『風の谷のナウシカ』

『風の谷のナウシカ』予告篇映像より引用。
『風の谷のナウシカ』予告篇映像より引用。

英題:“Nausicaä of the Valley of the Wind” / 原作、監督&脚本:宮崎駿 / 製作:徳間康快、近藤道生 / プロデューサー:高畑勲 / 作画監督:小松原一男 / 撮影監督:白神孝始 / 美術監督:中村光毅 / 特殊効果:水田信子 / 色彩設計:保田道世 / 編集:木田伴子、金子尚樹、酒井正次 / 音楽:久石譲 / 声の出演:島本須美、松田洋治、榊原良子、納谷悟朗、京田尚子、家弓家正、辻村真人、永井一郎、宮内幸平、八奈見乗児、矢田稔、冨永みーな、麦人、坪井章子、吉田理保子、坂本千夏、TARAKO、鮎原久子、菅谷政子、貴家堂子、水島鐡夫、野村信次、大塚芳忠、中村武己、島田敏、太田貴子 / アニメーション制作:トップクラフト / 初公開時配給:東映 / 映像ソフト発売元:Walt Disney Japan
1984年日本作品 / 上映時間:1時間56分
1984年3月11日日本公開
2010年7月14日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
初見時期不明(テレビ放映時?)
TOHOシネマズ日比谷にて再鑑賞(2020/06/27)


[粗筋]
“火の7日間”により、文明が焼き払われて1000年、地上は腐海に覆われ、わずかに生き残った人類は、腐海の毒が及ばない限られた土地に分散し、辛うじて命を繋いでいる。
 風の谷の民は、海から吹く風と豊かな緑に守られ、戦乱に明け暮れる強国とは一線を画す穏やかな暮らしを送っている。ひとびとは滅多なことでは腐海に近づかないが、長ジル(辻村真人)の娘ナウシカ(島本須美)は変わり者で、危険な腐海にマスクをつけて日々飛び回っていた。
 ある嵐の晩、風の谷の平穏は轟音とともに破られた。軍事大国トルメキアの輸送船が、風の谷に墜落した、救助に向かったナウシカだったが、瓦礫から引っ張り出した少女は彼女の眼前で息を引き取った。ペジテのラステル(冨永みーな)と名乗った少女はいまわの際に「積み荷を燃やして」と懇願する。激しい爆発で積み荷は吹き飛んだ、とナウシカは慰めたが、しかし墜落現場には不気味な塊が燃えずに残ってきた。
 墜落によって飛び散った腐海の胞子の後始末に追われる風の谷に、皇女クシャナ(榊原良子)の率いるトルメキアの部隊が襲来する。父を殺害されたナウシカはいちどは逆上するが、折しも風の谷に滞在していた漂泊の剣士ユパ(納谷悟朗)の仲裁で冷静さを取り戻し、これ以上の犠牲を出さないため、トルメキアに従うよう住民たちに諭す。
 クシャナたちの狙いは積み荷だった。それはかつて“火の7日間”に世界を焦土と化した巨神兵の生き残りであり、ペジテから奪ったトルメキアが自国に輸送する途中だったという。トルメキアは休眠状態の巨神兵を再生させ、その凄まじい火力で腐海を焼き払い、ふたたび人類が万物の長となることを目論んでいた。しかし、輸送船ですら墜落させた事実を重く見たクシャナは、風の谷で巨神兵の培養を行うことを決める。その報告のために、クシャナはナウシカに数名を連れて帰還する部隊に同行するよう命じた。
 だがその移動の最中、トルメキアの飛行艇群はペジテのガンシップに襲撃される。激しい交戦の末に、ナウシカたちの乗る飛行艇も炎上するが、接収されたガンシップを駆使し、墜落直前に辛うじて難を逃れる。
 不時着した先は、毒素の濃い腐海の深部だった。ナウシカは、同時に墜落したペジテのパイロットが蟲たちに追われていることに気づくと、他の者たちを先に退避させ、自ら救出へと赴いた――


