『マッハ!弐』

『マッハ!弐』

原題:“Ong Bak 2” / 監督・原案:トニー・ジャーパンナー・リットグライ / 脚本、プロダクション・デザイン・スーパーヴァイザー:エック・イエムチーン / 製作:プラッチャヤー・ピンゲーオパンナー・リットグライ / 製作総指揮:ソムサック・デーチャラタナプラスート / 武術指導、アクション監督:トニー・ジャー / 撮影監督:ナタウット・キティクン / プロダクション・デザイナー:スパーシット・プッタカム / 編集:マルッ・シラチャルン / 衣装:チャッチャイ・チャイヨン / 特殊効果:シュールリアル・スタジオ / 音楽:バナナ・レコード / 音響デザイン:バニラ・スカイ / 出演:トニー・ジャー、ソーラポン・チャートリー、サランユー・ウォングガチャイ、サンスティク・プロムシリ、パッタマー・パーントォーング、プリムター・デットウドム、ペットターイ・ウォンカムラオ、スパコン・ギッスワーン、ダン・チューポン、ナットダナイ・コントォーング、パリンヤーポング・クラムゲェウ / アイヤラ・フィルム製作 / 配給:KLOCKWORX

2008年タイ作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:風間綾平 / PG12

2010年1月9日日本公開

公式サイト : http://www.klockworx.com/movies/movie_82.html

シネマスクエアとうきゅうにて初見(2010/01/09)



[粗筋]

 西暦1400年代、現在のタイ王国一帯は、200年近いスコータイ王国の手から、徐々にアユタヤ王朝に奪われていく過程にあった。シーハデーチョ侯(サンスティク・プロムシリ)の支配する東方の小国も例外ではなく、危機を覚えた侯は幼い我が子ティン(ナットダナイ・コントォーング)を舞踏の師匠のもとに預ける。

 だがシーハデーチョ候はラーチャセーナ侯(サランユー・ウォングガチャイ)の裏切りにより、妻プラ(パッタマー・パーントォーング)とともに殺害され、ティンは単身逃げ延びた。

 不運なことに、雨の中震えていたティンを発見したのは、奴隷商人であった。奴隷市に運び込まれたティンは、檻から連れ出される際に激しく抵抗して商人たちの怒りを買い、余興のために用意されていたワニの井戸に放り込まれてしまう。

 この絶体絶命の窮地に、彼の命を救ったのは、“ガルーダの翼峰”という山賊であった。瞬く間に奴隷商人を制圧したのち、山賊の頭領チューナン(ソーラポン・チャートリー)は井戸の中のティンにナイフを投げ渡し、「己の命は己で救え」と告げる。その言葉に奮起し、ティンは見事ワニを倒し、自らの活路を開いた。

 ティンの生命力に魅せられたチューナンは彼をねぐらに連れ帰り、山賊たちに加わる多くの武術の達人たちによる修行を施す。ムエタイ、空手、中国拳法、居合――

 十数年の時を経て、成長したティン(トニー・ジャー)は今や、山賊に連なる達人たちをも圧倒するほどの使い手になっていた。我が子同然に彼を育ててきたチューナンは、自らの跡目を継がせようと考えるほどになっていたが、ティンにはその前に済ませるべき仕事があった。育ての父に一時の別れを告げ、ティンは旅立つ――本当の父母を殺した、ラーチャセーナ侯を果たすために……

[感想]

 スタントとしてタイの映画界を中心に活躍し、初主演作『マッハ!!!!!!!!』でその高い身体能力を一挙に全世界へと知らしめたトニー・ジャーが、初めて自ら監督した作品である。『マッハ!弐』とあるが、内容的に『マッハ!!!!!!!!』と繋がるところはほとんどないので、前作を知らなくても問題はない。

 ただ、『トム・ヤム・クン!』以来、彼の新作を待ちわびて、たまに届く情報に耳を澄ませていたものには、正直に言って不安だらけの作品であった。身体能力が高く、スタントマンとしては超一級の才能の持ち主であることは疑いないが、演技のほうはお世辞にも達者と言えない。無論演技力が演出力そのもの、ということではないが、どうしても不安要素になってしまう。加えて、製作中にトニー・ジャーが現場を放棄して失踪するというトラブルまで聞こえくるに至っては、どうなることか、とヒヤヒヤしていた。最終的に、トニー・ジャーの師匠であり、『七人のマッハ!!!!!!!』などの監督経験もあるパンナー・リットグライが共同監督に名前を連ねることでどうにか完成に漕ぎつけたようだが、不安は拭えなかった。

