原題:“How to Train Your Dragon” / 原作:クレシッダ・コーウェル(小峰書店・刊) / 監督&脚本:クリス・サンダース、ディーン・デュボア / 脚本:ウィル・デイヴィス / 製作:ボニー・アーノルド / 製作総指揮:クリスティン・ベルソン、ティム・ジョンソン / プロダクション・デザイナー:キャシー・アルティエリ / 美術監督:ピエール=オリヴィエ・ヴィンセント / 視覚効果スーパーヴァイザー:クレイグ・リング / ストーリー責任者:アレサンドロ・カーロニ / キャラクター・アニメーション責任者:サイモン・オットー / ステレオコピック・スーパーヴァイザー:フィル・マクナリー / 特殊効果責任者:マット・ベア / 音楽:ジョン・パウエル / 声の出演:ジェイ・バルシェル、ジェラルド・バトラー、クレイグ・ファガーソン、アメリカ・フェレーラ、ジョナ・ヒル、クリストファー・ミンツ=プラッセ、T・J・ミラー、クリステン・ウィグ / 声の出演(日本語吹替版):田谷隼、田中正彦、岩崎ひろし、寿美菜子、淺井孝行、宮里駿、南部雅一、村田志織 / 配給:Paramount Pictures Japan
2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:桜井裕子 / 吹替翻訳:岸田恵子
2010年8月7日日本公開
公式サイト : http://www.hick-dragon.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2010/08/16)
[粗筋]
ヴァイキングたちの暮らすバーク島、ここには深刻な“害獣”が存在する――ドラゴンだ。
飼育する羊を奪われ、仲間を多く犠牲にしているヴァイキングたちのあいだでは、ドラゴンと戦い倒すことが英雄の条件となっている。一族の長・ストイック(ジェラルド・バトラー/田中正彦)の息子であるヒック(ジェイ・バルシェル/田谷隼)もまた英雄を目指すひとりだったが、父を含め、周囲の誰ひとり彼には期待をかけていない。およそヴァイキングの一族とは思えないほど華奢な体格で、動くことよりも発明することのほうが好きな変わり者だったからだ。
しかし、どうしても現状を脱却したいヒックは、ドラゴンによる襲撃のあった晩、お手製の砲台を運んで、岬に登っていった。狙うは、未だ誰も倒せず、その正体もよく知らない種族ナイト・フューリー。慎重に狙いを定めたヒックの一撃は、見事に的を射止めた。錐揉み状に飛んでいった個体は、近くの森の中に落ちていった。
自身の武勇伝を語っても、相変わらず信じようとしない父や周囲の人々に苛立ちながらも、ヒックは翌る日、自分の戦果を確かめるべく森の中に入っていく。奥深くにある池のそばに、それは確かにいた――傷ついてうずくまる、今までに見たことのない姿形をしたドラゴンが。
ドラゴンは、投擲の縄が絡まって、ヒックに気づきながらも動けずにいた。ここでトドメを刺し、心臓を持ち帰れば、父親も認めてくれる。一人前の男として、ヴァイキングの仲間入りが出来る。そう思い、ナイフを構えたヒックだったが、どうしても刺せなかった。代わりにヒックはそのナイフで、ドラゴンを縛めていた縄を切ってしまった。
解放されたドラゴンは、だがヒックを襲うことはなかった。何故か心許ない羽ばたきで空を舞い、どこかへ逃げてしまう。このときヒックは、ドラゴンもまた自分に怯えていたのではないか、と直感する。
そして、このときから、ヒックの中で何かが変わっていった。
[感想]
子供にも解りやすい物語、を志すと、普通はオーソドックスな内容になってしまう。どれほど独創的な端緒を設定したとしても、それはなかなか抜け出せないジレンマだ。この壁を乗り越えて、観客に強い印象を与えるためには、物語の世界観や背景をよほどユニークに、唯一無二のものに仕立てるか、オーソドックスさを覆い尽くすくらい丁寧なディテールを構築するか、ぐらいしかない。最近では、前者の好例は間違いなく『アバター』が挙げられるが、後者の優秀な一例になり得るのが本篇だ。
