原作:LEVEL 5 / 監督:橋本昌和 / 脚本:松井亜弥 / 企画、プロデュース、ストーリー原案:日野晃博 / ナゾ制作協力:多湖輝 / プロデューサー:臼杵照裕、岡田有正、山内章弘、堀川憲司、奥野敏聡、大村信、高瀬一郎 / エグゼクティヴプロデューサー:濱名一哉 / CGエグゼクティヴプロデューサー:阿部秀司 / キャラクターデザイン原案、エンディングイラスト:長野拓造 / キャラクターデザイン、総作画監督:杉光登 / 音響監督:三間雅文 / 音楽:西浦智仁 / テーマ音楽:斉藤恒芳 / 歌・声の出演:水樹奈々 / 声の出演:大泉洋、堀北真希、渡部篤郎、相武紗季、出川哲朗、LiLiCo、山寺宏一、家弓家正、納谷悟郎、飯塚昭三、大塚芳忠、中田譲治、井上喜久子、折笠富美子、豊口めぐみ、三宅健太、諸星すみれ、稲葉稔、斎藤志郎、能登麻美子、杉野博臣 / 配給:東宝
2009年日本作品 / 上映時間:1時間39分
2009年12月19日日本公開
公式サイト : http://www.layton-movie.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/12/19)
[粗筋]
ナゾをこよなく愛する考古学者エルシャール・レイトン教授(大泉洋)。ルーク・トライトン少年(堀北真希)が彼に憧れ、一番弟子を自称するようになって初めて経験した冒険の始まりは、一通の手紙であった。
手紙の差出人はジェニス・カトレーン(水樹奈々)、レイトン教授の元教え子であり、現在はオペラ歌手として活躍している女性である。彼女は、自らが経験した不可解な出来事を綴り、その解明をレイトン教授に求めてきた。
ジェニスにはミリーナ・ウィスラーという親友がいた。身体の悪かった彼女は1年前、早逝してしまったが、つい最近になって突如、ミリーナを名乗る人物がジェニスを訪ねてきたのである。ほんの7歳ぐらいに見える彼女は、だが自分の過去やジェニスとの想い出を正確に説明してみせた。幼いミリーナ(諸星すみれ)は、自分は不老不死の妙薬を飲んで永遠の命を得たという――
詳しい話を確かめるべく、レイトン教授とルークは、教授の助手レミ・アルタワ(相武紗季)の運転する車で、ジェニスの元へ向かった。奇しくもジェニスはこのとき、ミリーナの父オズロ・ウィスラー(家弓家正)の執筆した、不老不死にまつわる伝説とともにこの世界から消えた王国・アンブロシアを題材としたオペラの主演を務めていた。
今回の上演のために建設されたクロウン・ペトーネ劇場に到着したレイトン教授は、幾つかの不審な点を調べてもらうため、レミをいったんロンドンへ帰すと、ルークと共にまずはオペラを愉しむことにした。
しかし、どういうわけか観客は、オペラの内容にはまったく関心を抱いていなかった。上演終了後、喝采を起こさない観客の様子を訝るふたりの前に、奇妙な人形が出没して、メインイベントの存在を告げた。それは、命を賭けて“永遠の命”の権利を奪い合う、ナゾトキゲームであった……
[感想]
2007年に第1作『レイトン教授と不思議な町』がNintendo DS対応ゲームとしてリリース、以降DSでは2009年の『〜魔神の笛』まで4作が発売され、のちに携帯電話や漫画、小説でも関連作品がリリースされるなど、多くのメディアに展開するほどの人気を博した『レイトン教授』シリーズの、初となる劇場映画版である。
もともと原作のゲームでは盛り上がる場面にアニメーションを用いており、映画化しやすい土壌は整っていた。本篇は原作ゲームのアニメパートを手懸けていたスタッフがそのまま制作に携わっているので、原作と較べて違和感を覚えることはない。そういう意味では理想的で、幸運な映画化と言える。
ただ、そうして原作のことをよく承知して、雰囲気を可能な限り移植しようと試みたのが災いしたようで、映画として眺めると、どうもぎこちなさが目立つ。
原作は随所で“ナゾトキ”と称したクイズが挿入され、頭を悩ませながら一歩一歩進めていく。またクイズ部分以外にも多くの謎や仕掛けが用意してあって、要所要所で驚きを演出する仕組みとなっており、このあたりが人気に繋がっているひとつの理由となっている。
映画でもこのナゾトキ、仕掛けの面白さと驚きに拘っているのは伝わるのだが、可能な限り色々と盛り込もうとしたせいで、テンションは高いのだが、リラックスする部分が少なく全体に起伏が乏しい。言ってみれば、ゲームの盛り上がりで挿入されるムービーをそのまま繋ぎあわせたような印象を与えてしまうのだ。そういう構成が災いして、テンポも少々乱れがちになっており、場面場面は迫力があり面白い、と思えるのに、次第に倦んでくる。
