『パーフェクト・ゲッタウェイ』

『パーフェクト・ゲッタウェイ』

原題:“A Perfect Getaway” / 監督・脚本:デヴィッド・トゥーヒー / 製作:ライアン・カヴァノー、マーク・キャントン、タッカー・トゥーリー、ロビー・ブレナー / 製作総指揮:ロバート・ベルナッキ / 撮影監督:マーク・プラマー / プロダクション・デザイナー:ジョセフ・ネメック三世 / 編集:トレイシー・アダムス / 衣装:ラウラ・ゴールドスミス / キャスティング:アン・マッカーシー、ジェイ・スカリー、フレディ・ルイス / 音楽:ボリス・エルキス / 出演:ミラ・ジョヴォヴィッチティモシー・オリファント、キエレ・サンチェス、スティーヴ・ザーンマーリー・シェルトンクリス・ヘムズワース / リラティヴィティ・メディア製作 / 配給:Presidio

2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:神代知子 / R-15+

2010年1月23日日本公開

公式サイト : http://www.perfect-getaway.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2010/01/23)



[粗筋]

 ハワイ諸島の北部に位置するカウアイ島。危険と背中合わせのトレッキングを1日進めば、“神が作った袋小路”、美しいカララウ・ビーチが待っている。

 同時期にカララウ・ビーチを目指す3組のカップルが存在した。新婚夫婦のクリフ(スティーヴ・ザーン)とシドニー(ミラ・ジョヴォヴィッチ)、結婚には至っていないが長い付き合いの恋人ニック(ティモシー・オリファント)とジーナ(キエレ・サンチェス)、つい先日勢いで入籍したばかりのケイル(クリス・ヘムズワース)とクレオ(マーリー・シェルトン)。

 だがこのとき、不穏なニュースが、通信の途切れがちなこの島に舞い込んだ。ホノルルで新婚のカップルを殺害した男女グループが、カウアイ島に潜伏した、というのである。

 犯人はこの3組の中にいるのか、それとも別の何者なのか。彼らが口にする言葉を、どこまで信じていいのか? 腹を探り合いながら、3組は密林を進んでいく……

[感想]

 粗筋も書きにくいが感想も書きにくい。ネタばらし前提で書き進めたいくらいだが、何とか伏せたままで語ってみよう。

 監督のデヴィッド・トゥーヒーはこれまで、ジャンル映画の枠内で何らかの驚きや、突出したアイディアを盛り込んだ作品を、自らの脚本で撮ることに拘っているようだ。SF映画のシチュエーションで“闇”の恐怖を掘り下げた『ピッチブラック』に、戦争物と見せかけて傑出したホラー映画であった『ビロウ』と、決して大規模ではなく、少々通好みではあるが、鋭いスパイスを効かせた佳品を繰り出している。『ピッチブラック』のメイン・キャラクターの後日談を描いた『リディック』にしても、世界観の掘り下げと結末のインパクトは強烈だった――ただ、作品の規模とアイディアの方向性とが観客の求めるものと合致しなかったために、興収的には振るわなかった嫌味がある。

 久々となる本篇は、これらの作品以上に趣向の深化が著しい。興行的にいまいちだった『リディック』の怨みを晴らそうとでもいうかのように、恐ろしいほど緊密な作りなのだ。

 だが、初見ではあまりピンと来ない、趣向は解ったがいまいち納得できない、という感想を抱く人も少なくないだろう。仕掛けがあまりに込み入っている上、最初の印象と終盤でもたらされるカタルシスの方向性が異なっているせいだ。多くの描写が極めてリスキーに用いられており、それらを引き合いに出して、悪い意味で騙された、と評する人があるかも知れない。

 しかし、あとからその描写をもういちど検討してみると、極めてあざといが、実に趣のある台詞回し、表情の作り方をしているのに気づかされるはずだ。何処がどう、と言及しづらいのが歯痒いが、恐らく結末を知ったあとで鑑賞すれば、それぞれの台詞、表情がまったく別の様相を帯びてくる。これこそ、本篇の最も魅力的な部分だろう。単純に受け止めていた描写に、二重の意味合いがある、と気づいたときのカタルシスは、直線的なサスペンスの比ではない。

 この巧妙な仕掛けに、俳優たちが非常によく貢献していることも特筆すべき点である。誰がどの程度、と記すのもネタを明かす危険があるので触れないが、とにかくひとつひとつの台詞や表情をなるべく記憶に刻みつけておくと、観終わったときの印象の変化に唸らされること必至だ。

 とにかく、1回で驚きも感動も味わえる作品を欲する人にはお薦めできないが、ミステリ的な趣向のある映画が好きという人にはいちど、それでいまいち納得がいかないなら2度観て欲しい、と言いたくなるような、実に手の込んだ作品である。その周到さに理解が及んだとき、ラストシーンの不器用な、それでいて洒落たひと幕は、爽快な余韻をもたらしてくれるはずだ。

 仕掛けには直接抵触しない――ある種の仄めかしにはなっているが――部分で印象に残るのは、映画脚本に関する、登場人物たちの言動だ。

 比較的早い段階で、クリフの執筆した脚本が、現在別の脚本家によって手直しを受けている、という話が出てくるが、それに対してニックは「自分の信念を他人に書き換えさせるべきじゃない」と諭す場面がある。以後もときおり交わされる、映画製作、とりわけ脚本についてのやり取りは、初期は脚本専業として、のちに監督も兼任する形で映画業界に携わり、大作の監督として登用されながら、ふたたび小規模の作品に舞い戻った本篇の監督兼脚本担当デヴィッド・トゥーヒーの偽らざる心情を窺わせて興味深い。

 プログラムによれば、次回作はどうやらふたたびヴィン・ディーゼル演じるリディックの新たな物語を手懸けることになるようだが、願わくば本篇で滲ませたような“愚痴”をもうちちどこぼすような結果にならないことを。

関連作品:

ピッチブラック

ビロウ

リディック

バイオハザードIII

THE 4TH KIND フォース・カインド

ヒットマン

グラインドハウス

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