原題:“Twilight” / 原作:ステファニー・メイヤー『トワイライト』(Villagebooks・刊) / 監督:キャサリン・ハードウィック / 脚本:メリッサ・ローゼンバーグ / 製作:マーク・モーガン、グレッグ・ムーラディアン、ウィック・ゴッドフレイ / 製作総指揮:カレン・ローゼンフェルト、マーティ・ボーウェン、ガイ・オゼアリー、ミシェル・インペラート・スタービル / 撮影監督:エリオット・デイヴィス / 編集:ナンシー・リチャードソン / 衣装:ウェンディ・チャック / 音楽:カーター・バーウェル / 音楽監修:アレクサンドラ・パットサヴァス / 出演:クリステン・スチュアート、ロバート・パティンソン、ビリー・バーク、アシュリー・グリーン、ニッキー・リード、ジャクソン・ラスボーン、ケラン・ラッツ、ピーター・ファシネリ、キャム・ギガンデット、テイラー・ロートナー、アナ・ケンドリック、マイケル・ウェルチ、ジャスティン・チョン、クリスチャン・セラトス、ジル・バーミンガム、エリザベス・リーサー、エディ・ガテギ、レイチェル・レフィブレ / テンプル・ヒル製作 / 配給:Asmik Ace×角川エンタテインメント
2008年アメリカ作品 / 上映時間:2時間2分 / 日本語字幕:石田泰子
2009年4月4日日本公開
公式サイト : http://twilight.kadokawa-ent.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/04/16)
[粗筋]
17歳のベラ・スワン(クリステン・スチュアート)は、陽光きらめくアリゾナ州フェニックスから、鬱蒼とした雲が常に空を覆うワシントン州フォークスに引っ越した。両親が離婚したあと母と暮らしていたが、旅の多い野球選手と再婚した彼女を気遣い、父チャーリー・スワン(ビリー・バーク)のもとに身を寄せることに決めたのである。
アリゾナ州の陽気に慣れていたベラにとって、フォークスの湿っぽい空気は馴染まなかったが、新たなクラスメイトは彼女を快く歓迎してくれた。
ただひとり、奇妙な態度を取っていたのが、エドワード・カレン(ロバート・パティンソン)である。医師カーライル・カレン(ピーター・ファシネリ)の養子のひとりである彼は、美しい容姿で憧れる女子も多かったが、心に築いた壁をなかなか崩さず、神秘的な存在となっていた。
しかし、そんなエドワードが、何故かベラと逢うなり、著しい緊張を示した。生物の選択授業で隣同士になったのが最初だったが、身を強張らせ距離を取る。直後、教務課で「別の授業を受けたい」と懇願しているエドワードの姿に、ベラは釈然としないものを感じた。
数日間学校に姿を見せなかったエドワードは、だがふたたび生物の授業に参加すると、それまでが嘘のように、自分からベラに接近してくる。そのくせ、相変わらず距離を保とうとする素振りも見せたりする彼に、ベラは苛立ちながらも、意識してしまうのを止められなかった。
ある日、学校の駐車場で、反対の隅に佇むエドワードの様子を窺っていたベラに向かって、同級生の運転する車が突っこんできた。次の瞬間、ベラは目の前にエドワードがいたことに驚愕する。彼は片腕でベラを庇い、もう一方の手で車を遮っていた。車のドアの外装は、彼の掌の形に大きく凹んでいる。
エドワードは、いったい何者なのだろう。中で好奇心と微かな怖れが膨れあがるのと同時に、彼に急速に惹かれていくのを、ベラは止められなかった……
[感想]
粗筋では触れずに済ませてしまったが、予告編などでは伏せていないのではっきり記してしまうと、ヴァンパイアと人間との恋愛を題材とした映画である。
それ自体は格別目新しいテーマではない。日本ではわりとよくある主題で、漫画や小説にある程度詳しい人なら、少し考えれば一つ二つは例を挙げることが出来るだろう。
