原題:“Hell Ride” / 監督・脚本・主演:ラリー・ビショップ / 製作:ラリー・ビショップ、マイケル・スタインバーグ、シャナ・スタイン / 製作総指揮:ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、クエンティン・タランティーノ / 撮影監督:スコット・キーヴァン / プロダクション・デザイナー:ティム・グライムス / 編集:ウィリアム・イェー、ブレイク・ウェスト / 衣装:アリエラ・ウォルド=コーヘイン / 音楽監修:メアリー・ラモス / 音楽:ダニエル・ルッピ / 出演:マイケル・マドセン、エリック・バルフォー、ヴィニー・ジョーンズ、レオノア・バレラ、ローラ・カユーテ、ジュリア・ジョーンズ、デヴィッド・キャラダイン、デニス・ホッパー / 配給:MOVIE-EYE / 映像ソフト発売元:Warner Home Video
2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間24分 / 日本語字幕:? / R-15
2009年1月17日日本公開
2009年5月27日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video版:bk1/amazon|Blu-ray Disc版:bk1/amazon]
公式サイト : http://www.hellride.jp/ ※閉鎖済
[粗筋]
アメリカ西部を縄張りとするふた組のバイカー・グループのあいだでは、数十年に跨って抗争が繰り広げられていた。ピストレロ(ラリー・ビショップ)率いる“ヴィクターズ”に対し、ビリー・ウィングス(ヴィニー・ジョーンズ)を頂点とする“シックス・シックス・シックス”が過激な抗争を仕掛け、裏切りと報復が日々繰り返されている。
ピストレロの脳裏に常に描かれているのは、32年前の悲劇だ。まだ10代の、バイカー達に憧れる少年でしかなかった彼は、チェロキー・キズム(ジュリア・ジョーンズ)という女が“シックス”によって虐殺される現場を目の当たりにする。以来、ピストレロはある想いを抱いて生き、いつしか“ヴィクターズ”のリーダーに就いていた。
そして現在、ボブ・ザ・バムがビリーたちによって、32年前のチェロキーと同じやり方で処刑されたことをきっかけに、“ヴィクターズ”と“シックス”の抗争は更に激しさを増す。果たして、最後に生き残るのは誰だ……?
[感想]
何というか、人を食った話である。
物語は主人公であるピストレロが、腹に矢を突き立てられた状態で、地面に横たわっている姿を撮して始まる。何者かの襲撃を受け、死を覚悟しているところのように見えるこのシーンから、話はすぐに過去へと戻り、矢を射られるに至った経緯を綴る――かのように見せかけているのだが、実のところこの冒頭の出来事、本筋とほとんど関係ない。どう関係ないのか、についてはさすがに伏せておくが、ここで呆気に取られるならまだいいほうで、人によっては怒り出しても仕方のない成り行きだ。
本篇のストーリー展開は終始こんな感じで、ひたすら観る者の裏を掻くことに腐心しているかに見える。それが意外性や、作品の牽引力に繋がっていればいいのだが、生憎この作品はあさってに偏りすぎていて、ほとんど意味を為していない。序盤は特に繰り返し裏切りと報復が繰り返されるが、そもそも誰がどちらのメンバーで、どの段階で裏切りを画策していたのかがほとんど解らないので、驚きもしなければショックを受けることもない。根本的なところで失敗している作品、というように思える。
あのクエンティン・タランティーノが製作総指揮に加わっており、好きな人なら凄惨な描写にも期待を寄せてしまうが、その意味でも物足りない。喉を掻き切る、矢を打ち込む、といった描写は、不慣れな人にとっては怖気を齎すだろうが、慣れている目にはあまりにあっさりしすぎている。暴力性よりもそこから生じるユーモアに重点を置いているから、と捉えることも出来そうだが、それにしても力の弱さは否めないところだ。
折角個性豊かな俳優達を起用しているのに、その存在感を充分に活かし切れていないのも問題だ。マイケル・マドセンが飄々と扮するピストレロの相棒ジェント、エリック・バルフォー演じるなかなか経歴の判然としない新米コマンチなど、中心人物はある程度動いているが、人物像があまりにぐらついているので印象が曖昧なものになっているし、往年の大物を演じたデヴィッド・キャラダインなども出番の少なさが惜しまれる。
だが、さすがに曲者が多いだけあって、僅かな出番、ぐらつく人物像であっても、一定の存在感、インパクトを発揮しているのはさすがだ。そして、俳優として活躍している人物が監督だからなのか、画面作りや独特の雰囲気の表現は巧い。情報を提供する前にセックスを要求する女とピストレロのやり取りや、凶行の前後に見せる男たちの振る舞いの洒脱さはなかなか面白い――それらが物語の魅力に繋がっていないのも問題なのだが。
作品全体の佇まいには一貫性があり、見せたいものははっきりしているのだが、その“見せる”ものについて充分に考慮していないため、不完全燃焼を起こしてしまっている作品である。独特の魅力があって、気に入る人は徹底的に愛してしまいそうだが、相当に人数は限られるはずだ。
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