敵対していた種族との交流が、主人公の心境に影響し、やがて大きな事件へと繋がっていく、とごく乱暴に要約するとそんな粗筋になるが、これは『アバター』も同じだと言っていい。あちらは舞台となる異星パンドラとそこの生態系を緻密に作りあげ、「ここにいたい」「いつまでも眺めていたい」と思わせる異世界を体感させてくれるが、本篇は現実と地続きのところに構築された空間に“ドラゴン”という異物を、とことん細部を丁寧に築きあげて填め込み、ファンタジーながら何処か馴染みのある世界を描き出している。心地好い虚構性を保ちながらも、決してまるっきり別世界の出来事とは思わせない、絶妙なリアリティを醸成しているのだ。
それに加え、本篇は構成が非常に優れている。冒頭、ヒックたちの島がドラゴンに襲撃されている場面から始まるが、この短いシークエンスでヴァイキングとドラゴンとの関係、一族の中でのヒックの立ち位置に、父親との微妙な繋がりまで描ききり、スムーズに傷ついたドラゴンとの邂逅へと話を運ぶ。この調子で物語の展開に終始淀みがない。細かな笑いの要素や、トゥースが見せる意外な愛嬌で軽い変化を加えつつも、ほぼノンストップで約90分、観客を牽引し続ける。程良い尺が奏功しているのも事実だが、そこまですっきりとまとめ上げていること自体が見事だ。
ドラゴンの造形の丹念さ、土台の完成度の高さなど見るべき点は多いが、個人的に特に評価したいのは、主要登場人物の心の変遷がくっきりと、共感しやすい形で描かれていることだ。
主人公ヒックは当初、一人前のヴァイキングとして認めてもらいたいあまり、誰もその姿を確かめたことのない最強のドラゴン、ナイト・フューリーを仕留めようと目論むが、いざその命を左右できる立場になって動揺し、ドラゴンと親しんでいく。そうしてドラゴンの習性を理解していったことが、中盤以降の思わぬ飛躍、そしてトラブルへと繋がっていく。そんな息子に対して見せる父親の態度や反応も、少し大袈裟な印象はあるが理に適っていて、不可避に辿り着くクライマックスを巧みに演出している。
個人的に特に評価しているのは、ヒックと共にドラゴン討伐の訓練を受ける少女アスティ(アメリカ・フェレーラ/寿美菜子)の描写だ。次代のヴァイキング候補の中でも特に優秀な彼女は、襲撃されているあいだや訓練の最中にはヒックに厳しく接する一方で、緊張が解けると寛容な態度を示す。言ってみればそれは上位に立つ者ならではの余裕ゆえだったが、ヒックがドラゴンを巧みにあしらう技を示すようになると、困惑し、次第に嫉妬と対抗心を顕わにしていく。それが同時に、ヒックへの疑念を呼び起こし、終盤の展開で彼女を重要人物の立ち位置に導いていく。この心の流れの鮮やかさは華麗でさえある。3DCGによるキャラクター造型は、未だ人間を愛らしく見せることが難しいようで、本篇のキャラクターたちも序盤は滑稽にしか映らないが、人物像が固まってくると親しみが湧いてくる。とりわけアスティに至っては、ふてぶてしくあった表情がいつしか女の子らしさを覗かせると、可愛くさえ見えてくるのだ。如何に丁寧に感情を描いてるかの証明だろう。
ストーリーの丁寧さ、ディテールの緻密さもさることながら、やはり出色は飛行シーンのこの上ない爽快感である。カメラ位置を細かに切り替え、現実ではとうてい撮影不可能な映像をこれでもかとばかりに繰り出してくる。かなり完成された脚本ながら、それでも子供っぽい、と不満を覚えるような向きでも、この躍動感、疾走感に富んだ映像には唸らされるはずだ。技術の向上と海賊版防止の必要から急速に増えてきた3D映画のなかでも、ここまでこの方式を活かしているのは『アバター』を除けば本篇ぐらいのものかも知れない。
基本的に少年少女の夢を育む良質のジュヴナイルだが、そういう狙いがあったとしても丹念に構築していけば大人でも満足させ、ファンタジーの世界に浸らせることが出来る、と証明した、珠玉の1篇である。
関連作品:
『魔法使いの弟子』
『ロックンローラ』
『アバター』
コメント
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