『ディズニーネイチャー/フラミンゴに隠された地球の秘密』

『ディズニーネイチャー/フラミンゴに隠された地球の秘密』

原題:“The Crimson Wing : Mystery of the Flamingos” / 監督:マシュー・エバーハート、リーンダー・ワード / 脚本:メラニー・フィン / 製作:ポール・ウェブスター、リーンダー・ワード、マシュー・エバーハード / 製作総指揮:スティーヴン・ギャレット / 撮影監督:マシュー・エバーハード / 編集:ニコラ・ショードゥルジュ / 音楽:ザ・シネマティック・オーケストラ / 日本語版ナレーション:宮崎あおい / ナチュラル・ライト・フィルムズ&クドス・ピクチャーズ製作 / 配給:WALT DISNEY STUDIOS MOTION PICTURES. JAPAN

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間19分 / 翻訳:いずみつかさ / 台本:室矢憲治 / 台本監修:柿澤亮二

2009年8月28日日本公開

公式サイト : http://www.disneynature.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/08/28)



[粗筋]

 アフリカ、タンザニア北部にあるナトロン湖は、生き物にとって極めて過酷な環境だ。毒性の高いソーダ性の塩分を含み、湖面は赤からオレンジ色に変化、やがて炎夏に水分が蒸発すると白い荒野に変わる。だが、夏の初めの雨期に、その泥の中に藻類が繁殖するのに合わせて、一種の鳥が各地からこの湖に大挙する。

 不死鳥の伝説の源とも言われる、流麗なプロポーションと深紅の翼を備えた鳥――フラミンゴである。

 泥に埋もれた藻類を餌とする彼らは、この雨期にナトロン湖を訪れ、一斉にカップリングを始める。飛来した時は純白であった羽根は藻類に含まれたカロチンを取り込むことで朱に染まり、オスは各所でアプローチを行うのだ。ここで組まれたカップルはそれから子育てが終わるまで、ずっと行動を共にする。

 やがてカップリングが終了した頃、ナトロン湖は摂氏50度を超える猛暑のために干上がり、塩分を豊富に含んだ大きな島が拡がる。フラミンゴたちはその泥を高さ30cmほどに盛り、そこに産卵する。オスとメスが交互に温め、静かに誕生の瞬間を待つ。

 卵から孵った雛たちは、この湖に形成された大規模な“託児所”で賑やかに成長していく。しかし、この一見理想的な環境にも、幼く弱い命を蝕むものが存在するのだ……

[感想]

 もともとディズニーでは自然を題材にしたドキュメンタリーを製作していたが、ウォルト・ディズニーの死を境に止まっていたのだという。それが2005年に『皇帝ペンギン』を共同製作したことを契機に気運が高まり、久々にそうしたドキュメンタリーに本格着手することとなった。既に幾つか企画が発表されているうちの、本篇は第1弾にあたる。

 少々厳しい言い方をすれば、2匹目のドジョウを狙った、という印象が色濃いので、正直なところあまり期待はしていなかった。その見地からすると、非常にいい出来である。

 計画を組んで、極めて撮影の難しい場所で、捕らえることが難しい素材を根気よく追っていることが内容からも伝わり、その姿勢そのものがまず評価出来るのだが、何よりドキュメンタリーとして非常に巧く整理されており、内容が伝わりやすい。ドキュメンタリーはストーリーが構成しづらい分、長篇映画として観客を退屈させないように作るのが難しいのだが、本篇は79分と尺が短めであることを差し引いても、ほとんど退屈することがない。非常にうまく組み立てられている。

 気になったのは、ほぼ映像主体で、テロップではなくナレーションによってすべての説明を行っているのだが、専門的な単語を少々安易に使っている傾向があることだ。かなり噛み砕いているのは解るが、たとえばナトロン湖があるグレート・リフト・バレー大地溝帯という名称、文字にしてみるとうっすら察しがつくが、声だけで突然持ち出されるといまひとつ伝わりづらい。ナトロン湖の南側に位置し灰をまき散らす山の現地での名称オルドイニョ・レンガイというのも1回耳で聞いただけではイメージがしづらい。なまじ基本的にはシンプルに、解り易くを心懸けていると察せられるだけに、もう少し配慮が欲しかった。

 だが、画面上に極力テロップを置きたくなかったのも理解できる。そのくらいに本篇で使われた映像が貴重であることは想像に難くないし、純粋な美しさも備えているのだ。プログラムにおいて専門家も驚きを綴っていたが、フラミンゴの親鳥が雛に初めての食事として供する“フラミンゴミルク”の鮮紅色は、知識がなくともかなりの衝撃があるし、湖を所狭しと埋め尽くしカップリングを行う姿、天敵のハゲコウから逃げるように列をなして移動する姿など、荘厳な美しさがある。

 一方で、これほど適応しながらも、弱い者が淘汰されていくような環境であることも伝える映像がまた衝撃的だ。雛たちが運悪く深いぬかるみを踏むと、その脚はセメントのように固まった塩によって自由を奪われてしまう。そうして機動力を損なった雛たちはいの一番に外敵によって捕食され、移動時には群れから孤立して命を落とす。自然界の摂理をはっきりと捉えたシーンの数々は、作品に重みを齎している。

 近年、自然に関するドキュメンタリーを製作すると、自然破壊の現実に触れるのが恒例のようになっているが、本篇は作中でその点に頻繁に言及することなく、最後にそっと匂わせるだけに留めている。フラミンゴがナトロン湖の過酷な環境下で築きあげた完璧なサイクルをきちんと辿り、それが開発によってどんな影響を受けるのか、直接に描くのではなく、観客に想像させるような手管は、過剰に問題意識を煽るよりもよほどスマートで、なおかつ有効な方法論だろう。

 描き方として決して革新的ではないが、貴重かつ美しい映像を多く蒐集し、堅実に、観客の関心惹きつけるよう巧みな工夫の施された、良質のドキュメンタリーである。毎回スタッフは異なるようだが、もし本篇の水準が基本となるのなら、今後もこのシリーズには期待できそうだ。

関連作品:

皇帝ペンギン

WATARIDORI

ミーアキャット

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