原題:“Diamant 13” / 原作:ユーグ・パガン / 監督:ジル・ベア / 脚本:ジル・ベア、ユーグ・パガン、オリヴィエ・マルシャル / 製作:チャールズ・ジルベール、マリン・カルミッツ、ナサニエル・カルミッツ、パトリック・クイン、クロード・ワリンゴ / 撮影監督:ベルナール・マルシー / 美術:アレデリック・アスティヒ・バー / 編集:ティエリー・ファバル / 衣装:ドミニク・コンベルス / 音楽:フレデリック・ヴェルシュヴァル / 出演:ジェラール・ドパルデュー、アーシア・アルジェント、オリヴィエ・マルシャル、アンヌ・コエサン、アイサ・マイガ、カトリーヌ・マルシャル、オーレアン・ルコワン / 映像ソフト発売元:タキ・コーポレーション
2009年フランス、ベルギー、ルクセンブルク合作 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:?
2009年12月4日DVD日本盤発売 [bk1/amazon]
DVDにて初見(2009/12/17)
[粗筋]
かつては有能な刑事であったが、不祥事を起こしたことがきっかけで夜勤に配属されたマット(ジェラール・ドパルデュー)は、ある晩、友人である麻薬捜査官のフランク(オリヴィエ・マルシャル)から呼び出された。深夜のガソリン・スタンドでフランクが持ちかけてきたのは、税金のかからない金儲けの話。マットは「聞かなかったことにする」と立ち去ったが、ガンのために余命幾許もない、というフランクの話は、マットの心に棘を残した。
他日、マットはかつての恋人であり、今や警視にまで昇進したカルーン(アーシア・アルジェント)の事務所に招かれ、ある映像を見せられる。それはマットがフランクと共に麻薬組織の取引の現場に赴いた際、銃撃戦に至るまでの一部始終を、彼らとは別に内偵で動いていた捜査官が撮影したものだったが、そこには売人のひとりマレッティを、フランクが一方的に射殺する場面が映っていた。
麻薬捜査官であるフランクが、麻薬王のラジ(オーレアン・ルコワン)と癒着している可能性がある。カルーンはマットも同様に内通していると監査部が睨んでいることを告げ、見逃すためにもフランクの調査に協力するよう要請した。しかしマットはこの頼みも一蹴する。危険な儲け話も無論のこと、友人を売るような行為に与することも彼は良しとしなかった。
だが、フランクの疑惑に満ちた行動は、遂にマットを本格的に巻き込んでいく。バーで飲んでいたマットの電話を、フランクの持つ携帯電話が呼び出したが、出ても相手の反応はない。バーの外にはフランクの車が駐められており、そこにはフランクの屍体が転がっていた――
フランクはいったい何に首を突っ込んでいたのか。マットはカルーンの依頼とは関わりなく、独自に捜査を始める……
[感想]
『あるいは裏切りという名の犬』『やがて復讐という名の雨』と、フランスの警察の内実を描いたノワールを立て続けに手懸けてきたオリヴィエ・マルシャルが脚本を担当、準主役格で出演もしている作品である。そのため、原題には数字が組み込まれ、映像ソフトの発売元はそれぞれ異なっているが、同じ『〜という名の〜』というフォーマットで邦題がつけられたようだ。
そこは理解できるのだが、ただ正直に言って、本篇の邦題にはいささか違和感がある。警察機構、犯罪捜査という形で裏社会に拘わる者たちの業を描いている、という意味では“闇”という単語は相応しいが、本篇の描写から“絶望”はあまり汲み取れない。主人公であるマットは確かに、物語が進むにつれて絶望的な状況に追い込まれているが、当人が希望を失っている風には見受けられない。むしろ矜持を貫き、闇や失望を乗り越えようという力強さを感じさせるほどだ。彼にまつわる負のイメージはせいぜい、“悲哀”ぐらいのものだろう。
内容のほうは、相変わらず警察をリアルに描き出した現代のノワール、という佇まいで、『あるいは〜』以降2作の、マルシャル監督作品のイメージを踏襲している。そのムードをこそ渇望していたという人には堪らない仕上がりだ。
しかし惜しむらくは、結末まで観ると、尻窄みの印象が否めないことである。
原作、という表記があることから、もともと小説か何かに基づいていると思われるが、そのせいか多くの伏線や描写が放置されてしまったように見える。自殺を止められたことをきっかけにマットに好意を寄せる女や、闇の修理屋のエピソードなど、もっと緻密に描写しておくべきだったものが、あまり目立つことのできないまま、終盤で唐突に感情的な見せ場の道具に用いられているのが引っ掛かる。
また、奥深い闇を仄めかし、複雑に展開していったのはいいのだが、最後の締め括りで映画的な見せ場を作ることに気遣うあまり、人物の行動が支離滅裂に陥ってしまった感がある。主人公が最後に対決する人物が終盤で突如として慎重さを欠く雑な行動に出てしまっているのは解せないし、主人公や関係者の策もあまりに大雑把、見た目に拘りすぎて、それまでのリアリティを損なってしまっている。所作こそ格好いいのだが、途中までの筋運びから観客が期待するものからは逸脱している。
しかし、警察機構の描写から感じられるリアリティは相変わらず秀逸だ。その中で絡みあう人々の肉付けも巧い。とりわけ主人公マットの、一線を追われながらも矜持を失わず、自らの信念に従って立ち回る姿は、まさに正調ハードボイルドの趣があって、雰囲気に酔いしれる。フランス映画ではよくあるようだが、主人公が凛々しい美男子ではなく、どこかくたびれた中年男であるのも、面白い点だ。はじめから造作の優れた俳優とは異なる、年輪が築きあげた色香を備えた俳優だからこそ、ハードボイルド風の筋運びにしっくり来る。
如何せん、クライマックスの締め方で失敗していると言わざるを得ないので、傑作と呼ぶことは出来ないが、全篇に横溢する端整で渋い雰囲気に好感が持てる作品である。
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