原題:“投名状” / 英題:“The Warlords” / 監督:ピーター・チャン / 共同監督:レイモンド・イップ / アクション監督:チン・シウトン / 脚本:スー・ラン、チュン・ティンナム、オーブリー・ラム / 製作:アンドレ・モーガン、ホアン・チェンシン、ピーター・チャン / 撮影監督:アーサー・ウォン,hksc / 美術:イー・チェンチョウ、ペーター・ウォン / プロダクション・デザイン:イー・チュンマン / 編集:クリストファー・ブランデン,B.S.C. / 衣装:イー・チュンマン、ジェシー・ダイ、リー・ピックワン / 音楽:ピーター・カム、チャン・クォンウィン、チャッチャン・ポンプラパーン / 日本版エンディング・テーマ:THE ALFEE『風の詩』(EMI Music Japan) / 出演:ジェット・リー、アンディ・ラウ、金城武、シュー・ジンレイ、ウェイ・ツォンワン、クゥ・パオミン、ワン・フイウィン、チョウ・ポー、グオ・シャオドン、シ・チャオチー / 配給:Broadmedia Studios
2007年中国・香港合作 / 上映時間:1時間53分 / 日本語字幕:税田春介 / PG-12
2009年5月8日日本公開
公式サイト : http://www.warlords.jp/
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2009/05/07) ※THE ALFEEによる舞台挨拶つき先行上映
[粗筋]
19世紀、清朝末期の中国。アヘン戦争で疲弊しきった大陸に、太平天国の乱が澎湃と湧き起こった。争いと飢餓によって五千万人もの命が失われたこの時代、とりわけ悽愴な運命を辿ったのが、山軍を支えた3人の“義兄弟”である。
長兄格のパン・チンユン(ジェット・リー)は清朝軍に所属する官兵であったが、太平軍との長期戦において1600人の仲間をすべて失う。援護に現れたはずの、ホー・クイ将軍(シ・シャオチー)率いる魁軍は後方でただ見守っているだけで、一切手を出そうとしなかったのだ。屍体の山の中、死んだふりで生き延びてしまったパンは、茫然自失の状態で荒野を彷徨っているうちに、昏倒してしまう。
目醒めたとき、パンは廃屋に横たわっていた。意識を失う直前、彼が追い抜いた女(シュー・ジンレイ)が彼をここまで運んでくれたのである。女はパンに粥を作り、一夜限りの温もりを与えた。死んだも同然であったパンは、それでようやく生きている実感を取り戻す。
翌る朝、女の姿は消えていた。数日、あれが夢であったのか現実であったのか訝りながら女を待ち、やがてパンは食糧を求めて街に出る。そこへ現れたのは、近くの村に拠点を構える盗賊団たちであった。食糧を施す代わりに働き手になるよう呼びかけるため訪れた一団を率いていたのは、チャン・ウーヤン(金城武)。ウーヤンはパンが最後まで履き続けていた軍靴と、その優れた武術に惚れ込み、彼を自分の兄貴分であるツァオ・アルフ(アンディ・ラウ)に引き合わせるため、彼を村に招く。
ウーヤンの思惑とは裏腹に、アルフはパンが官兵であることを理由に受け入れることを拒絶した。自分たちは盗賊、相容れる存在ではない、と。対するパンも、ある理由からここが自分の居場所でないことを感じていた――彼の心を救ってくれたあの女が、アルフの妻であったからだ。
ひと晩の食事と寝床を借りたあと立ち去るつもりだったパンだが、しかしその夜遅く、思わぬ事態が発生する。突然魁軍が殺到、食糧を掠奪していったのだ。抵抗したものは手酷く打ち据えられ、死者まで出してしまう。貧乏人は権力者に家畜の如く使われるだけだ――怒りと諦念のない混ざった口振りで吐き捨てるアルフたちに、パンは清軍に加わることを提案する。軍に加われば俸禄が得られ、貧しさに苦しむこともない。武器を得ることが出来、こんな屈辱を味わうこともない……
それまでの生き方を捨てる、この重大な提案のために、パン、アルフ、ウーヤンの3人は“投名状”の誓いを結び、義兄弟となった。生死を託し助け合い、不幸も苦難も共に乗り越える。義兄弟を傷つけしものには必ず死を。その者が義兄弟であれ、必ずや死を。天地山河にこれを誓う。裏切りには、天誅を――
[感想]
折しも『レッドクリフ Part II―未来への最終決戦―』が大ヒットしている中公開された本篇は、同じ中国ではあるが、時代設定は現代に近づいている。故に作中銃器も登場するのだが、不思議なことに戦闘シーンの印象はあまり極端な違いがない。近代に迫った分洗練されそうなものだが、『レッドクリフ』よりもむしろ泥臭く、生々しさを増している。
