『85ミニッツ PVC-1 余命85分』

85ミニッツ PVC-1 余命85分 [DVD]

原題:“P.V.C.-1” / 監督・脚本・製作・撮影:スピロス・スタソロプロス / 脚本・製作総指揮:ドワイト・イスタンブリアン / 製作:ジェイス・ホール / 製作総指揮:エドウィン・M・フィギュエロア、ヴァシリス・スタソロプロス / 美術&衣裳:ルイザ・ウリブ / 特殊効果:ジュアン・パブロ・サラザール・バルネイ / 出演:メリダ・ウルキーア、ダニエル・パエス、アルベルト・ソルノサ、ウーゴ・ペレイラ / 配給:Transformer×TORNADO FILM

2007年コロンビア作品 / 上映時間:1時間31分 / 日本語字幕:?

2009年3月14日日本公開

2009年10月2日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

公式サイト : http://www.pvc1-movie.com/

DVDにて初見(2009/11/19)



[粗筋]

 南米コロンビアで牧場を営むバルデス家を突如、5人の武装集団が襲撃した。

 1500万ペソという法外な要求に応えられずにいると、犯行グループはバルデス一家の母親オフィーリア(メリダ・ウルキーア)の首に、奇妙な機材を巻き付けて去っていった。一瞬安堵した一家であったが、機材と共に残されていたカセットテープを再生して、一家の主・シモン(ダニエル・パエス)は愕然とする。犯行グループがオフィーリアの首に取り付けたのは爆薬であり、無事に金が準備できなければ、遠隔操作で爆破する、というのである。

 長男に幼い末娘を託して、シモンとオフィーリア、長女と共に、通報で駆けつけた爆発物処理班の待機する地点へと移動する。遅れて待ち合わせ地点に駆けつけた国家警察のハイロ中尉(アルベルト・ソルノサ)は、あり合わせの道具を使って懸命の解除を試みる……

[感想]

 本篇は2000年、コロンビアで実際に発生した事件に基づいている。実際に、一般家庭の主婦の首に爆弾が巻き付けられ、処理班が解体に挑んだ、という出来事があったようだ。ざっと調べてみたところ、顛末も本篇の展開とほとんど変わらないらしい。

 事件の空気を再現することに力を傾注したが故なのか、サスペンス映画のように謳っているが、一般のサスペンス映画のような事件の解決、すっきりとした結末は用意されていない。犯行グループが何故首に爆弾を仕掛けるという手段に打って出たのか、という根本的な部分については言及されていないし、被害者となる一家の行動も、単純に「警察に助けを求め、処理班に任せる」だけだ。自ら積極的に行動に及ぶ場面はない。

 だが、だからこそ本篇に漲る緊張感には、あまり作り物っぽさを感じないのだ。恐らくは物語の舞台となるコロンビアの実情や、実際の事件の成り行きを反映しているせいなのだろう、移動中ほとんど舗装された道が登場しなかったり、途中までトロッコを用い、川を徒歩で越え、道なき道を切り抜けていく様にもさほど違和感を覚えず、ままならない状況に苛立ちしばしば感情を迸らせてしまう姿にリアリティがある。最初に現れた爆発物処理班の男性が、どうやら家族で休暇を楽しんでいるさなかに急遽呼び出されたらしい、というのも妙な生々しさがある。

 特筆すべきは、全篇がワンカット、1台のカメラにより途切れることなく撮影されているという点だろう。そのために事件の背景について綴る余地が無くなってしまっているのも事実だが、登場人物とほぼ同じ目線で、しかも決して登場人物になりきることなく現場の緊迫感、動揺や焦りを間近に感じることが出来る。そのぶん、計算に基づいて行動しなければならない俳優たちの負担も大きかったと思われるが、それすらも本篇のジリジリとした空気を醸成するのに役立っている。

 題名が暗示する通り、そして現実の事件もそういう展開だった通りに、本篇は最悪の結末を迎える。だが、それで「ネタばらしだ」と感じて観ることを躊躇うようなら、たぶん本篇を楽しむことは出来ない――そもそも、楽しむ、ということよりも、事件の緊迫感を再現すること、編集や映像の加工によって損なわれかねないリアリティを極限まで汲み取ろうと意図した作品だ。現実に犠牲者が出ていることを思えば不謹慎極まりない、と感じる人もいるだろうが、非常に意欲的な表現の仕方であり、観る者にその悲劇を訴える力は充分に備えている。

関連作品:

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