原題:“Street Kings” / 監督:デヴィッド・エアー / 原案:ジェイムズ・エルロイ / 脚本:ジェイムズ・エルロイ、カート・ウィマー、ジェイミー・モス / 製作:ルーカス・フォスター、アレクサンドラ・ミルチャン、アーウィン・ストフ / 製作総指揮:アーノン・ミルチャン、ミシェル・ワイズラー、ボブ・ヤーリ / 撮影監督:ガブリエル・べリスタイン,ASC,BSC / プロダクション・デザイナー:アレック・ハモンド / 編集:ジェフリー・フォード,A.C.E. / 音楽:グレーム・レヴェル / 出演:キアヌ・リーヴス、フォレスト・ウィテカー、ヒュー・ローリー、クリス・エヴァンス、セドリック・ジ・エンターテイナー、ジェイ・モーア、テリー・クルーズ、ナオミ・ハリス、コモン、ザ・ゲーム、マルタ・ヒガレダ、ジョン・コーベット、アマウリー・ノラスコ / 配給:20世紀フォックス
2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / PG-12
2009年02月14日日本公開
公式サイト : http://www.fakecity.jp/
TOHOシネマズみゆき座にて初見(2009/02/14)
[粗筋]
ロス市警のトム・ラドロー刑事(キアヌ・リーヴス)は、双子の韓国人姉妹の誘拐事件捜査にあたって、自らを囮にした。マシンガンの密売を装って接触、容疑者を挑発して車を奪わせると、その痕跡を辿って隠れ家を急襲、有無を言わさずすべての容疑者を射殺したあと、屍体の手に拳銃を握らせて発砲させ、正当防衛を偽装する。
直属のボス、ジャック・ワンダー警部(フォレスト・ウィテカー)は彼を賞賛するが、ほかに仲間などいないかのようなラドローの捜査方法に、同僚達は決していい顔をしない。とりわけ、チームを外された元相棒のテレンス・ワシントン刑事(テリー・クルーズ)の反発は著しかった。
そんなラドローに、内部調査部のジェームズ・ビッグス警部(ヒュー・ローリー)が接触してくる。強引な捜査方法を揶揄されたラドローが同僚達に話をすると、どうやらワシントンがビッグスに接触、ラドローの情報を渡しているらしいと言われた。逆上したラドローは殴り倒すつもりでワシントンをつけ狙う。
だが、ワシントンに続いてコンビニに入ろうとしたとき、バンダナで顔を覆った怪しげな男たちが店に迫ったのにラドローは気づいた。ワシントンに警告しようとしたが、誤解から揉み合いになり、その隙に覆面の男たちは店に侵入し、拳銃を乱射する。抵抗する余裕もなく、ラドローの目前でワシントンは蜂の巣にされ、彼の見ている前で息を引き取った。
通報を受けてやって来たワンダー達は、ラドローを責め立てる。ワシントンに近づくべきではなかった、と。たとえ彼がどう弁解しようと、世間はラドローが人を使って裏切り者を始末した、と考えるだろう。店の防犯カメラの記録を始末しろ、というワンダーの言葉に、ラドローは逆らえなかった。
世間の批判を逃れるべく、ラドローは一時的に苦情係に配置換えされたが、たとえ袂を分かったとはいえ、かつての相棒を殺され、その容疑者と目されている現状にラドローは苛立ちを覚える。犯人に復讐するべく、捜査を担当するポール・ディスカント刑事(クリス・エヴァンス)に接触するが……
[感想]
原案・脚本を担当するジェイムズ・エルロイは犯罪小説の大家である。幼い頃に母を殺された経験を持ち、若い日々を破滅的に過ごしたのちミステリに開眼、映画史に名を残す傑作『LAコンフィデンシャル』や未解決事件を題材とした『ブラック・ダリア』の原作を著している。そんな人物が、自ら映画脚本を手懸けた、という情報を聞きつけて以来、ずっと楽しみにしていた本篇であったが、まったく期待を裏切らない傑作であった。
冒頭からまさにエルロイの小説を読んでいるが如き、非情で血腥い匂いの漂う展開が続く。裏社会や警察内部の隠語を鏤めつつも味わい深い会話、心の暗部を感じさせる細やかな表現の数々、言葉ではなく映像によって、犯罪小説、ハードボイルド小説の纏う沈鬱な空気と緊迫感が濃密に描き出されている。そうした作品群に愛着のある者にとっては、痺れるような仕上がりだ。
予告編の印象から、銃弾の飛び交うアクションが盛り沢山のような仕上がりを思い描いていたのだが、案に相違して、銃撃戦や派手なアクションは決して多くない。一般のサスペンスと比較して血の流れる回数が多いのは確かだが、それが中心とはなっていない。むしろ、現場を外された男が制止や反発をかいくぐって捜査を続け、真相に肉薄していく過程こそが本篇の主題なのだ。
下手な者が手懸ければ退屈になりかねない筋運びだが、アイディアをエルロイが出し、更に『リクルート』『リベリオン』などに携わったカート・ウィマーが脚本に加わったことで極めて緊密なプロットとなり、また編集・演出の呼吸の良さも相俟ってまったく飽きさせない。監督を担当したデヴィッド・エアーは、デンゼル・ワシントンにオスカーを齎した『トレーニング・デイ』を手懸けたほか、監督デビュー作『バッド・タイム』などでも一貫して、非合法の領域に踏み込みやすい警察の闇の部分を扱ってきた人物であり、脚本の持つ主題にマッチしやすかったことも奏功しているのだろう。ところどころ陶酔したような表現も見受けられるが、全体の重々しさを考えると、むしろいいバランスを保っている。
率直に言えば、事件の背景そのものは、ある程度眼の肥えた観客やミステリ読者ならば早い段階で察しがつくだろうが、しかしそんなものは無関係に終盤まで緊張感を維持している。いちばん太い流れは予測できても、その細部の動きがよく練られているので牽引力はまったく衰えないし、何よりクライマックスの窮地と、最後の台詞のやり取りが圧巻で、途中で読み解けたことなど忘れて打ちのめされてしまう。
実際、警察の捜査というものは綺麗事ではない。本篇の主人公トム・ラドローの選ぶようなやり方でしか正義を貫けない局面もあるだろう。だが、結末でラドローに突きつけられるのは、その手段の危うさである。最終的な犠牲者の顔ぶれと、生き残った者たちの対処をよく引き比べると、実のところ行動そのものは一緒なのだ。問題は、どこに信念を持ち、何を守ろうとしているか、の違いだ。その駆け引きの向こう側に残るのは、あまりに重々しい虚無感である。
アメリカ警察の、というよりも人間が根源的に抱える腐敗の源を抉りとった本篇は、極めて厚みのあるハードボイルド作品だ。如何せん、暴力描写は多いし、微かな清々しさはあれど決して後味は良くないので、とうてい万人にお勧めすることは出来ないが、傑作であることだけは断言できる。
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