『地獄のバスターズ』

地獄のバスターズ〈デジタル・リマスター版〉 [DVD]

原題:“Quel maledetto treno blindato” / 英題:“The Inglorious Bastards” / 監督:エンツォ・G・カステラッリ / 脚本:サンドロ・コンチネンツァ、セルジオ・グリエコ、ロマノ・ミグリオリーニ、フランコ・マロッタ、ラウラ・トスカーノ / 撮影監督:ジョヴァンニ・ベルガミーニ / 美術:ピエルイージ・バシル、オーレリオ・クルグノーラ / 編集:ジャンアランコ・アミクッチ / 衣装:ユーゴ・ペリコリ / 視覚効果:ジーノ・デ・ロッシ / 音楽:フランチェスコ・デ・マージ / 出演:ボー・スヴェンソン、ピーター・フートン、フレッド・ウィリアムソン、マイケル・ペルゴラーニ、ジャッキー・ベースハート、ミシェル・コンスタンタン、デブラ・バーガー、ライムンド・ハームストロフ、イアン・バネン / 映像ソフト発売元:DEX Entertainment

1976年イタリア作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:?

2006年1月27日DVD日本最新盤発売 [bk1amazon]

DVDにて初見(2009/10/19)



[粗筋]

 1944年、フランス。

 軍法会議にかけられる囚人達を移送中のトラックが、ドイツ軍による空襲を受けた。辛うじて生き残ったロバート・イェーガー中尉(ボー・スヴェンソン)はじめ5人の囚人は、生き延びるために中立国であるスイスを目指すことにした。

 だがその道中、連合軍の秘密作戦に参加するためドイツ兵の制服を纏っていたアメリカ兵を過って殺害してしまったイェーガー達は、作戦の指揮を行うバックナー大佐(イアン・バネン)を半ば脅して、代わりに作戦を遂行することを条件に自分たちのスイス脱出を認めさせる。

 かくして、コソ泥に殺人犯、悪党ばかりの5人組は、ドイツ軍が開発したロケット輸送列車を襲撃、機密を強奪する重要な任務に携わることとなった。この大幅に狂わされた作戦は、果たして成功するのだろうか……そして悪党どもは、無事にスイスに脱出できるのか?

[感想]

 本篇の監督エンツォ・G・カステラッリはマカロニ・ウェスタンを多く製作してきた人物である。そのせいなのか、本篇も戦争映画としては少し手触りが変わっている。

 こと近年になって顕著な傾向として、戦争映画はその悲劇性を強調したり、争いの中で生じる皮肉な運命を浮き彫りにして、観るものに反戦意識を植え付けようとしているきらいがある。30年以上前の作品だから、というのもあるのだろうが、本篇は“反戦”のようなテーマ性を掘り下げるよりも、戦争という題材を用いて面白い話を作ることを強く意識しているようだ。

 ひたすらに意外性を追求し、娯楽性を狙ったと思しいシナリオの完成度は非常に高い。囚人ばかりの寄せ集め5人、という設定故に生じるトラブルが積み重なった結果として、パルチザンたちの拠点に潜りこみ、作戦行動に勝手に加わる流れになるのだが、その過程に見事な説得力が備わっているのだ。こと、途中で捕らえたドイツ兵アドルフ(ライムンド・ハームストロフ)を軸とした中盤の変転ぶりは、あとで何故ああなったか、を考証してみると、唸らされるほどに巧い。娯楽性を追求しながらも戦争の悲劇を仄かに滲ませているのは、このキャラクターの言動に因るところが大きい。

 階級故に囚人連中からリーダーに祭りあげられるイェーガーは解り易いヒーロー的キャラクターだが、他の囚人達はそれぞれにキャラクターが確立されており、しかも物語の進行においていずれの個性もきちんと活かされている点も出色だ。終盤では多くの登場人物が命を落とすのだが、生き残る人間の選択でさえも、ある意味では意外性があり、ある意味では必然的なのが絶妙であり、凄惨な物語にも拘わらずユーモアを感じさせる。

 敵味方や戦いの趨勢をあまり気に留めていない主要登場人物たちの言動や、戦闘シーンがどこかウェスタンのような雰囲気を漂わせていることなど、戦争映画らしからぬ一種の“軽薄さ”がどうしても許せない、という向きもあるだろうが、そこに拘らなければ、充分に面白い。日本では劇場公開されなかった、というのが訝しく思える娯楽映画の秀作である。

 本篇は今年、映画マニアとして知られるクエンティン・タランティーノ監督の手によって、『イングロリアス・バスターズ』のタイトルでリメイクされた。しかし、相当盛大に脚色が施されたそうで、原型をほとんど留めていないらしい。私が今回これを鑑賞したのも、オリジナルがどういう作品なのか、どれほど異なっているのかを確認したかった、というのが最大の目的だったのだが、なるほど、予告篇で確認できる部分と比較しただけでもそれと解るほど大幅に異なっている。

 ただそれでも、ナチスと戦うのがどこかダーティな雰囲気を醸し出すアメリカ兵であることや、女性もまたナチスとの戦いに拘わっている点など、細部に似たようなモチーフが認められる。いったい何を残して何を改変したのか、つぶさに確かめるために、リメイク版を鑑賞する前に本篇を観ておくのも一興ではないかと思う。そういう目的で観たとしても、充分に楽しめる作品であるのは間違いない。

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