遺書・原作・題名:加藤哲太郎『狂える戦犯死刑囚』 / 監督:福澤克雄 / 脚本:橋本忍 / 製作統括:信国一朗 / エグゼクティヴ・プロデューサー:濱名一哉 / 撮影:松島孝助,J.S.C. / 照明:木村太朗 / 美術:清水剛 / 装飾:山内康裕 / 衣装デザイナー:黒澤和子 / 特撮監督:尾上克郎 / VFXスーパーヴァイザー:田中貴志 / 編集:阿部亙英 / 録音:武進 / 音楽:久石譲 / 主題歌:Mr.Children『花の匂い』(TOY’S FACTORY) / 出演:中居正広、仲間由紀恵、笑福亭鶴瓶、上川隆也、石坂浩二、草なぎ剛、柴本幸、西村雅彦、平田満、マギー、加藤翼、西乃ノ和、武田鉄矢、伊武雅刀、片岡愛之助、名高達男、武野功雄、六平直政、荒川良々 / 制作プロダクション:シネバザール / 配給:東宝
2008年日本作品 / 上映時間:2時間19分
2008年11月22日日本公開
公式サイト : http://www.watashi-kai.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/01/21)
[粗筋]
高知の場末にある漁港町で理髪店を営む清水豊松(中居正広)は終戦からしばらく経ったある日、突如戦犯容疑を通告され、MPによって連行される。
戦時、生まれつき足に障害のある豊松はギリギリまで召集されなかったが、敗色が濃厚になった折に赤紙が届けられた。配属されたのは激戦の外地ではなく、本土防衛を意図した中部軍であったが、激化した空爆のなか、辛うじて日本軍が撃ち落とした戦闘機から脱出した兵士の処刑に豊松は駆り出されたのである。臆病で、また銃剣の構えも身についていなかった豊松は捕虜に切り傷を負わせるのが精一杯で、自らに科はないと無実を信じていた豊松だったが、当時の日本軍に根付いていた“上官の命令は絶対”という不文律が、裁判を進行した占領軍に理解されず、結果彼に下された判決は――絞首刑。
戦犯が収監された巣鴨プリズンで、同じように不当に重い判決を下された仲間たちと共に、豊松は再審を訴え続けた。だが、再審のためには200人の助命嘆願書が必要であると言われるなか、この頃の戦犯に対しては日本人のあいだにも偏見があり、近親者の協力がなければ決して容易ではない。しかし豊松は、己に下された残酷な判決について、心配をかけたくないと考えるあまり、高知に残した家族に真実を伝えていなかった……
[感想]
本篇は、未だVTRの技術が導入されたばかりの頃にTV放映され高い評価を得、のちに映画化もされた作品のリメイクにあたる。
製作に際して、従来の内容に不満を残していたという脚本家・橋本忍が自ら改訂を施しているという。故にだろう、基本的な筋はまったく歪められていないうえ、必要な掘り下げも随所で行われており、ドラマとしての完成度は非常に高い。
ただ、如何せん有名な作品なだけに、実物は観ていなくても大まかな筋は知識として持っているという人は少なくないだろう。知ったうえで観てしまうと、やはり間延びして感じられるのは残念なところだ。一般に、2時間を超える映画は長く感じられがちだが、本篇は2時間19分あり、そうしたところから観る前に抵抗を覚える向きもあるだろう。実際に観ていても、前提を語っている段階である冒頭1時間ほどはやはりだれた印象を受ける。
だがそれも、丁寧な描写を心懸けているが故の弊害であり、映画としての手応え、重厚感は豊富だ。冒頭、漁港町に居を構えるまでの回想部分あたりまでのくだりは少々ぎこちないし、音楽の使い方があまりに大時代的であるのが気になるが、背後にいる者の表情まで活かしたカメラワーク、衝撃をきちんと考慮した間を盛り込んだ演出、そして映画館の大スクリーンでこそ見応えのある距離感に富んだ映像など、工夫は多い。
主演の中居正広はバラエティ番組では気負いの少ない、緩めの進行をする司会、というイメージが強いが、もともとドラマではかなり気合いの入った雰囲気作りをする傾向にあり、本篇もまた体重を落とし窮地に追い込まれた普通の男、というムードを見事に体現している。彼にしても序盤、まだこれから訪れる悲劇を予感もしていないあたりの演技はちょっと軽すぎるきらいはあるが、戦時中のしごかれる姿や、予想外の展開を繰り返す裁判に翻弄される様を実に見事に演じている。どの程度計算しているのかは解らないが、ところどころで見せる軽さが、本当に悲劇に見舞われたときの失望、そしてクライマックスでの絶望的な表情と、そこに重ねられるあの有名な遺書のナレーションに説得力を付与している。
周囲を固める俳優は日本人の目からすれば非常に豪華だが、いずれも出しゃばらず、あくまで清水豊松という人物を見舞う悲劇に情緒をもたらすために貢献しており、その匙加減も巧い。多くの描写を積み重ね、果てに辿り着く、あまりに惨く胸を打つ結末を印象的に演出する一方で、成り行きを思えば容易に想像のつく愁嘆場を見せない節度も備えている。
まさに悲劇、としか呼びようのない物語だが、それだけに作中で鏤められた人間の情、とりわけ家族愛がなおさら鮮烈に感じられる、実に味わい深いドラマである。反戦の物語、という側面が色濃いのは確かだが、日本を舞台にしつつもその主題に普遍性がある点からも、もう知り尽くされている話だから、と忌避せずに、いちどぐらい触れてみて損のない作品に仕上がっていると言えよう。
コメント
家族愛を描いているにも関わらず、一番最後に「生きていていいことなんて一つもなかった」と述懐するのは何故なのでしょうねえ。。。
為になるレビューでした。ありがとうございました。