[感想]
 映画に限らず、多くのフィクションに接してきた。だが、こんなにも“強い”ヒロインは滅多にない。
 世界は、マスクなしでは生きられない腐海に覆われ、人間は片隅に追いやられている。代わりに世界の覇者となったのは、巨大化した異形の蟲たちだ。生き残った人類も限られた土地や資産を巡って争いを続け、果てには、再び世界を力で制さんと禁断の存在に手をつけようとさえする。それを快く思わないひとびとは、腐海を忌避するのみだ。
 そんな時代に、ナウシカは日々腐海に赴き、狂った“自然”と戯れる。ひとびとが怖れる蟲たちと対峙し、瘴気を撒き散らす腐海の植物さえ慈しむ。耐えず腐海に遊び、蟲や植物を観察した彼女は、世界中を旅するユパでさえ発見できなかった事実にすら辿り着いてしまう。これだけでも尊敬に値する。
 これだけなら偏屈な学究肌とも取れるが、平素の振る舞いはお転婆だが人懐っこい少女だ。しかしその一方で、組織を束ねる者の娘=“姫君”としての責任感、指導力も見せる。輸送艇の墜落の際にはいち早く動き住民の避難と救出に努め、トルメキア軍に制圧され一触即発のなか、自身のひと声で風の谷の民を鎮める。更には、移動中に襲撃され滑空状態となったグライダーに搭乗する仲間たちを冷静にするために、瘴気の濃厚な腐海でマスクを取って説得し、彼らを励ますために微笑んでさえみせる。序盤からこれほど明確なリーダーシップを見せつけるヒロインはなかなかいない。
 かてて加えて、その圧倒的な行動力と、それを可能にする身体能力の高さだ。墜落のくだりで率先して救援に向かうこともそうだが、メーヴェを駆る前後の動きがあまりに鮮やかだ。平時でも、メーヴェを頭上に掲げた状態で疾走、浮力を確保すると宙返りして機上に俯せになる、というアクションをしばしば見せるが、冷静に考えればこれが既に尋常な技ではない。空中でガンシップから、繋がれたメーヴェに移るために部品を腕力で引き剥がして、それをロープに引っかけて滑走する、なんてのも、アニメだから、と見過ごしてしまうが、行動力も度胸もただ事ではない。
 少し行きすぎるほど理想的な人物だと、一般的な冒険ドラマのセオリーからすると、これ以上の成長が見込めず、展開の面で物足りなくなりかねない。しかしそんな彼女であっても、世界の流れを変える力はない。強国の襲来に、住民と共に忍従の道を選び、ひとびとの欲や野心によって壊される街や奪われる命に胸を痛める。ナウシカが人品共に優れているからこそ、ひとびとの心も自然も同様に抗いがたいものだ、という現実をまざまざと突きつけられるのだ。
 しかし、ナウシカが理想的なヒロインであり、彼女が自らの分を遥かに超える現実の脅威に晒されるからこそ、あまりにも有名なクライマックスが成立する。もはや誰にも破滅が止められない事態にあってもなお、自らの身体をなげうってでも希望に託すような真似は、まさしくナウシカにしか出来ない。そして、そんな彼女だからこそ、観る者はあの終幕に訪れる“奇跡”に胸打たれる。何もしない者、それだけの力がない者にあの奇跡が訪れても「出来すぎだ」という印象を受けるだろうが、ナウシカにならそれだけの価値がある、と誰しもが認めるはずだ。
 制作されて35年を経て、アニメーションの技術は飛躍的に進歩した。セル全盛の時代に制作された本篇は、動画の彩色に制限があるし、CGを活用した繊細な処理もなかったので、いまの目で観るとぎこちなさも随所に認められる。しかし、特殊な素材を使ったという王蟲の動きを筆頭に、随所に工夫が施されていて、何度観ても発見がある。何より、アニメーションだからこそ、という映像的な見せ場に富み、その魅力は未だ色褪せない。
 実は私はこの作品、映画館で観るのは初めてだった。本篇に嵌まった従姉に存在を教えられ、『天空の城ラピュタ』以降はすべての劇場用作品を映画館で鑑賞しているが、本篇は自宅のテレビでしか観たことがなかった。だが、やはり劇場用作品は映画館でこそ観るべきだ、と改めて痛感している。本篇もまた、映画館で観るに相応しい力を注がれた傑作だった。


関連作品:
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