監督:長瀬国博 / 原案:君塚良一 / 脚本:金沢達也 / 製作:亀山千広 / 出演:織田裕二、北村総一朗、小野武彦、斉藤暁、甲本雅裕、内田有紀、川野直輝、滝藤賢一、浅利陽介、浪岡一喜、中村靖日、板野友美、笹野高史、姜暢雄、王健軍、山根和馬、岡野真那美 / 配給:東宝
2010年日本作品 / 上映時間:1時間11分
2010年6月1日よりドコモ動画で配信開始
2010年8月7日〜13日一部劇場限定で公開
TOHOシネマズ日劇にて初見(2010/08/13)
[粗筋]
これは、長年ヒラだった湾岸署刑事・青島俊作(織田裕二)が、刑事課強行犯係係長に昇進して、初めて扱うことになった事件。
湾岸署馴染みの居酒屋“達磨”で暴行事件が発生した。被疑者は某大手広告代理店の係長・野村(中村靖日)、被害者はその部下・竹下(浪岡一喜)。単純な事件のように思われたが、ふたりともその前後の記憶がなく、両者に話を聞いても細部が明らかにならない。
加えてこの事件とほぼ同時に“達磨”店内で痴漢事件も発生していた。こちらの被疑者は大手化粧品会社の社長・堂島(笹野高史)、被害者はOLのはるか(板野友美)。
青島はこの2件を同時に捜査することとなったが、取調を続けているうちに、事件は意外な様相を呈していった……
[感想]
題名からも解る通り、本篇はもともと劇場公開を想定して作られたものではない。『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』の劇場公開に先んじて、ドコモ動画にて全12話の構成で配信されたものだ。2009年公開の『アマルフィ 女神の報酬』でも行われた企画だが、サービスの性質上、ドコモの携帯電話でないと観られないのがネックで、存在を知っていても触れることが出来ない、と歯痒い想いを抱いていた人も少なくないのではないか。恐らくはそういう意見になるべく早く対応する、という意図だったのだろう、2010年8月7日から13日の一週間、TOHOシネマズ日劇と梅田の2館のみではあるが、特別に劇場での上映が実施された。私はドコモユーザーではなかったので、折角機会を得られたのだから、と劇場に足を運んだわけである。
とりあえず、間違いなく言えるのは、映画館向けの内容ではない、という一点だ。
しかしこれは決して否定的な意味合いではない。ちゃんと、携帯電話での鑑賞を前提として作っていることを評価しているのである。
予算の都合もあったようだが、舞台は刑事課の部屋と取調室に限られ、事件現場である居酒屋の店内さえ見せない。その代わりに、登場人物の表情を主にアップで追い、会話や表情の応酬で事件の謎を手繰っていく。局所的な絵作りは、劇場の大スクリーンでは正直たじろぐほどだが、携帯電話という掌に収まるサイズのスクリーンを想定すれば正しい表現だ。
最初は取り調べを受けている者の視点から青島の表情を追ったり、次には取り調べを受ける側が終始黙秘をしている様を音楽も合わせて印象的に描いたり、と工夫を凝らしてはいるが、舞台が限られているために何話か続けて観ていると飽きる。だがこれは、それこそ携帯電話を利用して、出先などで気が向いたときに鑑賞すると考えると絶好のスタイルだ。途切れ途切れでも繋がりは理解できるし、忘れた場合に反復もしやすい。劇場で一気に観てしまうからこそ、飽きた、という印象に繋がっているだけなのである。
しかし、こうして繋げて鑑賞しても、決して出来は悪くない。むしろ人によっては、これまでに作られた劇場版よりもずっと好感を抱く可能性もある。
セットも登場人物も絞られているお陰で、本篇のムードは劇場版3作品よりもシリーズの原点であるTVドラマ版に近づいている。青島という一風変わった刑事の臨機応変な立ち回り、くるくると変化する表情の魅力がきちんと押さえられているし、脇役もそれぞれに個性が豊かで、余計に掛け合いの面白さが際立っている。この愉しさは劇場版の、オールスターキャストを極力活かそうとする作りからは失われていたものだ。
それ以上に、きちんと謎解きの醍醐味がある、という点も出色である。事件の経緯すべてを取調室のやり取りで解きほぐしていく、というスタイルを保つためにあちこち無理は生じているが、2つの異なる案件に秘められた謎が絡みあって真相に結びついていく、という筋書きは短いながらもいわゆるモジュラー形式のミステリの趣だ。画面の変化の乏しさや、情報ばかりが蓄積されていく物語に倦んでいたとしても、謎が一気に解明されていく終盤4話では目の醒めるような想いをするはずである。その事件の結末が、係長に昇進したばかりで、飄々としつつも微かな不安を抱えていた青島の心中と重なっていく組み立ても巧い。
ところどころ台詞にあざとさは見受けられるし、見せ場を作りたいがために強引に構成している部分もあって決して洗練はされていないが、『踊る大捜査線』シリーズならではの魅力に謎解きの面白さをきちんと加算していることは評価出来る。扱いとしては『踊る大捜査線 THE MOVIE 3』のプロモーションだが、それに留めてしまうには惜しい、意外な良品であると思う。
……まあそれでもやっぱり、劇場の大スクリーンで観る必然性はまったくない、と言わざるを得ないけれど。きっと『踊る3』が映像ソフト化された際に特典といった形で収録されるんでしょうし。
関連作品:
『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』
『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』
『交渉人真下正義』
『容疑者室井慎次』
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