監督、キャラクターデザイン、編集、flash制作、録音、声の出演:FROGMAN / 友情監督:山崎貴 / 音楽:manzo / 主題歌:スーザン・ボイル『夢やぶれて I Dreamed A Dream』(Sony Music Intl. Japan) / 声の出演:川村ゆきえ、相沢舞、板東英二、もう中学生、堂真理子、坂本頼光 / 制作スタジオ:蛙男商会/DLE / 配給:DLE Inc.
2009年日本作品 / 上映時間:1時間44分
2010年1月16日日本公開
公式サイト : http://鷹の爪.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2010/01/16) ※初日舞台挨拶つき上映
[粗筋] ※特記ないものはほとんどFROGMANが声を担当。
古墳ギャルのコフィー コフンデレラ
前方後円墳の少女コフィー(相沢舞)は父親とふたり静かに暮らしていたが、父が新しい妻パスカルを迎えた途端に急逝したことで、生活は一変する。襤褸を着せられ、雑用ばかりを任せられ、気晴らしと言えば義理の姉ダニエルの車のガソリンに砂糖を混入することぐらい。そんなある日、国の王子様主催の舞踏会が催されることになり、義理の母と姉たちは王子に見初められる好機とばかり意気揚々と赴くが、コフィーはいつも通りに留守番。そんな彼女のもとに、魔法の落武者・桶狭間が現れ、美しいドレスを貸してくれる……
秘密結社鷹の爪 THE MOVIE 3 〜http://鷹の爪.jpは永遠に〜
この日、国連本部にて、アメリカのオババ大統領が驚くべき発表を行った。兵器に依存しない世界平和を説く大統領は全世界に向けてアメリカの武装解除を明言、各国にも賛同を求めたのである。だが当然のように対立国は、この好機にそれぞれの大義名分を振りかざして軍事的な動きを活発化させる。武装解除の提案が、世界に不穏な空気をもたらしていた……。
そんななか、我らが鷹の爪団はというと――総出で里帰りをしていた。栃木から本部へ戻ってきた総統は、入れ違いに石川県へ男漁りのツアーに出かけていくところだった大家さんから、「本部にずっと灯りが点いていた」と言われて困惑する。完全に出払っているはずなのに、いったい誰が?
島根に里帰りするはずが、何故か島根が行方不明になっていたため鳥取を満喫して戻った吉田君とフィリップとともに本部に向かうと、そこにいたのは――デラックスファイター。この馬鹿、総統たちのいないあいだに本部に潜入して好き放題やっていたらしい。
何とか追い返して整頓をしていた総統たちは、まだ戻らないレオナルド博士の部屋が、すっかりもぬけの空になっていることに気づく。ただの里帰りではなかったのか? このまま博士が戻らないと、彼にてきとーな家電を作ってもらって家賃を工面する、という計画が台無しになる。そこでレオナルド博士の行方を捜すべく、履歴書を当たることに。
その頃レオナルド博士はアメリカにいた。里帰りのあと、旧知のジュリエット(川村ゆきえ)という女性を訪ねた博士は、彼女の歌手活動を支援しているというウォルターという青年に引き合わされる。博士が鷹の爪団に所属する優れた科学者であることを何故か知っているウォルターは、彼にひとつの仕事を依頼する。引き受けたレオナルド博士は、ウォルター、ジュリエットと共に秘密の研究所へ赴いた……
[感想]
1年半ほど前に、本篇の前作『秘密結社鷹の爪 THE MOVIE II 〜私を愛した黒烏龍茶〜』が公開された際、西新井で開催されたトークイベント付の上映にて、監督のFROGMANは「来年にアレの第2作が公開される可能性があることから、『レオナルド・ダ・ヴィンチ・コード』になるかも」といったことを語っていた。如何せん、こういう舞台ではその場の勢いで口走ってしまう人も多く、話半分に聞いていたのだが、本篇を観終わって、ふと当時の記述を思い出して愕然とした。……言った通りの内容だったのだ。
