監督:志水淳児 / 脚本:前川淳 / キャラクターデザイン:香川久、爲我井克美 / 作画監督:爲我井克美 / 美術設定:佐藤正浩 / 美術監督:中村光毅 / 音楽:高梨康治 / 出演:沖佳苗、喜多村英梨、中川亜紀子、小松由佳、こおろぎさとみ、松野太紀、前田健、鶴ひろみ、坂本千夏 / 配給:東映
2009年日本作品 / 上映時間:1時間10分
2009年10月31日日本公開
公式サイト : http://www.precure-movie.com/
[粗筋]
管理国家ラビリンスの野望に立ち向かうため、伝説の戦士プリキュアとなった幼馴染み三人組の桃園ラブ(沖佳苗)、蒼乃美希(喜多村英梨)、山吹祈里(中川亜紀子)。かつてはラビリンスの一員イースであったが、ラブたちの尽力で蘇った東せつな(小松由佳)を加えて4人となって、初めてのパジャマ・パーティを催すことになった。
ラブたちにとっては久しぶりの、せつなにとっては初めての経験にはしゃいでいた一同だったが、テレビで報じられた奇妙な事件に息を呑む。子供たちのおもちゃが次から次へと消えてしまっている、というのだ。
おもちゃ屋で事態を確認し、子供たちを「きっとプリキュアが何とかしてくれる」と慰めると、4人はラブたちの部屋に戻って対策を相談する。いつものように、不幸のゲージを貯めているラビリンスの仕業では、と疑ったが、妖精のタルト(松本太紀)はクローバーボックスに反応がないので、原因は別にあると主張した。ではいったい誰にこんな真似が出来るのか?
そのとき、クローゼットの中から何者かがラブに呼びかけてきた。妖精の赤ちゃん・シフォン(こおろぎさとみ)の超能力で連れ出されてきたのは、ラブが昔遊んでいたぬいぐるみのウサピョン(鶴ひろみ)。一連の出来事は、子供たちに恨みを持つおもちゃ、トイマジンの仕業だという。子供たちのもとにおもちゃを戻すために、プリキュアの力を貸して欲しい、とウサピョンは訴えた。
トイマジンと対決するため、せつなの持つピックルンの力でおもちゃの国へと移動した一同。そこでは、様々なおもちゃ達が闊歩していた――
[感想]
このところ何故か毎回劇場まで観に行っているこのシリーズ、例に漏れず今回も容赦なく大人の語彙で粗筋を記したが、さすがに噛み合わなくて気恥ずかしいものがあった。キャラクター目線で書いたりすると今度は感想の文体や趣旨で苦しみそうだし。
いずれにせよ、2009年11月現在もテレビで放送中のシリーズの雰囲気を崩していない、という点では相変わらずいい仕上がりで、どういう目線であれあちらを楽しんでいる人ならひととおり満足はいくだろう。
ただ、劇場版なりの膨らみを持たせていた『Yes!プリキュア5』の2作品と較べると、事件の方向性や話の大枠があまりにテレビシリーズ通りで、少々ヴォリューム感が足りない印象は否めなかった。
上記あらすじのあと、トイマジンのもとに辿り着くために双六に参加させられ、結果として個人戦の様相を呈していくのだが、各々別々のシチュエーションを折角用意し、服装もそれに合わせたものに変更しているのに、すぐに変身してしまっていつも通りに変えてしまったのは勿体ない。いまいち色気も可愛さもない道着姿だったラブはともかく、レオタード紛いのけっこう大胆な宇宙服を着せられていた美希や、妙に似合っていたカジノディーラーっぽい服装のせつななどは、もうちょっと時間をかけて描いてあげるべきではなかったか。そもそ折角のシチュエーションならではの戦い方が演出できていないことも気になる。
簡単に飽きておもちゃを捨ててしまう子供たちへの復讐、という題材はいいのだが、それを実行に移すための力をボスがどうして手に入れたのか、がまったく不透明なままになっているのも引っ掛かる。このプリキュアシリーズの劇場版は、少なくとも私の知る範囲では、すべてテレビシリーズとは異なる敵役を用意するのが伝統となっており――そうしないと映画の中で物語が完結しない危険があるからだ――本篇もそれに従った格好だが、しかし本篇の悪役は発端がラビリンスの企みであったとしても別に不思議はない、むしろそのほうが“出所は何処か?”という疑問を生じさせずに済んだように思う。終盤の展開は、ラビリンスの悪巧みという背景があったとしても、映画の中で完結させることは出来ただろう。無理に切り離して、違和感をもたらしているのは勿体ない――たとえ私のように重箱の隅をつつきたがるような客しか感じないものだとしても。
しかし、クライマックスにかけての見せ方、盛り上げ方は従来と同じく巧い。趣向のひとつひとつは有り体だが、ちゃんと少しずつ感情をくすぐり、盛り上げた上で感動の結末に繋げている。特に、これも恒例となっている観客参加のイベントについては、旧作よりも理に適い説得力があった。旧作ではイベントとして組み込むことが優先していて若干無理が感じられたが、本篇に関しては、純真な子供たちは本気で参加してくれるのでは、と思うくらいによく出来ている。
劇場版だからこその、高い水準で安定した絵のタッチや、見せ場での大胆なカメラワーク、迫力のある動きも嬉しい。こと、最後の戦いのくだりでは、3DCGをかなり自然に使っているように見受けられ、感心した。ボスキャラが3DCGなのは当然としても、巨大化したそれの上を疾駆するキュアピーチは、恐らく3DCGを用いているはずだ。注意して観ないと解らないくらいにうまく馴染ませている点は、技術的にも注目すべきところだろう――ただ、この点は私の誤解かも知れない、という恐れを抱いているのだが、仮にそうだとしても、3DCGの上に自然に手描きによる絵を重ねていること自体が賞賛ものであることは変わりない。
これまでの劇場版の、たいてい1時間20分にも満たない尺の中でヴォリュームたっぷりのドラマを詰め込んできた質の高さを思うと、テレビシリーズの趣向をそのまま膨らませただけ、と感じられる物語の作りが残念だが、しかし劇場版ならではのサービスもきちんと施してあり、テレビシリーズを愛好している人なら問題なく楽しめるはずである。
本篇は、従来のシリーズにあった、劇場窓口で手渡されたアイテムを用いたものの他にもうひとつ、観客参加型イベントが用意されている。
テレビシリーズをご覧の方ならご存知の通り、本篇のテレビシリーズのエンディングでは、3DCGによるプリキュアのダンスが採り入れられている。そこでこの作品では、エンディングで一緒に踊ることを呼びかけているのだ。
ただ、いうまでもなく場所は映画館、立ち上がったり精一杯身振り手振りをして周囲に迷惑をかけるのは好ましくない、ということで、座席に着いたまま、行儀良く踊るよう、エンディングの直前に、デフォルメされたプリキュアたちが観客に注意をするくだりが挿入されているのだが――ここでひとつだけ、どうにも引っ掛かったことがある。
基本的には子供に向けての注意なのだが、ただひとり、キュアパッションだけは、私のように一部紛れ込んでいる大人に向かって注意していた。
「椅子の上に立って踊らないでね」
……それはジョークか本気か、どっちだったんだ。
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