『山形スクリーム』

『山形スクリーム』

監督:竹中直人 / 脚本:継田淳 / 脚本協力:厨子健介、竹中直人 / プロデューサー:吉田浩二、梅村安、山崎雅史 / エグゼクティヴプロデューサー:丸茂日穂 / 企画:中沢敏明、ヘンガメ・パナヒ / 撮影:佐々木原保志 / 照明:安河内央之 / 美術:斎藤岩男 / 装飾:松本良二 / 特殊メイク・造形:江川悦子 / 編集:奥原好幸 / 衣装:MASATOMO / VFXスーパーヴァイザー:岡野正広 / 録音:北村峰晴 / 音楽:栗コーダーカルテット / 主題歌:Superfly『Hanky Panky』 / 出演:成海璃子沢村一樹AKIRA、マイコ、竹中直人桐谷美玲、紗綾、波瑠、温水洋一六平直政田中要次広田レオナ井口昇、荻野目慶子、緋田康人篠原ともえ佐伯新赤井英和石橋蓮司斉木しげる、デビット伊藤、クリスタル・ケイ岩松了生瀬勝久由紀さおり / 制作プロダクション:セディックインターナショナル / 配給:GAGA Communications

2009年日本作品 / 上映時間:1時間56分

2009年8月1日日本公開

公式サイト : http://yamagatascream.gyao.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/08/18)



[粗筋]

 室町時代末、壇ノ浦の合戦に敗れた平家は各地に散っていった。そのうち、葛貫忠経(沢村一樹)が向かったのは、出羽国――現在の山形県にある御釈ヶ部村であった。清盛最後の命により、宝刀・草薙の剣を封印する目的であったが、それは同時に想いを寄せ合った官女・光笛(成海璃子)との死出の旅になるはずだった。しかし、信じていた部下・山崎(竹中直人)の密かな裏切りによって村人の落武者狩りに遭い、丘の上に生き埋めにされる。葛貫を埋めた穴の上には祠が建てられ、彼の怨念は大地に封じられた。

 時は移って、現代。御釈ヶ部村では葛貫と光笛の悲恋をネタに縁結びのアミューズメント・パークを企画し村おこしを目論んでいるが、記念すべき最初のイベントに申し込んだのは都立紅女子高校の歴史研究会だけ。しかも顧問の勝海子(マイコ)が勝手に参加を決めたため、生徒たちはまったく乗り気でない。ただ、岡垣内美香代(成海璃子・二役)だけは若干事情が違っていた。彼女はとにかく、家にいたくなかったのだ。

 その日、御釈ヶ部村の村長・蝦蟇且茂治勝S(生瀬勝久)らは葛貫を祀った祠を倒し、アミューズメント・パークの中心となる“スーパー祠”建立のイベントを実施した。祠を守る家の後継者・与藻須賀三太郎(AKIRA)らの抵抗も虚しく、美香代らの目前で祠は倒されるが、呪いらしきものは何も発生せず、人々はそれぞれに落胆、或いは安堵する。

 だが、葛貫の呪いは確かに実在した。その晩、山中から葛貫と山崎が、そして海からは他の部下が相次いで蘇り、御釈ヶ部村は静かに、そして劇的に、阿鼻叫喚に満たされていった……!

[感想]

 竹中直人は、コメディアンとしてデビューしたのち、様々な映画にてその独特の容姿を活かした強烈なキャラクターを演じて、今や日本の映画界に唯一無二の地位を築いている。

 だがその一方で、自身が監督を手懸けた作品群は非常に生真面目な印象を与える。初監督作『無能の人』から始まって、前作『サヨナラCOLOR』でも、その音楽の素養を活かした繊細な映像作りで観客を魅了し、ユーモアは鏤めているがギャグと呼べるほど盛大な趣向はない。

 それに比べると、本篇は“竹中直人”というタレントの監督作として、初めてイメージ通りの作品に仕上がっている、と言える。

 まさに全篇、タレント・竹中直人の世界観に覆い尽くされているのだ。随所に放り込まれるギャグの直感的な組み立て、独特の呼吸。のどかで鄙びているが、あちこちに鏤められた細かなネタの雰囲気が、竹中直人がテレビなどで演じ、他の映画で披露するキャラクターの醸し出すものに近しい。オープニングの、葛貫と当時の村人たちとのひと幕こそシリアスだが、直後に農道を走る“歓迎 都立紅女子高校”の横断幕を下げたバスが、ガイドのやたら悠長なアナウンスをBGMに走る姿が撮される。中には退屈した女生徒と、妙に昂揚した女教師がひとり。あとは枚挙に暇がないほど、珍妙な人物や舞台装置が画面に現れては消えていく。

 日本の山村のイメージに、各種ホラー映画の定番描写を土台としたギャグが中心となっているが、しかしそれによって物語を独創的に組み立てている、というわけではない。過去の出来事に若干のひねりがあり、それが終盤でちょっとしたドラマに繋がっていくが、決して人間性やテーマを掘り下げるためのものではないし、意外性を演出するためのものではない。どちらかと言えば、ヒロインが特にヒロインとして派手に活躍するわけではなく、バラバラのエピソードを継ぎ接ぎして語っていくストーリーに牽引力と、ささやかながらカタルシスを付与するために添えられた、という印象だ。

 ギャグとして鏤められた描写が伏線として機能することもほとんどないので、物語の緊密な構成を欲する向きにはその“緩さ”が苦々しく感じられるだろう。だがその分だけ、ワンシーンワンシーンの弾けっぷりは出色だ。恐らく、タレント・竹中直人の披露する直感的、即興性の強いギャグを見て面白いと思えるような人なら、隅々まで堪能できるだろう。

 ……とにかく、本質的に「このネタがこんな具合に良くて、ここがあの映画のアレをモチーフにしていて……」などと説明してしまっては興を削ぐ恐れがある。ストーリーの整合性よりもコメディとして愉しい映画が観たい人、それ以前に竹中直人という俳優、タレントに惹かれるものを感じている人ならば、まず何も考えずに劇場に足を運んでいただきたい。

関連作品:

サヨナラCOLOR

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