『レイクビュー・テラス 危険な隣人』

レイクビュー・テラス 危険な隣人 [DVD]

原題:“Lakeview Terrace” / 監督:ニール・ラビュート / 脚本:デヴィッド・ローへリー / 製作:ウィル・スミス、ジェームズ・ラシター / 製作総指揮:ジョン・キャメロン、デヴィッド・ローへリー、ジョー・ピキラーロ / 共同製作:オリー・ウォインスキー / 撮影監督:ロジェ・ストファーズ,NSC / プロダクション・デザイナー:ブルトンジョーンズ / 編集:ジョエル・プロッチ / 衣装:リネット・メイヤー / キャスティング:へイディ・レヴィット,CSA / 音楽:ジェフ・ダナマイケル・ダナ / 出演:サミュエル・L・ジャクソンパトリック・ウィルソンケリー・ワシントン、ロン・グラス、ジャスティン・チェンバース、ジェイ・ヘルナンデス、ロバート・パイン、キース・ロネカー、エヴァ・ラルー、マイケル・ランデス、レジーン・ネヒー、ジェイション・フィッシャー、キャレブ・ピンケット / オーヴァーブルック・エンタテインメント製作 / 映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間50分 / 日本語字幕:?

2009年8月5日DVD日本盤発売

2010年4月16日DVD日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

DVDにて初見(2010/04/13)



[粗筋]

 クリス・マットソン(パトリック・ウィルソン)と妻のリサ(ケリー・ワシントン)はカリフォルニア州の住宅街レイクビュー・テラスに念願の我が家を手に入れる。リサの父親ハロルド(ロン・グラス)からの援助を受けてやっと手が届いた家であるが、たとえそれでもクリスたちにとっては我が家に変わりなかった。人生設計に基づいて、明るく幸せな生活を手に入れる端緒になる――はずだった。

 マットソン家の隣には、地元の警察官エイベル・ターナー(サミュエル・L・ジャクソン)が暮らしていた。3年前に妻を喪い、単身セリア(レジーン・ネヒー)とマーカス(ジェイション・フィッシャー)という子供ふたりを育ててきた彼は、極めて厳格な性格であり、異様なほど自らの人種に誇りを抱いている人物だった。

 白人の夫に黒人の妻、というマットソン夫妻に対する風当たりはもともと弱くなかったが、エイベルはそんなふたり、特にクリスに対して最初から敵意を仄めかす。最初は話し合いで解決できると思っていたクリスだったが、エイベルの狷介な気性を前に、相容れる可能性が低いことを悟る。

 クリスと義理の父との緊迫した関係、それにエイベル自身が抱えこんだトラブルも拍車をかけて、両家の関係は急速に悪化していった……

[感想]

 日本でもしばしば報道を賑わせる、隣人トラブルを題材とした映画である。どの国でも、価値観や生活形態のちがいがもとで致命的な不和を起こしてしまう、という話はあるもので、そういう意味では極めて直感的に理解しやすく、国境を問わず通用する話になる

 ――かと思いきや、本篇の場合、仲違いを起こすそもそものきっかけが、あまりに定石から外れていて、ちょっと困惑する。言ってみれば本篇における騒動の張本人は優生学の信奉者、と捉えることが出来るが、一般的なイメージだと白人を使いそうなところを、本篇では黒人にしている。

 なぜサミュエル・L・ジャクソン演じる隣人がこういう考えの持ち主になってしまったのか、その理由はきちんと描かれているのでさほど違和感はないのだが、しかし困惑は禁じ得ないだろう。
 だが、そういう珍しい切り口を用いているわりには、サスペンスとしてはいささかストレート過ぎて地味な印象があるのが惜しい。次第に溝を深めていく過程、急激に険悪な雰囲気が募っていくさまは実に堅く綴られているし、その変化に呼応するように、カリフォルニア大火災の被害が迫ってくる状況を織り込んでいるのは巧みだが、あまりに綺麗にまとまり過ぎてしまった感がある。

 とはいえ、そうした嫌味はほとんど、設定の特異性、魅力のわりには、という想いから来るもので、サスペンスとしてのハラハラ感は優秀だ。血は流れないが、いつ臨界に達してもおかしくないと思える緊張感、人物関係の巧みな扱い方が導く摩擦の焦燥感は秀逸で、少なくとも観ている間は退屈することがない。

 やはりサミュエル・L・ジャクソンという俳優の存在感は逸品で、彼の持ついい意味での胡散臭さ、拭いがたい怪しさ、圧倒的な役者としての色気が、隣人の人物像に説得力を与え、作品に芯を通している。こいつならこのくらい突き抜けていても不思議じゃない、と思わせてしまうのはさすがだ。対するパトリック・ウィルソンケリー・ワシントンも、肌の色を超えてはいるが根は凡人、という夫婦を丁寧に演じて感情移入を誘い、サスペンスに強度を与えている。

 あまりに特徴的な設定のわりには素直すぎ、こぢんまりとまとまってしまった感は否めないが、少なくとも観ている間は異様な緊迫感と、先の読めないスリルが味わえる、サスペンスの佳品である。

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