それは本篇が、洗練された戦術や戦い方よりも、戦いの結果何が残るか、ということに悩み実行に移す様を描くことに焦点を置いているからだろう。どんな戦いでも、必ず犠牲者は出る。パンがアルフの指揮する盗賊たちを兵に組み込んで初めての戦いでは、敵の持つ銃器に対抗するため、弓兵の射程距離を稼ぐまでひたすら突進し、弓兵の援護を得て肉弾戦に持ち込む、という策を取るが、パンは「多くの犠牲者が出る」という大前提を示した上で協力を求め、実行に移している。銃弾を浴び倒れた者を乗り越え、自らも血にまみれて進軍する様は壮絶だ。血は流れるがスマートな戦い方をしている『レッドクリフ』に対し、こちらは途方もない執念を感じさせる。
戦いが血腥く、泥臭く描かれているからこそ、本篇は中心にいる3人を演じた俳優のスター性が発揮された作品でもある。原題に用いられている、義兄弟の固い契りを証明する“投名状”に名前を連ねた3人は、それぞれにアジア圏を中心として活躍、世界的に名を轟かせている。華もあり、表現力も備えているからこそ、3人の懊悩が際立ち、決断に説得力が備わっている。
盗賊村の仲間たちの平穏な暮らしを願い、死んだ仲間たちに陰膳を供え死出の旅路の平穏を祈るアルフの、凜としながらも苦しげな表情。アルフを兄貴分として慕いながら、頭脳・武芸ともに優れたパンを尊敬し、両者のあいだで悩むウーヤン。アジア圏で人気の高い美男子ふたりが、従来のイメージを踏襲しながらも地に足の着いた人物像を存在感充分に、同時に感情移入しやすいレベルで演じている。
しかしやはり秀逸なのはジェット・リー演じるパン・チンユン将軍だ。プロローグ部分で、命こそ助かったものの魂は死んだような有様となり、そこから這い上がると、多くの民を守ること、という目的に対して邁進する。自らの命でさえ投げ出すことを惜しまず、民衆か兵か、の二者択一では躊躇なく後者を切り捨てる。
自らの歩んできた道を理解し、悔いているからこそ揺るぎのない言動。アルフもウーヤンも、自らの信念に対して忠実ではあるのだが、どれほど足掻いてもパンほどの境地には昇りつめられない。そして、そのことが終盤での悲劇にも繋がっていく。信念や意思に忠実であるからこその悲劇は、尊くも人間的で、壮絶だが哀しい。
しかもパンは、自らの選択に苦しみ、嘆き続けているのだ。終盤の戦いにおける、彼の非情な指示により哀しい仕事に取りかかった部下たちに背を向けて、ひっそり涙を流す姿。クライマックスで、もはやコントロール出来ない推移によって失ったものを前に、手ぬぐいを顔に当てて嗚咽する姿。不退転の決意を固めた男を不貞不貞しく体現しながら、すり切れた人間性を垣間見せるその演技は、ジェット・リーのスター性があって成り立つと同時に、これまでどうしてもアクションが中心になりがちだったジェット・リーの印象をも覆す繊細さだ。本国では同時期に公開され、国際的に高い評価を得た『ラスト,コーション』のトニー・レオンを押さえて、香港電影金像奨の主演男優賞に輝いた、というのも頷ける。
この3人に、垢抜けないながらもしなやかな魅力を放つアルフの妻リィエンが絡むことで成立する逃れ得ない悲劇は観ていて胸の締めつけられる想いがする。戦争をベースに剛胆にドラマを構築しながら、感情を繊細に紡ぎあげているからこその余韻が素晴らしい。
主演3人、ことジェット・リーはアクション映画主体に活躍しており、『少林サッカー』などでアクション演出を手懸けたチン・シウトンの名前も連なっているだけにアクションのヴォリュームにも期待してしまうところだが、リアリティと迫力は備わっていても、全体に対する分量は決して多くない。だが、そうした予備知識なしで劇場に足を運んだとしても、気づけばそんなことなど忘れて、男たちのドラマに魅せられているだろう。
余談。
本篇の前に劇場で鑑賞した作品は、日本を舞台とした香港映画『新宿インシデント』であった。公開時期が1週間間隔で立て続けだったこと、たまたまそのあいだにGWが挟まって、混雑がきらいな性分ゆえ外出を控えていたことで、香港が絡んだ映画が続いてしまっただけなのだが、この2作、実は幾つか共通点がある。
まず、脚本に同じチュン・ティンナムという人物が関わっている。音楽でも、ピーター・ラムが双方に携わっている。極めつけは、主人公たちにとっての“運命の女”的な役回りを演じているのは、同じシュー・ジンレイだ。
……スタッフのふたりはともかく、先週ジャッキーを日本に呼び寄せる一方でヤクザの妻となり、今週は盗賊の妻であり将軍とも密会を重ねる女、というのは、観ていてなかなか妙な気分になりました。偶然なんでしょうけど、それにしてもそれにしても。
関連作品:
『HERO 英雄』
『LOVERS』
『墨攻』
『新宿インシデント』
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