『ディセント2』

『ディセント2』

原題:“The Descent : Part 2” / 監督・編集:ジョン・ハリス / 脚本:ジェームズ・マッカーシー、J・ブレイクソン、ジェームズ・ワトキンス / 製作:クリスチャン・コルソン、イヴァナ・マッキノン / 製作総指揮:ポール・スミスニール・マーシャル / 共同製作:ポール・リッチー / 撮影監督:サム・マッカーディ / プロダクション・デザイナー:サイモン・ボウルズ / 衣装:ナンシー・トンプソン / 特殊造形:ポール・ハイエット / 特殊効果:ジョニー・ラフィック / 視覚効果:ショーン・フィーラン / 音楽:デヴィッド・ジュリアン / 出演:シャウナ・マクドナルド、ナタリー・メンドーサ、クリステン・カミングス、ギャヴァン・オハーリヒー、ジョシュア・ダラス、アンナ・スケラーン、ダグラス・ホッジ、マイアンナ・バリング、ノラ=ジェーン・ヌーン、アレックス・リード、サスキア・マルダー / セラドール・フィルムズ製作 / 配給:角川映画×unplugged

2009年イギリス作品 / 上映時間:1時間35分 / 日本語字幕:岡田壯平 / R-15+

2009年11月7日日本公開

公式サイト : http://www.descent-2.com/

シアターN渋谷にて初見(2009/12/04)



[粗筋]

 ジュノ(ナタリー・メンドーサ)ほか合計6名の女性がケーヴィングに向かったまま消息を絶って、2日が経過した。申請されたルート上に彼女たちの痕跡は残っておらず、連日の捜索にも拘わらず未だ安否は判明していない。

 そんななか、救助隊に驚くべき一報が齎された。行方不明になった女性のひとり、サラ(シャウナ・マクドナルド)が、まったく別の地点で発見されたのである。恐怖と動揺のあまり記憶を失っていた彼女の着衣は血にまみれており、病院の簡単な調査では、その血液は失踪したメンバーの血液型と一致していた。捜索に加わっているウェインズ保安官(ギャヴァン・オハーリヒー)は、サラたちのあいだで何らかのトラブルがあったものと推測、彼女が脱出した場所を探り出すと同時に、サラに対する事情聴取を強行した。

 間もなく、洞窟に繋がっていると思しい廃坑が発見される。救助隊の指揮を執るダン(ダグラス・ホッジ)は部下のグレッグ(ジョシュア・ダラス)とキャス(アンナ・スケラーン)、それにウェインズとその部下のリオス(クリステン・カミングス)、更にウェインズの提案で、助けられたばかりのサラをも伴って、他の5人の行方を捜し始めた。

 廃坑から洞窟内に侵入すると、サラの表情に恐怖と緊張がちらつき始める。ウェインズはそれが何らかのトラブルがあったことを仄めかしていると捉え、リオスは単純に遭難時の恐怖を思い出し動揺しているだけだと捉える。

 保安官ふたりのこの判断は、ある意味で正解であり、ある意味で大きな誤りだった。そのことに気づいたときには、既に彼らの間近に、“脅威”は迫っていたのだ――

[感想]

 ホラー映画とアクション映画は、大ヒットを飛ばすとたいてい続篇が作られる。かつては製作者以外がそっくり入れ替わってまるっきり別物になったり、3作・4作と続くうちにオリジナルのクリエイターが出張ってきて方向修正を図ったり、というのがよくあったが、近年はそうした劣悪な例は減ってきた。おおむね1作目の監督がそのまま続篇も担当するか、或いは製作総指揮に名前を連ねるなどして、精神性やムードの踏襲をするようになっている。

 本篇もまた、前作のニール・マーシャル監督は外れたが製作総指揮を担当、更に新しい監督も前作に編集という形で携わったジョン・ハリスを起用することで、基本的な方針や全体のムードは前作をうまく引き継いでいる。

