原題:“13” / 原作・脚本:エカシット・タイラット / 監督・脚本:マシュー・チューキアット・サックヴィーラクル / 製作:プラッチャヤー・ピンゲーオ、スカンヤー・ウォンサターパット / 製作総指揮:ソムサック・デーチャラタナプラスート / 音楽:キティ・クレマニー / 出演:クリサダ・スコソル・クラップ、アチタ・シカマナ、サルンヨー・ウォングックラチャン、ナターポン・アルンネトラ、フィリップ・ウィルソン、スクルヤ・コンカーウォン / 配給:FINE FILMS×熱帯美術館 / 映像ソフト発売元:FINE FILMS
2006年タイ作品 / 上映時間:1時間54分 / 日本語字幕:? / R-15
2007年6月9日日本公開
2008年1月1日DVD日本盤発売 [bk1/amazon]
公式サイト : http://www.level-13.jp/ ※閉鎖済
DVDにて初見(2010/02/27)
[粗筋]
楽器製造の会社で営業をしているプチットは追い込まれていた。抜け目のない同僚に得意先を奪われ3ヶ月連続で営業成績は下落、持っていた車をローンの滞納で差し押さえられ、ついには解雇を宣告された。
実家も生活は困窮しており、電話がかかってきたかと思えば、弟の学費を無心してくる。何とか送金する、と約束したが、宛など一切ない。絶望に打ちひしがれていたそのとき、聞き慣れない、耳障りな着信音が響き渡った。
通話相手は自らの素性を語らず、プチットが大きなチャンスを得たことを告げる。これから提示するゲームをクリアすれば賞金がもらえる。ステージは全部で13、すべて達成すれば、1億バーツも夢ではない。
半信半疑のプチットだったが、最初のゲーム――彼のいた階段室に飛んでいたハエを新聞で潰すだけ――の簡単さと、自らの窮状故に、安易に提案に乗ってしまう。だが、立て続けに繰り出される指令の数々は、急速に凶悪なものへとエスカレートしていった……
[感想]
特異な閉鎖状況での駆け引きと、異色の行動原理を持つ犯罪者との行き詰まる駆け引きを描いた『SAW』が世界で話題を博したのは2004年のことだった。本篇の製作が2006年であることを思うと、恐らく『SAW』という作品の持つ残虐性、人間の本質を問うテーマ性などに触発されていることは想像に難くない。
発端となるアイディアは『SAW』に較べると地味だが、しかしかなりの魅力を感じさせる。突然ゲームを提案され、その内容はごく単純、しかし賞金は高額。折しも金銭的な悩みに直面していた主人公はあっさりと引き込まれ、次第に過酷となっていくゲームの題材に、常軌を逸していく……出だしが異様で推移は明白、サスペンスや『SAW』のようなシチュエーションに関心を抱かせるスリラーを好むような人ならば確実に食指を誘われる題材である。
残念なのは、そのアイディアの面白さを味わわせるうえでの配慮が行き届いていないことだ。次第にエスカレートしていく、というわりには、かなり序盤にえげつない“ゲーム”が提案されてしまうため、そのあとの“ゲーム”が全般に色褪せて感じられる。また、それぞれのゲームで提示されたものがその後のゲームでの選択肢に何かしら影響を及ぼす、伏線になっている、といった工夫もされておらず、ゲームそのもののインパクトと描写以外に牽引する力がないのがもったいない。深いテーマ性なり、ゲームを仕掛ける側の悪意なりを感じさせるものがないので、全体として観ると計算が行き届いていないと感じられる。
ゲームに直接関わらない人物たちの言動や配置にもいい加減さが見受けられる。序盤の“ゲーム”に何も知らず巻き込まれた人間がそれぞれ別々に警察を訪れ訴えを起こす、という場面があるが、別々の相談がほぼ同じ窓口に持ち込まれている奇妙さもそうだし、この時点では主人公の同僚はともかく、あとから来た人々には訴えるほどの恨みはないはずだ。その後の警察の動きや報道の流れもさることながら、主人公を導く“ゲーム”に繋がっていく人々の行動にも奇異な部分が多く、ほとんどがあまり解明されることなく終わっているので、消化不良な印象を残す。
何よりもまずいのはクライマックスだ。ある種のサプライズが仕掛けられているが、あれが驚きとして成立するためには、やはり伏線が必要だっただろう。確かに観た瞬間は驚くが、悪い意味で騙された、という感想を抱くことは避けられない。
着想はいいし、個々のゲームのアイディアも、ひとりの人間を追い込み、じわじわと狂気の淵に叩き落としていく、という意味では見事なものだと思う。だが、その構成や、それらが深みを増すための配慮に欠いたがために、歪な形になってしまった。土着的な雰囲気を湛えながらもスタイリッシュな映像作りなど、荒削りな魅力はあるが、その可能性や意欲を買うことのできる観客でないと、納得できないかも知れない。
関連作品:
『マッハ!弐』
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