原題:“Appaloosa” / 原作:ロバート・B・パーカー / 監督:エド・ハリス / 脚本:ロバート・ノット、エド・ハリス / 製作:エド・ハリス、ロバート・ノット、ジンジャー・スレッジ / 製作総指揮:マイケル・ロンドン、トビー・エメリッヒ、サム・ブラウン、コッティ・チャブ / 共同製作:キャスリン・ヒモフ、キャンディ・トラブコ、ジャニス・ウィリアムズ / 撮影監督:ディーン・セムラー / プロダクション・デザイナー:ワルデマー・カリノウスキー / 編集:キャスリン・ヒモフ / 衣装:デヴィッド・ロビンソン / キャスティング:ニコール・アベレーラ、ジャンヌ・マッカーシー / 音楽:ジェフ・ビール / 出演:ヴィゴ・モーテンセン、エド・ハリス、レニー・ゼルウィガー、ジェレミー・アイアンズ、ティモシー・スポール、ランス・ヘンリクセン、トム・バウアー、ジェームズ・ギャモン、アリアドナ・ヒル、ガブリエル・マランツ、ティモシー・B・マーフィ、ジェームズ・ターウォーター、ルース・レインズ、ボイド・ケストナー、アダム・ネルソン、レックス・リン / グラウンズウェル製作 / 映像ソフト発売:Warner Home Video
2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間53分 / 日本語字幕:藤澤睦実
2009年6月24日DVD日本盤発売 [bk1/amazon]
DVDにて初見(2009/11/02)
[粗筋]
ヴァージル・コール(エド・ハリス)とエヴェレット・ヒッチ(ヴィゴ・モーテンセン)のふたりは私設警察として西部を渡り歩き、各地の治安を守ることで生計を立ててきた。ふたりとも射撃の腕には自負があり、その町に辿り着いたときも、いつも通りに仕事が出来るつもりでいた。――その町の名は、アパルーサ。
町の議員たちは目下、ひとりの悪漢の存在に悩まされていた。ランダル・ブラッグ(ジェレミー・アイアンズ)は町で放恣に振る舞い、殺人を犯した部下を平然と匿い、捕らえに向かった保安官ベルとその助手を容赦なく射殺した。
法で取り締まる手段がない、と悟った議員たちは、ヴァージルとエヴェレットにブラッグを抑えて欲しいと依頼する。行動しやすいよう、ヴァージルは町の全権を寄越せ、と言うに等しい尊大な要求を突きつけたが、議員たちに拒絶する、という選択肢はなかった。
依頼を受け、アパルーサでの滞在を引き延ばしているうちに、ふたりきりであったヴァージルとエヴェレットのあいだにひとりの女が割り込んできた。
その女、アリー・フレンチ夫人(レニー・ゼルウィガー)はピアノ奏者としてヴァージルたちが身を寄せるホテルに雇われ、瞬く間にヴァージルの心を虜にした。間もなくヴァージルとアリーは町外れに土地を買い家を建て始めるが、アリーは建築中の家でエヴェレットを誘惑しようとする。彼女の本性に不安を抱くものの、珍しく女に入れ込んでいるらしいヴァージルに、そう告げることがエヴェレットにはためらわれた。
やがて、ブラッグとヴァージルたちとのあいだにあった膠着状態が崩れるときが訪れた。ブラッグの牧場で働いていたウィットフィールド(ガブリエル・マランツ)という青年が、保安官殺害の様子を裁判で証言する、と言ってきたのだ。
彼の言葉を拠り処に、ヴァージルとエヴェレットは早朝にブラッグの牧場を急襲、ブラッグを逮捕するが、事態は思わぬ方向へと展開していく……
[感想]
西部劇不遇の時代だが、それでもアメリカでぽつぽつ製作されている、ということは、最近の快作『3時10分、決断のとき』のところで述べたとおりだ。そしてその稀に作られながら、なかなか日本に渡ってこなかったうちの1本が本篇である。『アポロ13』や『ナショナル・トレジャー』など、脇で存在感を発揮する名優エド・ハリスの監督第2作にあたる。
前作『ポロック 二人だけのアトリエ』からして、人物像を徹底して掘り下げ、こだわりの感じられる作品世界を築いて監督手腕の確かさを示していただけに、映画の世界では未だに愛着を覚える人の多い西部劇を採り上げた本篇でも、丁寧さと拘りが光っている。
荒涼とした大地にぽつんと固まった集落、砂埃の舞う街道でのやり取りなど、これぞまさに西部劇、としか呼びようのない映像が完璧に再現されている。近年デジタル撮影にシフトしていた名撮影監督ディーン・セムラーが、監督の要請に応え、あえてフィルムで撮影したが故の粗さと味わいが、余計にそのムードを巧みに蘇らせているようだ。
カット割りも抑え、多くのシーンを恐らくは長回しで撮影しているからだろう、全般にテンポは遅く、現代のスピーディなエンタテインメントに慣れているといささかもどかしくさえ感じる。だがその分、役者たちの表情、演技の繊細さをじっくりと味わえ、練り込まれた作品世界の濃密さを堪能できる作りだ。重厚感もスピード感も強烈だった『3時10分、決断のとき』と較べると牧歌的にも感じるが、しかしどちらのほうが正統派の香気を漂わせているかと問われると、本篇のほうだろう。
ただ、西部劇と言われて期待するようなドンパチは、思いの外出て来ない。淡々としたやり取りの中でじわじわと緊張感が高まっていき、僅か数秒の撃ち合いで決着する、というシチュエーションがほとんどだ。しかしその手捌きが堂に入っているので、決戦の瞬間のインパクト、カタルシスは強い。
特に題名を象徴するラストの“決闘”は、目を逸らしているあいだに決着してしまうほど一瞬の出来事だ。だが、様々な要素が絡みあって実現した対決の構図、意味合いは予想外であり、一瞬のあとに訪れる虚しさと不思議な爽快感は逸品である。
近年の娯楽映画、硝煙が匂い血飛沫が舞い、圧倒的な暴力が高速で突き進んでくるような作品群に慣れていると緩慢としていて、人によっては退屈と感じるかも知れない。だが、決して英雄的ではない、生々しい人物描写によって築きあげられるドラマは滋味に富んでおり、見応えは充分だ。
この時代に敢えて作られただけあって、地味ながら丁寧で熱意を感じさせる、良質の西部劇である。派手なばかりで味わいのない作品が多い、とお嘆きの方にお薦めしたい――画面が美しいだけに、出来れば短期間でも劇場で観る機会を設けて欲しかったが、たとえ映像ソフトであっても正規盤で観られるだけ幸いだろう。
関連作品:
コメント