また、短い尺ながら終盤でどんでん返しや意外な真相を立て続けに繰り出してくる意欲は評価出来るものの、せっかくのいいアイディアが、伏線が足りなかったり、細部への配慮が行き届いていないために、充分な効果を上げていないのが惜しまれる。特に顕著なのは、ジェニスの親友ミリーナを巡るドラマに仕掛けられたサプライズだ。この趣向は、もっと早い時点から何らかの伏線や、会話などに工夫を凝らしていれば、もっと最後の感動を深いものに出来たはずである。あまりにアイディアや驚きに拘りすぎたせいで、こちらも疎かにするつもりはなかったはずの感動がいささかわりを食った、という印象を受けた。他方で仕掛けを無数に注ぎ込みすぎて、それぞれの整合性や説得力が失われたところがあるのも指摘せねばなるまい。
但しそれでも、隅々にまで冒険を組み込み、さながら古き良き冒険アニメのムードを再現していることは賞賛に値する。秘密だらけの城に無人島、無数の罠に消えた王国、などオーソドックスながら心惹かれる要素がこれでもかとぶち込まれ、最後には巨大なギミックを用いたアクションシーンも堪能できる。原作ゲームでは4作目で初登場したものの、ルーク少年と立ち位置が被っていたためにいまいち存在意義が充分に示せなかったレミも、別働隊から終盤はアクション担当として気を吐いており、彼女とグロスター警部の活躍は映画ならではの愉しさに寄与している。
実は個人的に映画版でいちばん心配していた、“ナゾトキ”の組み込み方も、きちんと映画ならではの見せ方を考えているのに好感が持てる。複数の人間に対して同時に同じ“ナゾトキ”を仕掛ける訳を推理の材料として用いたり、ある道具を用いた“ナゾトキ”の場面では、タッチペンなどを使っても決して表現できない解決方法を示したりしている。かつて『頭の体操』シリーズで一世を風靡した多湖輝氏が監修しているだけあって、表現媒体が変わればクイズの答え方も変わる、活かし方も違ってくる、という点を弁えているのはさすがだ。
しかしこの映画で何よりも評価すべきは、声優・水樹奈々の持つポテンシャルをかなり引き出していることかも知れない。2009年度は声優として初めてオリコンアルバムチャート1位を記録し、紅白歌合戦への出場を決めるなど歌手としてもその存在感を知らしめている彼女だが、本篇ではポップスともロック調とも異なる、オペラ風の壮大な歌唱で魅せ、演技の面でもかなり複雑な趣向に随所で挑んでいる。作品の点数は多いが、声優それぞれにあてがわれる役柄や求められるものが似通いがちなテレビアニメではなかなか出逢えない種類の演技であり、なかなか貴重な作品になっていると思う。
謎や冒険を多く詰め込んだ意欲に対して、それをドラマとして昇華するための工夫がやや配慮不足になって損をしているものの、全体としては極めて優秀な、子供に限らず大人でもかなり楽しめる作品に仕上がっている。
――ただ、どうしても残念でならないことがひとつある。本篇がゲーム旧作からのファンに対するサービスという意味でも、ゲームを知らなかった客層に対するアプローチという意味でも、中途半端になってしまっている点だ。
ゲーム版は第3作で最初のシリーズが一区切りし、最新作『レイトン教授と魔神の笛』ではレイトン教授とルーク少年の出逢いのエピソード、つまり第1作以前の物語を採り上げることで新たに仕切り直している。2作目から登場するアロマという少女が登場しなくなった代わりにレミが加わり、警察関係者もチェルミー警部からグロスター警部という新しいキャラクターが導入されているが、この映画版ではアロマ、チェルミー警部がプロローグ部分でちらっと顔を見せている。
ファンサービスとしては正しいのだが、あまりに短すぎてオマケという印象を禁じ得ず、またあのくだりをプロローグとして用意してしまったことで、予備知識なしで劇場を訪れてしまった観客を戸惑わせる危険を背負い込んでいるのは少々いただけない。物語の途中やエピローグ部分で、空気をゲームのほうに繋げたり関連性を仄めかすためにカメオ出演させるのならまだしも、プロローグで、しかもあんなに短く登場させたのでは、原作についての知識がなければ「あれには何の意味があった?」という疑問を抱かせることになるだろうし、原作ファンにとっては期待を裏切られたという印象を齎しかねない。
なまじ謎の構成や雰囲気作りに、原作への配慮が窺われるだけに、ゲームとの関連づけのところで手際の悪さを示しているのがとにかく勿体ない。原作のほうは確実に次がリリースされるようだが、もし劇場版にも次回作があるのならば、そのときはもう少し慎重な配慮が欲しい。
関連作品:
『アフタースクール』
『東京少年』
コメント
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