『変態村』

変態村 [DVD]

原題:“Calvaire” / 監督:ファブリス・ドゥ・ヴェルツ / 脚本:ファブリス・ドゥ・ヴェルツ、ロマン・プロタ / 製作:ミカエル・ジェンティル、エディ・ジェラドン=リュイックス、ヴァンサン・ダヴィエ / 撮影監督:ブノワ・デビエ / 美術:マニュ・デ・ミューレムスター / 編集:サビーヌ・ユボー / 衣装:ジェラルディン・ピクロン / 音楽:ヴァンサン・カエイ / 出演:ローラン・リュカ、ジャッキー・ベロワイエ、フィリップ・ナオン、ジャン=リュック・クシャール、ブリジット・ラーエ、ジジ・クールシニー、フィリップ・グランダンリー、ジョー・プレスティア / 配給:TORNADO FILM

2004年ベルギー、フランス、ルクセンブルク合作 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:? / R-15

2006年3月18日日本公開

2006年10月4日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

DVDにて初見(2009/12/15)



[粗筋]

 自ら運転するワゴン車で各地を転々とし、老人ホームの慰問などで細々と食いつないでいる歌手のマルク(ローラン・リュカ)は、クリスマスのイベントが催される南仏へ移動する最中、車がエンストして足止めを食ってしまう。

 雨の中、ベラという飼い犬を捜し続ける男ボリス(ジャン=リュック・クシャール)の紹介で、かつて宿屋を営んでいたバルテル(ジャッキー・ベロワイエ)のもとに身を寄せるが、整備工が掴まらず、この地をたてる目処はなかなか立たなかった。

 マルクは気づいていなかった――彼は既に、自らを絡め取ろうとする欲望の蜘蛛の巣に、とうに捕まっていたことに。

[感想]

 アメリカで頻繁に作られている、『悪魔のいけにえ』系統の作品をフランス流に、かつ別のベルトルでよりグロテスクにアレンジした、といった趣の映画である。

 本筋とは関係のないプロローグ部分からして妙な不快感を催させるのだが、舞台となる村に入っていくと、細かな出来事に違和感と不気味な気配が漂い、それが次第に濃密にまとわりついてくる。具体的な恐怖描写などなく、せいぜい村の住人たちの薄気味悪い行動が描かれているだけなのだが、じわじわと迫ってくるような怖さがあるのだ。

 その理由が解ってくる中盤以降になると、人によっては拒絶反応を起こすかも知れない。本篇で描かれる不気味な言動の数々は、よほど奇特な人でもない限り、生理的な嫌悪感を抱くようなものがひとつふたつ含まれているはずなのだ。具体的な背景など説明はしていないが、本篇の細かな描写には、村がこんな状況になってしまった理由を窺わせるものがあり、一連の行動にも不思議な説得力があるのだが、それ故に却ってタチが悪い。

 そしてクライマックスから結末に至るまで、更に観る側の嫌悪感を煽り続けるのだ。奇妙な生々しさを備えながら、主人公にとって不条理極まりない展開には、『悪魔のいけにえ』のような歪なカタルシスさえ味わうことが出来ない。名状しがたい虚しさと、それに伴う自虐的なエクスタシーは味わえるかも知れないが、ほとんどの人はたぶんぽかんとするだけだろう。

 だが、予定調和というものを一切合切無視した展開、悪意を強烈に溢れさせながらもどこか空想的な気配にも満ちあふれた、グロテスクな美的感覚に彩られた映像、考えようによっては神話的とも捉えられるラストシーンなど、いったん許容してしまうと、強い印象を胸に刻まれてしまう作品である。

 漏れ聞いていた粗筋やシチュエーションから、ちょうど直前に鑑賞した拉致監禁を題材とするゴア映画『ホステル』や『グロテスク』のような代物を想像していた私は、予想していたより暴力描写が遥かに大人しかったので、やや肩透かしの感を味わったことも否めないが、むしろ残虐な表現を最小限に留めながら人間の歪な欲望をとことん醜悪に描き出している、という意味では、前述の2作品よりも秀でている、とさえ言えそうだ。

 ……何にせよ、アート映画めいた風格を漂わせつつも、桁外れなくらい極端な嗜好品である。鑑賞する際は、多少情報を仕入れた上、「本当に観たいのか?」と自分の胸に問うてからにするのが無難だろう。胸焼けを起こしても知りません。

関連作品:

悪魔のいけにえ

ホステル

グロテスク

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