 それでも旧作で彼のアクションにたっぷりと魅せられた者としては、公開を待ち望まずにはいられなかったし、だからこそ封切りと同時に劇場に馳せ参じたわけだが――残念ながら、不安はほぼ的中してしまった。

 途中までは決して悪くない。身体能力を駆使したアクションをふんだんに盛り込んでいるのはいいとしても、メリハリがついていないために『マッハ!!!!!!!!』や『トム・ヤム・クン!』のように記憶に残る場面が少ない、という構成面での拙さは露呈しているが、動き自体の見せ方は旧作よりも洗練された印象を受ける。それを中盤あたりからほぼ途切れることなく繋いでいるので、アクションの密度自体は高く満足度は高い。タイの歴史をモチーフにした背景は一瞬晦渋そうに見えるが、基本構造は非常にシンプルなので、アクションを鑑賞するための妨げになっていないのも好感触だ。

 しかし問題は中盤以降である。いくらシンプルにまとめたと言っても過程を端折りすぎて安易に見える行動が続き、単体であれば迫力充分のアクションも、あまりにメリハリなく組み立てているために倦んでくる。

 最大の失敗は、結末にカタルシスがないことだ。あの結末に納得がいく人間は、さすがに少数派と言わざるを得ない。仮にあの結末を許容できるとすれば、それはもっと複雑な心理描写、交錯する人間関係が豊饒なドラマを形成した場合だ。本篇のように、意識してアクションをシンプルに見せようとした作品であの締め括りは、あまりに観客の欲求を軽視しすぎている。

 ドラマとして眺めたとき、伏線があまり機能していない、そもそもどんな意味を籠めて組み込んだのか解りにくい場面が多いのも難点だ。ティンが幼少時に出逢った少女など、何のために登場したのか解らないし、そもそもあれほど多彩な格闘技を学んだわりには、それがドラマにおいてもそうだが、格闘シーンの多彩さにも貢献していないのは勿体ない。最終的に、それらを融合したトニー・ジャーなりの格闘技に結びついた、ということを示したいにしても、段階が必要だろう。その過程を描いていれば、カタルシスに結びついたはずなのに。

 ひどく穿った見方であることを承知で書くと、恐らく本篇は、時代背景や主人公の行動原理をごく大雑把に固めただけで撮影を始め、あとから構成しようと考えていたのではなかったか。だがうまく整理が出来そうもなくなったためにトニー・ジャーがいちど逃げだし、結果として彼の師匠が、残った素材や新しい場面を付け足して、どうにか体裁を整えたのではないか、と思える。そういう風に想像して、やっと納得がいくような支離滅裂ぶりである。

 と、否定的な見解ばかりを並べたが、まるっきりどうしようもない作品だ、とまでは言わない。統一され、丁寧に作り込まれた背景のうえで繰り広げられるアクションの描き方は、古い時代を扱っているにも拘わらず、トニー・ジャーが出演したこれまでの作品よりも洗練されている。また、全体にメリハリに乏しいのは残念だが、アクション・シーンの撮し方自体も旧作よりスタイリッシュだ。プラッチャヤー・ピンゲーオの演出は同じアクションを繰り返すことで、場面の印象を強調することには成功しているが、ややテンポを損ない、少々野暮ったく感じさせる欠点があった。それを知ってか知らずか、ごく僅かしか用いていないので、若干ながらテンポは改善している。

 演技力云々については当人も自覚があったのか、主人公ティンについてはあまり台詞を多用せず、表情で見せることを中心にしたお陰であまり気にならない。音楽を多用しており、序盤はそのせいでいささかイメージ・ヴィデオめいてしまっているものの、そのために一部の悲劇性と昂揚感が巧く表現できている点も注目すべきだろう。

 ところどころ見るべきところはあるし、少なくともトニー・ジャーのアクションにのみ焦点を絞るなら、クライマックス手前ぐらいまでは決して不満を覚えないだろう。ただ、アクション映画にはカタルシスが必要だ、と多少なりとも考えている人には、正直お薦めできない仕上がりである。それなら本篇を観るよりは、『トム・ヤム・クン!』を繰り返し鑑賞して、次作に期待する方がずっとマシだと思う。

関連作品:

マッハ!!!!!!!!

七人のマッハ!!!!!!!

トム・ヤム・クン!

チョコレート・ファイター

コメント

  1. より:

    こんにちは。
    2て聞いてたから、話がつながっているのかと思いきや。全く関係ないのには驚きました。逆に新鮮かもしれないけど、
    ただ、やっぱりタイ映画のところどころに意味がわからないシーンも…何を伝えたかったんだろ?もう一回見たらわかるかな??って感じでした。
    http://utun.jp/NwP

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