原題:“Paranormal Activity” / 監督・脚本・編集・キャスティング:オーレン・ペリ / 特殊メイク:クリスタル・カートライト / 出演:ケイティ・フェザーストーン、ミカ・スロート、マーク・フレドリクス、アンバー・アームストロング、アシュリー・パーマー / ブラムハウス・プロダクションズ製作 / 配給:Presidio
2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間26分 / 日本語字幕:川又勝利
2010年1月30日日本公開
公式サイト : http://www.paranormal-activity.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2010/01/22) ※Twitterつぶやき試写会
[粗筋]
2006年9月、アメリカ・カリフォルニア州サンディエゴ。ケイティ・フェザーストーンの恋人ミカ・スロートが、月の収入の半分をはたいてビデオカメラを購入してきた。目的は、ふたりの暮らす家で度重なる、“超常現象”の映像を記録するため。
ケイティは8歳になった頃から、身辺で繰り返し奇妙な出来事に遭遇していた。家のどこかから鳴り響く不可解な物音、周囲に現れる人の気配、そして黒い影。家はいちど火災を起こし、彼女の家族はすべてを失ったが、“超常現象”だけはケイティが持ち去り、それは現在まで続いていた――何者かは、彼女につきまとっているのである。
たとえそれが幽霊にせよ、長年つきまとうストーカーだったにせよ、ふたりが眠っているあいだ、固定カメラを設置することで、悪さをする何かの姿を捉えることが出来る。不安な表情のケイティをよそに、ミカは恋人を守りたいという想いと、“超常現象”への好奇心で、興奮状態だった。
だが、そんなミカも、最初の夜の録画映像を確かめて、興奮と共に戦慄を禁じ得なかった。そこには確かに、異様な出来事が記録されていた――
[感想]
登場人物そのものの視点で事件を綴り、その恐怖や衝撃を観客に伝える手法は、最近すっかり定着した感がある。普及のそもそもの端緒となった『ブレアウィッチ・プロジェクト』がそうであったように、それが主にホラー映画のジャンルで持てはやされているのも、第三者視点では伝わりきらない恐怖を描く上でも、当事者の感覚をダイレクトに伝える上でも有効だからだろう。
しかしこの手法が普及したもうひとつの大きな理由は、その気になれば極めて低予算、かつ最小限の技術で撮影できるからだ。むろん、徹底しようと思えば『クローバーフィールド/HAKAISHA』のように非常に複雑な製作過程を要求されるが、設定によっては最小限の設備投資で済んでしまう。――まさにその典型が本篇だ。
舞台は、アメリカでなら決して珍しくない中規模の一軒家。登場人物はメインが恋人同士の男女ふたりだけ、脇役も極端に限られている。舞台の家自体、監督の自宅であるという話だから、元手はかかっていないに等しい。家の中、しかも眠っているあいだの出来事を撮影しよう、という作中の明白な意図があるので、これ以上必要とするものがないし、ストーリー展開の上でも外に出る必要をほとんど織りこんでいない。低予算だからそうなったのか、構想通りに撮った結果最小限の予算で済んだのか、恐らくは両方のバランスを保った結果だろうが、見事な省資源化だ。
しかも本篇は、そうして舞台も登場人物も抑えこんだことが、却って作品世界のリアリティを補強する役にも立っている。手の込んだ音響設備が用意せず、声の反響をそのまま残し、生の生活音を収めることで、観客にも馴染みのある空間を意識させる。普通に生活している家そのままなので、家具調度の状態にも生活感が滲んでいるので、不自然さがほとんどない。セットを組んで作った舞台のような構築美はないが、観客にそこで起きる出来事の異常さを実感させるにはこの上なく相応しい舞台が整えられているのだ。
怪奇現象の匙加減の巧さも絶妙なバランスを保っている。視覚的に気味の悪いものを直接登場させず、また怪奇現象自体を決して大量に注ぎ込むわけでもなく、大半が足音や気配、ある動きの影響そのものを描く間接的な趣向に限られ、数も絞られている。そのお陰で、日常部分の描写がメリハリになる一方で、いざ現象が起きたときのインパクトを増している。
単純だが、舞台やシチュエーションを巧く活かした現象が多いのも特筆すべき点だ。作中、特に不気味な印象をもたらす出来事など、ビデオカメラ右下のカウンターがあることでその異様さがいっそう克明になっている。
実のところ、ある程度のホラー映画愛好家なら、個々の現象についてはともかく、大枠については予想することが可能だし、結末についても有り体だ、という印象を受けるだろう。ただ、最小限の予算のなかで用意されたものを最大限駆使して作りあげた作品世界に無駄は一切なく、緻密な作りには唸らされるはずだ。ストレートと言える結末も、締め括りまでリアリティに徹することなく、ひとまず落ちる場所を用意したことで、観客に放り出されたような感覚を抱かせることなく、それでいて恐怖が持続しているような、不気味な余韻を残すことに成功している。
エンドロールの構成に至るまで、本篇の作りにはほとんど隙がない。大手制作会社がリメイク権を取得しながら「これ以上のものを作ることは出来ない」と断念したのも道理で、この極端に絞られた予算と舞台設定が合致しているからこそ成立した作品なのだ。予算を増やし舞台を広げたところで同じ恐怖を演出することは出来ない。奇跡的なバランスのもとに完成された傑作である。
なお、リメイクこそ制作されないことが決まったようだが、imdbで本篇の監督オーレン・ペリの作品リストを観ると、2012年完成予定の作品として、“Paranormal Activity 2”というものが挙がっている。有料会員でないと閲覧できない領域に情報が掲載されているため、詳細はまったく解らないが、多大な期待と、それに匹敵する大いなる不安を抱きつつ、公開を楽しみにしたい――本篇が奇跡なのか、紛う方なき監督の才能によるものなのか、答はきっとこの続篇が示してくれるだろう――ちゃんと監督が再登板しているならば、だが。
関連作品:
『食人族』
『REC/レック』
『REC/レック2』
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