『野性の呼び声(2020・字幕)』

TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示されたチラシ。
原題:“The Call of the Wild” / 原作:ジャック・ロンドン / 監督:クリス・サンダース / 脚本:マイケル・グリーン / 製作:ジェームズ・マンゴールド、アーウィン・ストフ / 製作総指揮:マイケル・グリーン、ダイアナ・ポコーニー、ライアン・スタッフォード / 撮影監督:ヤヌス・カミンスキー / プロダクション・デザイナー:ステファン・デシャン / 編集:デヴィッド・ハインツ、ウィリアム・ホイ / 衣装:ケイト・ホウリー / キャスティング:デニス・チャミアン / 音楽:ジョン・パウエル / 出演:ハリソン・フォード、オマール・シー、キャラ・ジー、ダン・スティーヴンス、ブラッドリー・ウィットフォード、ジェーン・ルイーザ・ケリー、マイケル・ホース、カレン・ギラン / 3アーツ・エンタテインメント/20世紀スタジオ製作 / 配給:Walt Disney Japan
2019年日本作品 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:西田有里
2020年2月28日日本公開
公式サイト : http://movies.co.jp/yasei
TOHOシネマズ上野にて初見(2020/03/12)


[粗筋]
 ミラー判事(ブラッドリー・ウィットフォード)の飼い犬であるバックは、街でもそのやんちゃぶりで知られていた。その大きな体格で人間さえも突き飛ばし、時として欲望の赴くままにつまみ食いを働く。利口だが怒られることもしばしばで、罰として夜のポーチに置き去りにされることもいちどや二度ではなかった。
 その晩もバックはパーティを台無しにした罰でポーチに取り残されていた。そこへ、悪党が餌でバックをおびき寄せた。まんまと引っかかったバックは、木箱に閉じこめられ、業者に売り払われてしまう。
 ようやく木箱を抜け出したバックが辿り着いたのは、周囲を流氷に囲まれた甲板の上だった。その当時、一攫千金を狙う男たちで賑わっていたアラスカ州で、犬ぞりに使われるために売り払われたのである。
 バックを購入したのは、ペロー(オマール・シー)という郵便配達夫だった。アラスカ州から、労働者たちの集うユーコン州までの道程を犬ぞりで移動し、郵便を運んでいるペローは、ソリの欠員を埋める犬を捜していたのである。相棒のフランソワーズ(キャラ・ジー)には2匹調達するように言われていたが、ペローは体格の良さを見込んで、バック1匹だけを購入した。
 犬ぞりはおろか、雪山を走った経験もないバックは当初、足手まといでしかなかった。しかし、犬たちをパートナーとして尊重するペローの優しさに接するうちに、責任感に目醒め、犬ぞりとしての役割に順応していく。
 だがそれと同時に、険しくも壮麗な旅路のなか、バックはしばしば、大自然が自らに囁く声を聞くようになっていった――


[感想]
 原作は1903年の発表、というから実に100年も前の小説である。アメリカにおいて絶版となることなく刊行が継続し、映画化もこれが6度目を数えるほどに親しまれた作品であるらしい。
 原作はおろか、かつての映画化作品にも接したことがないので、出来映えの比較は出来ないのだが、恐らく原作のヴィジュアルを最も完璧に再現出来たのはこのヴァージョンなのではなかろうか。いささか人間的に過ぎるほどに聡明な主人公のバックをはじめ、中盤まで軸となる犬たちの“演技”を完璧に引き出すには、人間の動きをデータとして取り込みCGに反映させるモーション・キャプチャーの手法が最も適しているし、動物の体毛や筋肉の表現にしても、CGで限りなく本物に近いかたちで再現出来る現代だからこそ、犬たちのなかで繰り広げられるドラマを解り易く描くことが出来た。
 主人公のバックは当初、権力のある判事の家で飼われ、ときどき罰を与えられつつもほぼ放任で育てられた、我が儘な犬だった。それが攫われ売却され、犬ぞりに加えられたことで、隠れていた聡明さが露わになっていく。そしてそれと共に、次第に内なる“野性”の囁きを聞くようになる。
 こうしたバックの活躍と変化の描写は、良くも悪くも人間的だ。まるで人の心を読んでいるかのように賢い犬、というのはたまにお目にかかるが、本篇のように鮮やかな知恵を発揮するレベルになるとさすがに不自然な印象が強い。そうした“ファンタジー”を許容できないと、本篇は楽しめない。
 その点さえ飲みこむことが出来れば、本篇は最近珍しいほどロマンと昂揚感に満ちた冒険譚として堪能出来る。利口ではあるが、その知恵を自分の欲望を満たすことにしか用いなかったバックが、災難を経て売りつけられた郵便配達人たちによって、働くことの喜びを教えられる。やがて生来の聡明さを開花させると、遂には犬ぞりのリーダーまでも委ねられるようになる。トラブルがもたらす哀しみは苦く残るが、その過程はワクワク感に満ちており、正統的な冒険物語の趣が強い。とりわけ、不運を経てハリソン・フォード演じるジョン・ソーントンと出会い、アラスカの更なる奥地を目指すくだりなど、観ていて子供のように惹きこまれてしまう。
 調べてみると本篇はまったく原作通りではなく、終盤の展開に繋がる要素が脚色を施されている。前述した通り、私は原作自体未読なのできちんと比較は出来ないが、粗筋から読む限り本篇での脚色は時代的な理由ばかりでなく、作品のテーマ性の上でも正しいと思う。
 未だ人類が開拓しきっていない剥き出しの大自然の光景をCGで描いている(またはロケでの撮影にCGを加えて補っている)と覚しい映像は美しくもどこか作り物っぽさが拭えず、そこに違和感が残るものの、冒険ドラマの古典を現代に甦らせ、若い観客に届ける、という意味では文句のない仕上がりである。


関連作品:
ヒックとドラゴン
カウボーイ&エイリアン』/『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』/『ジュラシック・ワールド』/『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』/『アントマン』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス
タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』/『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』/『ジョン・カーター』/『ヒックとドラゴン2

コメント

タイトルとURLをコピーしました