在であるだけに、人によっては眉をひそめる場面も多い。誰に勧めても大丈夫、という代物ではないが、一連の作品群を素直に愉しめたというファンの方ならば観ても失望はしないだろう――前述のように、劇場公開の芽はなく、鑑賞するためには映像ソフトとしてのリリースを待たねばならないのが悲しいところだ。
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