但し、ハリウッドに限ると、意外にもあまり例がない。話に異種族の恋愛を組み込むことはあっても、それは種族同士の対立を描くアクション映画のドラマを盛り上げる一要素程度ということがほとんどだ。ケイト・ベッキンセール主演の『アンダーワールド』がその好例で、作中描かれる恋愛に感情移入することはあっても、全体を恋愛映画として眺める人はそうそういないだろう。
本篇はそうした例に当て嵌まらないばかりか、日本の少女漫画の方法論で作られたかのような印象さえ受ける。最近の少女漫画はそうでもないものも多いが、決して色気に頼らず、状況が強いるプラトニックな駆け引きでヤキモキさせ、観る側を牽引する手法に、華麗なヴィジュアル。ヒロインがどちらかと言えばごく普通の女の子であるのに対し、相手側が美男子でしかも多くの特殊能力を備えた異種族、というのも少女漫画のロマンスとしては王道に近い。あまりにベタすぎるので、近年はここに更にヒネリを施さなければ埋没してしまいかねないほどだ。
しかしその一方で、決して安易な印象を受けないのは、ヒロイン・ベラの人物像や彼女を取り巻く社会の様相や関わり方にリアリティが備わっているからである。ベラ自身は白人だが、級友の多くはアジア系に黒人と社会的マイノリティが多く、人種の構成に恣意を感じない。こと、ベラがエドワードの秘密を知るきっかけとして、昔から交流のあったネイティヴ・アメリカンの少年から、彼らの部族に伝わる伝説を聞かされる、という経緯を辿っている。すべてを白人だけか、せいぜい黒人を組み込む程度で片付けようとする傾向があちらのフィクションにはあるので、この一点だけでも個性を感じる。
プログラムによると、原作者はもともとあまりヴァンパイアをはじめとした幻想文学的なモチーフに関心はなかったようで、そのために本篇におけるヴァンパイアの特徴にはかなり破調のものが見受けられる。日光を浴びても死ぬことはないが、それでも陽の射すときには外に出られない理由があったり、必然性があって仲間内で野球をするのは落雷のあるときに限る、というあたりの描写は特にユニークだ。
だが、それでも本篇はあくまで、やや特異な背景を持つ少年と、そんな彼と恋に落ちた少女との、双方が次第に想いを募らせていく様を描いたロマンスとして楽しむべきだろう。これといった理由もなく少しずつ惹かれ合い、けれど少年は血を吸ってしまいたい衝動と必死に戦うあまり、少女に近づくことが出来ない。互いの想いを理解しても、触れ合うことさえままならない、その緊張感が苦くも甘酸っぱい。ヒロインの等身大の肉付けと、対照的に女の子の理想を具現化したかのような相手役のキャラクター性とが、そうした描写と巧く噛み合っており、乙女ならずともかなりキュンと来る仕上がりだ。
正直なところ、ストーリーとしての完成度は決して高くない。登場人物が多いわりにはほとんどが物語の展開に役立ってはいないし、クライマックスに至るきっかけが唐突なら、その決着も曖昧な印象が付きまとう。
ただこのあたりは、既に完結した原作を下敷きに、その良さを活かしてシリーズ化することを狙ったが故だろう。イメージを優先して、極端に知名度の高い役者をまったく使っていないことからも、原作を尊重する意思が窺える。実際、アメリカ本国での大ヒットにより、現時点で続篇の製作が既に決定しているそうだ。もし観るのなら、今回はなおざりにされた脇役たちの活躍を確かめるためにも、続篇もチェックすることを予め考慮しておくべきだろう。
いずれにせよ、幻想もの、伝奇物として期待すると肩透かしを食う可能性は高い。本篇はごく普通の少女の青春物語であり、そんな彼女と特異な来歴を持った少年とのラヴ・ロマンスとして鑑賞すべき作品だ。その意味では、非常に端整な1本である。
関連作品:
『パニック・ルーム』
『ゴースト・ハウス』
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