原題:“The Pink Panther 2” / 監督:ハラルド・ズワルト / キャラクター創造:モーリス・リッチマン、ブレイク・エドワーズ / 原案:スコット・ノイスタッター、マイケル・H・ウェバー / 脚本:スコット・ノイスタッター、マイケル・H・ウェバー、スティーヴ・マーティン / 製作:ロバート・シモンズ / 製作総指揮:アイラ・シューマン、ショーン・レヴィ / 撮影監督:デニス・クロッサン / プロダクション・デザイナー:ラスティ・スミス / 編集:ジュリア・ウォン / 衣装:ジョセフ・G・オーリシ / テーマ音楽作曲:ヘンリー・マンシーニ / 音楽:クリストフ・ベック / 出演:スティーヴ・マーティン、ジャン・レノ、アルフレッド・モリーナ、アンディ・ガルシア、リリー・トムソン、ジョン・クルーズ、エミリー・モーティマー、アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャン、松崎悠希、ジェレミー・アイアンズ、ジョニー・アリディ、ジェフリー・パーマー / 配給:Sony Pictures Entertainment
2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間31分 / 日本語字幕:桜井裕子
2009年4月11日日本公開
公式サイト : http://pinkpanther2.jp/
TOHOシネマズ日劇にて初見(2009/04/11)
[粗筋]
約10年前を最後になりをひそめていた怪盗“トルネード”。だが最近になって突如、各国の重要文化財が立て続けに盗まれ、現場に“トルネード”の犯行を示すカードが残される、という事件が発生した。被害に遭った各国の警察は、それぞれの精鋭捜査官を集めたドリーム・チームによって“トルネード”の検挙に臨む。
このドリーム・チームのリーダーに任命されたのは、フランスのジャック・クルーゾー警部(スティーヴ・マーティン)である。かつてフランスの国民的財産である宝石ピンクパンサーを奪還したことでその名を知られる人物だが、しかしその素顔は――かなりのおバカ。彼のもとに集まった刑事達は、評判とは裏腹の実態に失望を顕わにするが、当のクルーゾー警部は気に留める様子もない。
むしろ現在、クルーゾーが何よりも頭を悩ませているのは、秘書ニコル(エミリー・モーティマー)との関係についてであった。先だって、極秘任務のために赴いたローマでにわかに灯った恋の炎をいちどは打ち消そうとしたクルーゾーだったが、ドリーム・チームのイタリア代表であるブランカレオーネ(アンディ・ガルシア)が彼女にアプローチを始めたことで、熱い想いが滾るのを感じてしまう。
果たしてクルーゾー警部は周囲の白い眼差しをはねのけ、“トルネード”を捕まえることが出来るのか。そしてニコルとの関係はどうなってしまうのか――っていうか、今それが本当に大事なのか?!
[感想]
ブレイク・エドワース監督とピーター・セラーズのコンビによって作りあげられた、スラップスティック・コメディ映画の伝説的名作『ピンクパンサー』とその主人公であるジャック・クルーゾー警部を、コメディ俳優スティーヴ・マーティンが中心となって現代に復活させたリメイク作品の、第2弾である。
前作からして、オリジナルを知っている映画ファンのあいだでは決して好評ではなかったようだが、知らない目からすれば、身体の動きと言語の特徴に依存しない会話のユーモア、それに著名な俳優をカメオとして細かなところに盛り込んで映画ファンを喜ばせようとするサービス精神など、肩の力を抜いて楽しめる要素を詰め込んである、真っ当なコメディ映画に映った。
監督こそ替わったものの、主演と脚本は前作と同様スティーヴ・マーティンが担当、上司のドレフュス主任警部を除いて主要キャラクターの配役も位置づけもそのまま、コメディとしての方向性も雰囲気も、サービス精神まできちんと受け継いでいる。前作が楽しめたのなら、今度も充分にゆる〜いユーモアに浸ることが出来るだろう。
もしオリジナルはおろか前作も知らないまま本篇を鑑賞しようとしているのなら、とりあえず寛容な心持ちで接するよう申し上げておく。如何せん、本当にこの作品の世界観はとてもナンセンスだ。どれほどの大泥棒であるにしても各国の名宝が短期間で立て続けに盗み出せてしまうのは行きすぎているし*1、犯人が同一人物と目されるから、と言って被害に遭った国から選り抜きの捜査官を集めてドリーム・チームを結成して対抗する、なんて発想は幼稚に過ぎる。クルーゾー警部のドジとその被害の規模からしたら、最終的に手柄を立てたところでお咎めなしになるはずもないだろうし、そういう彼らの行動を報じるマスコミや一般市民の反応も何だかいい加減だ。とにかく、リアリティなんてものは欠片も存在していない。
しかし、こういう立て続けのナンセンスに接して、作品の世界観を理解したうえであれば、充分に楽しい仕上がりだ。
クルーゾー警部というのは、正直どう考えても優秀な人間ではない。やることなすことピントがずれているし、周囲の眼もほとんど気にしない。前時代的な偏見を持っているために、途中から登場する礼儀作法の教師が顔をしかめるような差別的な発言もする。ただ、あらゆる言動に悪意がないため、慕われるのも何となく理解できるし、際どいところでギャグとしても成立している。彼のそうしたキャラクター性を支えるバランス感覚が、作品全体の寛容な雰囲気をもきっちりと作りあげている。
一方で少々驚かされたのは、怪盗“トルネード”を巡る謎解きが存外まともに出来ていることだ。観客の立場からすると明らかに後出しの情報があるので、ミステリとしての公正さには欠けるのだが、少なくとも何故最終的にこういう展開になったのか、という説明がつく程度にはちゃんと伏線が張られており、意外にもカタルシスがあるのだ。大前提に不自然なところがあるため、あくまでこの世界観のうえでなら、という但し書きはつくが、いちおうは警官が主役である、という基本設定にも真摯であろうとする作りはとても好もしい。
オリジナルのクルーゾー警部に愛着のある人にはまったく物足りないのだろうし、ある意味では際どく、ある意味では振り切れていないユーモアの方向性に納得の出来ない人も多いだろうが、「こういうもんだ」と割り切って鑑賞することが出来れば、ゆったりと楽しめるコメディである。
個人的には、美人だが野暮ったく、そこがキュートさに繋がっているという、クルーゾー警部の秘書ニコルが終始いい味を出していてお気に入りなのだが、そこではたと不思議に思うのは、前作でも彼女は登場していたはずなのに、あまり記憶に残っていないことである。もしかしたら本篇で急に扱いが良くなったのだろうか。
関連作品:
『ピンクパンサー』
*1:真相を知ったあとだとなおさらにそう感じる。
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