そもそもは個人でflashにて制作したアニメをインターネット上で発信していたのが、深夜アニメという形で電波に乗り、2007年にはとうとう劇場版を発表するまでに至ったクリエーター・FROGMANの代表的シリーズ『秘密結社鷹の爪』の、1年半ぶりとなる劇場版第3作である。基本的にこの監督の作品はあまり気負わずのんびり楽しめるのが美点であるが、その一方で非常にサービス精神が旺盛であり、シリーズを通して様々な仕掛けが用意されているので、続けて観ると意外な面白さを味わうことも出来る。舞台挨拶で口にした約束を守る、というのもそうした監督一流のサービス精神の顕れ、と言っていいだろう。
ただ今回の作品は、さすがに全体がいささか間延びしている印象を禁じ得なかった。細かなギャグを積み重ねていくこのシリーズの作風はもともと長篇向きではなく、旧2作では同時上映の『古墳ギャルのコフィー』に多めの尺を割くなどの工夫で1時間半ほど必要な長篇映画の尺を埋めていたが、今回コフィーは10分程度の尺しかなく、『秘密結社鷹の爪』だけでも長篇映画に相当するヴォリュームを補っている。にも拘わらず、全体のタッチがいままで通りなので、中盤どうしても間延びした印象を与えているようだ。
だがそれでも、細かなくすぐりや笑いどころは欠かしていないので、注意を怠らない限り随所で面白さを見つけることが出来る。基本的に作画量は最小限だというのはファンなら先刻承知の通りだが、向きを変えるところは絵を反転させるだけ、という紙人形アニメでももっと丁寧にやるぞという仕様のために、左右対称で描かれていないゲストキャラが若干ひどいことになっていたり、突然潜水艦で逃走する場面、艦が沈むときにどこぞの大ヒットアニメの魚もどきが一瞬画面を掠めたり、と細かな遊びがちりばめられている。実は製作費の半分近くが投じられているという、山崎貴監督と白組による大迫力の3DCGと、FROGMANのシンプルなflashアニメとのコントラストも実に可笑しい。
そして、一見意味のないような表現やモチーフが突如として存在感を増すクライマックスの見せ方は相変わらず異様なほど巧い。事件の首謀者が誰なのか、といった根本の謎は、多少フィクション慣れした人ならすぐに読めるものの、それ以外の伏線はたぶん読めない。というか読みようがない。シリーズのファンであったという山恕W監督を起用したことまで含めて徹底利用したこの破天荒なオチは、「才能の無駄遣い」という表現が褒め言葉になるほど見事だ。観終わった瞬間は「何じゃそりゃあああ」と心の中で叫んでしまうだろうが、あとになるとものすごいものを観た、という気分になる……かも知れない。保証はしない。
実は最初に提示した大きなネタと、それに対する反応がなおざりになっているので、よくよく考えるとほとんど解決になっていない、というけっこう根本的な問題も孕んでいるのだが、まあこの最後の成り行きを目の当たりにしたら、周囲も馬鹿馬鹿しくなって、一切合切有耶無耶にしてくれそうな気もする。グダグダぶり、無茶苦茶ぶりが堂に入っていて、もはや貫禄の域に踏み込んでいる感さえあるのだ。
前述の通り、豊富なサービス精神ゆえに、シリーズ通しての仕掛けが多く、たとえば本篇の公開に先駆けてテレビ放映された『鷹の爪カウントダウン』では、何故か大家さんが妊娠した状態で登場するが、その理由が本篇で明かされていたりする(つまり本篇は、テレビシリーズ最新作の前日譚にあたる、ということでもある)。フィリップくんの不気味な活躍ぶりについてはもっと前の作品での出来事を踏まえているし、登場人物の言動が前作を反復していることもしばしばだ。ゆえに、順番通りでなくとも、ひととおりすべての作品を追って鑑賞するのがいちばん楽しむ方法だが、仮に本篇だけ観たとしても、細かなネタと、あっと驚く結末にニヤニヤさせられるだろう。シンプルな描線や独特のセンスが受け付けられないとそれまでだが、抵抗がなければ確実に愉しい作品である。
映画館で観るからこそ趣のある仕掛けも施してあるため、気になる方はとりあえず劇場で観るのが最善だろう。相性が気になる方は、昔のテレビシリーズがけっこう頻繁に動画サイトで流れているので、そちらを1話だけでも眺めて、面白かったなら是非とも劇場に足を運んでいただきたい。
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