 ただ、観終わった直後の印象は、前作のムードを受け継ぐという意味では健闘しているが、仕上がりはいまいち、というのが率直なところだった。

 観ていてまず引っ掛かるのは、冒頭、脱出してきたサラを巡る、人々の動向である。本篇はまずサラがどうやってあの深い洞窟から脱出したのか、という点が大きな謎として提示されるが、結果として救助隊が見つけ出した廃坑は、どう見てもサラの脱出経路に該当するとは考えられない。なのに何故救助隊はこのルートから潜入できると判断したのか、のちのち理由が示されるのかと思いきや、結局なおざりにされてしまった。

 また本篇の作りは結果として、前作で描かれた洞窟の絶望的な深さを取り除き、浅いものにしてしまったきらいがある。成り行き故に、当たり前ながら救助隊はサラの辿った道を遡行する形になるのだが、そのせいでサラたちが巡った道のりを脱出可能な、あまり奥行きのないものに感じさせてしまっている。加えて、前作で敢えて解き明かさなかったと思しいある要素を、ほとんど無視してしまったのが残念だ。本篇の話運びの都合で必要がなくなってしまったのも確かだが、そこを無視することで、前作にあった洞窟の神秘性をも取り払ってしまった感が強い。

 そうして、続篇として前作の謎を掘り下げ深めることに成功しているか、という観点から眺めると、生憎本篇はあまり納得のいく仕上がりではない。

 しかし、雰囲気を踏襲することには成功しているし、前作の要素を応用した緊張感の醸成、恐怖感の演出、という部分では非常に健闘している。

 前作のような、危機的状況を表現する手法の独創性はかなり損なわれているが、その分暗闇であることを活かしたオーソドックスな演出できっちりと効果を上げている。登場する怪物が闇に適応したため盲目であることを利用して、怪物たちと人間がギリギリですれ違う緊迫感もうまく盛り込んでいる。

 特筆すべきは、前作のなかで描かれたドラマを意識して反復し、膨らませようと試みていることだ。極限状態で生じた葛藤をふたたび再燃させるようなシチュエーションがあるかと思えば、結果的にサラと最も長い時間同道することになる女性保安官にサラを共鳴させ、クライマックスでそれを効果的に利用しているあたりはなかなか巧い。

 前作以上に不条理な印象を受ける結末にしても、実は前作の方向性を意識して受け継いでいることに注目していただきたい。そのまま見た目通りに受け取るのも無論ありなのだが、あれが前作の結末と対応している、と考えると、本篇の物語はまた別の解釈が可能になってくるのだ。

 もっとも、そのあたりの意欲的な構成を評価したとしても、序盤にある違和感、不自然さの説明にはなっていないので、お世辞にも成功している、前作を上回ったとは言い難い。しかし、それ自体で完結している前作の良さをどう引き継ぎ、どう活かすか、という点についてきっちりと考え、限界まで丁寧に作りあげた、極めて良心的な続篇であることは確かだ。あまりに高い期待を抱きすぎると失望するかも知れないが、冷静に鑑賞すれば、ホラー映画として水準を超えている。

 前作にあった、人物造型の巧さも本篇は引き継いでおり、新たに参加したメンバーの個性、関係性も本篇はちゃんと物語、緊迫感の演出に利用している。

 怪物たちとの駆け引き、という部分でもっとも見所を作っているのは救助隊の若い男女コンビだが、ホラー映画本来の愉しさを提供している、という意味で誰よりも活躍しているのは、最年長の保安官である。

 ホラー映画を観ているとしばし「こいつ早く死んでくれねーかな」と思わせるキャラクターが登場し、窮地に追い詰められる登場人物たちに感情移入した観客に苛立ちと、思わぬ場面での爽快感を齎してくれるものだが、この保安官はその役回りを見事に果たしている。ある意味、非常に天晴れな活躍ぶりでさえあるので、もしこれから観るという方があるなら、是非とも彼に注目していただきたい――イヤでも注目させられるだろうけれど。

関連作品:

ディセント

ドッグ・ソルジャー

ドゥームズデイ

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